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5 恐ろしき(?)デッドエンド

毎日投稿中です!

 私は今、メイド達に囲まれております。


「アクトバッド様はどうしてデッド様なんかと婚約をなさったのですか!?」


 このメイドさん、今、自分の雇い主を『なんか』って言いました?


「あの、親が決めた婚約ですので……」


「え! じゃあアクトバッド様は望んでなかったってことですか!」


「えっと、それは、何と言うか口に出しづらいですけれど、まあ、そうなりますね」


「えー! それってなんかぁ〜……」


「「「貴族っぽ〜い!」」」


 ……貴族ですが。


 この三人のメイド達は、左からベツロ、ロキョウ、ロジュというらしいです。イトロの先輩メイドなんだとか。


「ちょっと先輩達! アクトバッド様は私の物す!」


 いえ、イトロのものではありませんが。


「えー」


「イトロだけずるいわ!」


「そうよ!」


 と、そんな会話を目の前で聞いているデッドエンド・ビギニング・レイダウンレイル様。改めて思いました。ここのメイドはきっと、自由すぎます。そしてそれは、きっと当たり前ではなく、このレイダウンレイル領だけであるのでしょう。


「おい」


 その一言で、私は震え上がりました。なんだか、妙に、芯のある声でした。胸がギュッと圧迫されるような声でした。


「貴様」


 そう声をかけられ、私は返事をしなくてはならないのに、声を出せませんでした。

 しかし、私がこんなにも震え上がっているというのに、メイド達にとってはそうではないようでした。


 イトロがデッドエンド・ビギニング・レイダウンレイル様を、ジッ……とした冷ややかな目で見つめました。


「デッド様、酷いす。自分のお嫁さんにそんな言葉遣いをするのはおかしいす」


 おかしいのは雇い主に対するイトロの言葉遣い……というのは、今更ですね。


 デッドエンド・ビギニング・レイダウンレイル様は、イトロを睨みました。イトロも負けじと、その力強い視線に対抗し見つめ返します。


 すると、彼は諦めたようにイトロから視線を逸らし、私を見ました。そして「一時間後、部屋に来い」と、冷たく告げました。そして、屋敷へと入って行きました。


 その背中に、イトロが「意気地無し」と言いました。


 私は彼の視線から解放された安心感と共に、イトロの首が飛ばないか心配になりました。


──


「ついていかなくて、本当に大丈夫すか」


「ええ、大丈夫」


「じゃあ、頑張ってくださいす。大丈夫、怯える必要はないす。デッド様が冷たい態度を取るのは、ただ緊張してるだけすから」


「うん。ありがとう」


 イトロに背中を押され、私はデッドエンド・ビギニング・レイダウンレイル様の部屋に向かいました。


 私の部屋のドアと同じ装飾なのに、妙な重厚感を感じました。


 重厚なドアをノックしました。すると、中から「どうぞ」という声が聞こえてきました。


「失礼致します」


 私がドアを開きました。


 そこには、湯上がりのデッドエンド・ビギニング・レイダウンレイル様がいました。先程よりは柔らかい印象を持ちました。


 ……少しだけ沈黙が流れた後、デッドエンド・ビギニング・レイダウンレイル様は言いました。


「あの」


 それは、先ほどとは打って変わって、何かに怯えるような小さな声でした。


「はい」


「えっと」


「……はい?」


「いや、えっとあの、これ、ほんとのやつですか?」


「……」


「……」「……」


「……」「……」「……」「……」


「……」「……」「……」「え?」「あ、あの?」「え、あ」「え、えっと」「え、いや、あの」


「え、あの、いや、あ、あの、これほんとのやつですか?」


「えと、これ、とはなんのことですか……?」


「え、あの、この、婚約? です」


「あ、ああ、はい。本当です」


「え、え?」


「あの、はい。本物です」


「……」「……」


「え、ええ!?」


「え!? 本物! です!?」「え!? 本物ですか!?」「ほ、本物です!」「うわあ!」「え!?」


 大きな音を立てて、ドアが開け放たれました。


「見てられないす」


 メイドたちが部屋に突撃してきました。きっと、私たちのことが気になってドアの隙間から覗いていたのでしょう。


「この意気地無し!」「女々しき男!」「軟弱者!」


「デッド様は情けないす」


 メイド達にボロクソに罵られたデッドエンド・ビギニング・レイダウンレイル様は、しょんぼりとそっぽを向きました。


「アクトバッド様。私から説明をいたします」


 そう言って、ロジュが一歩前に出ました。彼女がメイド長であるらしいです。


「アクトバッド様がウダ・ヘアン王子様から婚約の破棄を言い渡された際、貴族の面々の中に一つのブームが生まれました」


「ブーム?」


「ええ。その名も、『アクトバッド様に婚約申込ブーム』です」


「なんです。そのブームは……」


「デッド様はそのブームに『興味ないね』などとやれやれ系主人公を気取っておりやがりましたので、メイド一同が画策しまして、婚約を申し込んでおいたのです。言うなれば『お母さんが勝手にロミジュリのオーディションに応募しちゃった』状況なのです」


