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囚人のジレンマ

「まず、この事件の犯人を考える上で大事となるのは、若田の偽証だ。」

「色覚異常に関する偽証でしょう?」

「まあ、そうだが、若田の偽証は犯人を剛田と言ったことだけだ。」

「犯行を見たという偽証はしていないんですか?」

「ああ、していない。


 若田は犯行をばっちり見ていたし、犯人の顔もしっかりと覚えている。」

「その証拠はあるんですか?」

「証拠と言う前に、色覚異常だから犯行を見ることができないと言う推理が暴論過ぎるんだ。」

「そうですか? 赤と緑の区別がつかなければ、草むらの上での犯行を見ることができないのでは?」

「いいや、できるさ。」

「?」

「だってだよ。


 その推理の前提は、死体が血で真っ赤っか、犯人も血で真っ赤っか、草が緑でボーボーに生い茂っている中で、音もなく殺されたことになるんだよ。


 たとえ、赤と緑の区別がつかないと言えど、人の輪郭は捉えることは出来るし、人の動きを見つけることは出来るし、音も気配も感じ取ることは出来る。


 だから、犯人の犯行を見たという若田の証言を嘘だと否定しきることはできない。」

「なるほどね。


 確かに、緑と赤の見分けをつかない人はミステリーで出てくることは多いけど、緑の絨毯に赤い血が付いていることに気が付かないとかだったわね。」

「だが、動くものの色の見分けがつかなくても、存在に気が付かないことはない。


 まあ、そういう訳で、若田は犯行を見たことは真実であり、偽証ではない。」

「じゃあ、誰が犯人なんですか?」

「いいや、犯人の確定はまだだ。若田が犯人である否定を先にしないといけない。


 まず、若田が犯人なら、わざわざ警察を呼んで証言することはない。それが例え、嘘の犯人をでっち上げることであっても、警察に認知されるリスクを考えれば、犯人は差し引きで損失と捉えるだろう。


 だから、若田の証言は正しいとしよう。実際、若田は犯人でないと後輩に言われたんだろう?」

「そうです。」

「なら、若田が犯人でないとすると、誰が犯人になり得るか考えよう。

 

 ここで大事になるのが、若田は犯人の目撃したと言う証言をいつ損失になると思ったのか?」

「?」

「じゃあ、今日のゲーム理論の復習だ。


 囚人のジレンマで、2人のプレイヤーを自白させる方法は分かるかな?」

「……拷問?」


 梨子の的外れな回答に、天神教授は溜息をつく。


「君はすがすがしいほどに話を聞いていないな。


 ……まあいい。じゃあ、簡単に解説をしよう。


 共犯関係の2人の囚人がいて、警察はその2人を隔離して取り調べをしている。警察は自白と刑期の司法取引によって、2人の囚人の自白をさせたいものとする。


 ならば、自白によって、どれだけの刑期を減らせばいいかという問題だ。


 まあ、パレート最適化とナッシュ均衡の違いを説明すべきなのだが、今回は飛ばしておこう。


 今回大事なのは、2人の囚人は、それぞれの利益が最大になるような行動をとると言うことだ。


 自白の方が利益だと思えば自白し、黙秘の方が利益だと思えば黙秘する。


 そう言った行動原理がある。


 では、今回の小説の場合はどうなるかを考えるとかなり特殊な状況となることが分かる。


 目撃証言を警察に提供することを損失だと考えていたのならば、最初から何も言わないで置いた方がいい。


 そして、目撃証言の提供を利益と考えていたならば、警察に真実の証言をすればいい。


 しかし、若田がしたのは、目撃証言を警察に証言すると言っておいて、実際は嘘の証言をした。


 この行動原理から読み取れることは、最初は目撃証言の提供を利益だと考えていたが、途中で、損失へと変わったことだ。」

「……利益が途中で損失へと変わった?


 どういうことですか?」

「まあ、正しく言えば、途中で偽証が1番利益のある状況になったということだ。」

「……偽証が利益になる状況? そんな状況があるとすれば、偽証した人間が犯人であるか、犯人をかばいたい人間であるかの2択じゃないですか?」

「それじゃあ、途中で若田が自分が犯人であると気が付いたのか? それとも、犯人をかばう理由を途中で見つけたのか?


 違うな。


 その2択以外にも、もう1つ選択肢がある。」

「……? それは何ですか?」

「目撃証言の提供相手が犯人であった場合だ。」

「!?」

「そう、この舌切り雀殺人事件の犯人は



 伴田だ。」

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