5級魔法使い D・スピカ
私は今、猛烈に興奮している。
王選抜の魔石探索のパーティーに無理に参加させてもらっただけでなく、一般の立ち入り厳禁である天領「ミノースの緑地」に初めて足を踏み入れることができたからだ!
「おい、スピカ、ただでさえ勝手に選抜パーティーに加わってるんだから大人しくしててくれよ」
隣を歩む私より20cmほど長身のベスが私にそう声をかけてきた。
ベスは私と同じ11歳。
父親が高名な戦士なので血を受け継いだベスも体力に優れ、剣技も非凡な才を持っていた。
出身地は同じ村で、幼い頃から一緒に育ったため姉弟同然だ。
「しかし、この108番が本当に臨時代行者なのか? なんだか強そうに思えないんだが・・・」
不審な目を向けているのがベスと同じ3級剣士のギータ。
ちなみ3級というのはクラスの階級で、5級が見習い初心者、4級が初級冒険者、3級が中級冒険者となっており、3級に昇級すると同時に名を与えられる。
基本的には10年はみっちり修行を積まないと3級の昇級試験には合格できない。
そのため20代後半でようやく3級になれる者が大半。
11歳ですでに3級など国全体を探しても指折り数えるほどだ。
つまり、ベスとギータはそれだけ優秀ってこと。
私はというと・・・ この春ようやく5級魔法使いになることができた。
名も与えられていないので、周囲からはクラス番号の108番と呼ばれている。
なので、スピカは秘密の名前。
この名前で私を呼ぶのは幼なじみのベスと名付け親のみだ。
「しかし、なんだってわざわざこんな危険な任務に同行することにしたんだ?」
ベスが小声で私にそう尋ねた。
「夢を見たのさ」
「また夢の話かよ。お前の予知夢はほとんど当たったことがないじゃないか、こないだだって・・・」
「それはまだ先に起こる出来事だからさ。私のユニークスキルは魔力や成長の影響を受けることがなく、最初から完成されているんだよ」
「VSだろ、その話は何度も聞いたよ。それでいったいどんな夢を見たんだ?」
私は緑に茂った木々の間からのぞく青空を見上げて答えた。
「この緑地で世界を統べる魔法使いになるための鍵を手に入れる夢さ」
「世界を統べる魔法使いねー、そういやお前は昔からそんなこと言ってたなー、誰だったかの後を継ぐとか」
「D・Sだよ。最強にして無敵、混沌に満ちた世界を統一した偉大な魔法使いさ」
「そのD・Sさんとやらも11歳の頃にようやく5級魔法使いになれたのか? 俺の知っている限りじゃ、女で高位の魔法使いといえばアサシ魔法1番隊副長ぐらいだぜ、それだって準2級魔法使いだろ。スピカがいくら頑張って無理したってそんな最強の魔法使いになんてなれっこないだろう」
「なんだよベスは11歳で才能が止まると思っているのかい」
「そうは思っていないが、おおよそ11歳で将来像はほとんど決まるって聞くけどな」
「この世界の一般常識だったら、の話だろ。いいかい、それをとっぱらうことができる鍵がここにあるんだ」
「その夢だって、何年後に実現するかわからないんだろうが」
「いいや、確かに今回の任務の話さ」
「なんでそう言い切れるんだ?」
「ベスがその格好で魔石を手にした姿をはっきり見たからだよ。その右腕には今している包帯が巻かれていた」
ベスが困った顔で右腕に巻かれた包帯をさすった。
昨晩、ケンカしたときに相手からつけられた刃の傷。
浅い傷なので2週間もすれば完治する。
「そうかいわかったよ。ただし、頼むぜー、勝手に部外者参加させて、任務も失敗となったら俺も罰せられるんだ」
「もちろん了解しているさ」
私は鼻歌まじりでそう答えた。