「なんです? その状況……」


「そして、今のこの現状。デッド様にとっては『お母さんが勝手に応募したオーディションで合格しちゃったんですけど』という現状なのです」


「なんです? その現状……」


「というわけで、デッド様が困惑しているのは、我々メイドのせいなのです」


「なんです? そのメイド……」


 デッドエンド・ビギニング・レイダウンレイル様がメイド達に向かって怒鳴りました。


「お前ら! どうしてくれんの! お前らは『どうせデッド様が選ばれるわけないですよ〜w』とか言ってたじゃないか!」


「まあ、結果オーライ?」


「お前ら首にされたいのか!」


「「「サーセンした」」」


「アホ共!」


「「「は?」」」


「あっ……スー……言いすぎました……すいません」


 ……困惑。……本当に、困惑でした。


 一体何が起こっているのかよく分からないので、ここで一度、頭の中を整理することにしました。そうしないと、頭がパンクしてしまいそうでした。


──


 まず初めに、私は公爵家の令嬢としてこの世に生を受けました。そして、生まれた頃から王子の婚約者と決められていました。


 私は婚約者として誇りをもっておりました。将来はウダ・ヘアン王子と結婚し、彼を横で支えられるようになる。そんな志をもち、厳しい王妃教育に耐え続けていました。


 しかし、十七歳。学園の二年生になると、私の人生に波乱が舞い込みました。


 それは、カルピ・ヨウグという少女のことです。


 カルピ・ヨウグは私よりも位の低い一般的な貴族令嬢でしたが、あろうことかウダ・ヘアン王子と恋仲になり、また、その取り巻きである魔法省長官の息子ミザネ・マジカルバナナと王国軍最高司令官の息子ジワラ・ニクムキムからも好意を集めました。


 彼女の行っている非常識な行動について、学園の中には噂が流れ続けていました。当然、私の耳にも入ってきていました。しかしながら、私は特に危機感を感じていませんでした。なぜならば、生まれた頃からの婚約という絶対の繋がりが、そんなことで断ち切られるはずがないと思っていたからです。


 しかし、その半年後、私の危機感のなさは信じられない結末を呼んでしまいました。


 なんと、ウダ・ヘアン王子が私との婚約破棄を申し出たのです。それも、恫喝という形で。


 カルピ・ヨウグを虐めていたという、ありもしない罪を着せられ「人を虐めるような女は王妃にふさわしくない」などと罵られ、薬指を切断され。


 こんな事が起こって良いのでしょうか。国王は認めているのでしょうか。しかし、私はそんなことを確認する時間さえ与えられず、強引に婚約破棄を了承させられてしまいました。


 私は命の危機を感じ、その場を逃げ出す結果となりました。


 ──と、ここまでが私の人生における……婚約破棄編とでも呼びましょうか。波乱の前日譚です。


 そして、私は親が決めた次の婚約者、デッドエンド・ビギニング・レイダウンレイル様に嫁ぐことになったのです。


 レイダウンレイル領へやってきた私は、今まで暮らしていた公爵家との違いに驚かされました。


 一つ目に、自然しかないこと。人間がこんな自然しかないところで暮らせるのかと思うほどに。


 二つ目に、イトロというメイド。自分の雇い主に、公爵家であれば一発で処分されるような言葉遣いをするメイド。


 そして三つ目に、デッドエンド・ビギニング・レイダウンレイル様が、婚約が成立したことを知らなかったこと。


 デッドエンド・ビギニング・レイダウンレイル様は、私に言ったのです。


「この婚約は、本当ですか?」──と。


 一体、何が起こっているのですか?


 私の人生は、一体どうなっているのですか?


 振り返り、整理してみると、何となく筋が通っている気がしますが、それにしても波乱万丈過ぎではありませんか?


 私がこの状況を飲み込み、落ち着ける日は来るのでしょうか。

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