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【改稿版】骨の十字架  作者: 園村マリノ
EPILOGUE

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EPILOGUE-龍-

 六堂(ろくどう)大道芸初日に相次いだ事故は、不可解さも相まってか話題が尽きる事なく、一〇日が経過した現在でも大々的に報道されている。死者一名、負傷者二〇名超。当然ながら二日目は中止となり、それどころか来年以降の開催も危ぶまれている。

 唯一の死者は磨陣(まじん)市内在住の女性で、全身傷だらけの錯乱状態で発見されたが、その直後に息絶えたのだという。女性はTARO(タロウ)の中学生時代の同級生で、更に第一発見者がTAROのマネジャーだと判明すると、他の事故よりも話題となった。

 しかしそれら以上に世間の注目を集めたのは、他ならぬTARO自身のニュースだった。



 昼休み、磨陣高校二年二組の教室内。

 村瀬太一郎(むらせたいちろう)田中一希(たなかかずき)の三人で携帯ゲーム機で遊んでいた(りゅう)の耳に、女子生徒たちの会話が入ってきた。


「TARO、可哀想だよねー。首から下が動かなくなっちゃったなんて」


「[RED-DEAD(レッドデッド)]はどうなるんだろうね」


 ピエロとの戦いが終わった後、TAROは楼風台(ろうふうだい)内の神社で元同級生の女に襲われ、逃げる際に石段から転落。一命はとり留めたものの、頚髄損傷の重傷を負い、女子生徒の話の通り、首から下が麻痺。[RED-DEAD]への復帰は未定だという。噂によると、六堂総合病院に入院しているらしい。


「こんな事言っちゃアレだけどさ、バチ当たったんだと思わね?」


 女子生徒たちの会話に聞き耳を立てていた田中がそう言うと、村瀬も「だよな」と同意した。


日高(ひだか)も知ってるだろ? TAROのスキャンダル」


「ん……ああ」


 重傷を負い、打ちひしがれているであろうTAROに追い討ちを掛けるかのように、数日前、某週刊誌が彼の〝黒い過去〟をすっぱ抜き、更なる話題を呼んだのだ。


〝元メンバー怒りの暴露「RED-DEAD TAROの作詞はほぼ盗作」〟


〝RED-DEADボーカル 同級生を自殺・不登校に追いやった鬼畜の所業〟


 同級生の自殺に関しては、以前より一部で噂されていたものの、信憑性に欠けるとして、当初はそこまで話題になっていなかったようだ。


「不登校に追い込まれたのは、神社で襲い掛かったっていう元同級生の女らしいよな。復讐って事か」


「それ、俺も聞いたけど実際どうなんだろうな。身に覚えがないって犯行を否認していたみたいだし、未だ逮捕はされていないからな……」



 放課後、部活動のある親友らと教室の前で別れ、龍は一人帰路に就いた。


 ──田中の言う通り、TARO(あの男)には天罰が下ったんだ。同情なんて出来やしない。


 TARO重傷のニュースを知ってから今日まで、龍の意見は変わっていない。TAROがクラスメートを死に追いやらなければ、殺人ピエロの化け物は誕生せず、理人(りひと)や何人もの中高生たちは殺されずに済んだのだ。慶太(けいた)は未だに弟の死から立ち直れず、学校は休みがちだという。


 ──生きている人間だって人生を狂わされたんだ。TARO、あんたも生きながら苦しみ続ければいい……。


 そう考えてしまう自分にも嫌悪感を抱いてしまい、龍はTARO重傷のニュースを目にして以来、内心それなりに落ち込んでいた。


 ──そういや、道脇(みちわき)さんが見たっていう夢の内容って……。


 バロン・サムディとの融合が解け、気絶していた間に、道脇茶織(さおり)は奇妙な夢を見たらしい。背が低く痩せており、右目に眼帯をした男が、自殺後に成仏出来ず彷徨っていた少年の霊を唆し、ピエロの化け物へと変貌させたというのだ。


 ──夢の内容が過去に実際に起こった出来事なのだとしたら……俺たちが知らない邪悪な存在が何処かに潜んでいる、って事になるよな……?


「ひ・だ・か・くぅ~ん!」


 陽気な少女の声と忙しない足音が、龍を現実に引き戻した。立ち止まってチラリと振り向くと、駆け寄って来た大屋亜子(おおやあこ)が、龍にぶつかるギリギリの地点で止まるところだった。


「一緒に帰ろうよっ!」


「お、おう……」


 正直なところ、今の龍は誰かと会話したい気分ではなかった──特にお喋りでハイテンションな人間とは。


「ねえ日高君、今度の土曜日は空いてる?」


「……まあ一応」


「じゃあさ、今度こそ皆で集まろうよ! カラオケなんてどう? あたし、いいタイトル考えたの。『ドキッ☆ 高校生だらけの仁義なきカラオケ大会』なんてどう?」


「何で仁義がないんだよ」


「えー、じゃあボウリングにする?」


「カラオケが嫌とは言ってないだろ」


 元々速くはない亜子の歩速が更に落ちた。どうしたのかと龍が尋ねるよりも先に、亜子は真剣な口調と表情で、改めて龍の名前を呼んだ。


「何だ」


「日高君はさ、もしかして……知ってたの? 六堂大道芸で事故が起こるって」


「え……」


「ほら、前に日高君が警告してくれたでしょ、六堂大道芸は危険だって。タチの悪い人たちが集まろうとしているって話だったけど……本当はさ、日高君は、色んな事故が起こるかもって予知して、あたしに教えてくれたんじゃない?」


「……どうして……そう思うんだ」


「うーん、何となく。美少女の勘ってやつかな! なーんて」


 龍は、亜子に全てを喋ってしまっても構わないのではないだろうかと思った。非難されようが嫌悪されようが、TAROに対する本音を、このどす黒い感情を吐き出してしまえば、この心のつっかえが取れて楽になるかもしれない……。


「いや──」


 ここで吐き出さなくとも、家に帰れば全てを受け止めてくれる小さな相棒が待っているではないか。


「──そりゃ考え過ぎだ」


「アハハ! やっぱそうだよね」亜子は屈託のない笑みを浮かべた。


 ──また嘘吐いちまったけど……しょうがないよな。


「可愛い」


「……ん?」


「日高君、今ちょっと笑ったよね。可愛い!」


「はあ?」


「もう一回! 今の微笑みをもう一回!」


「何言って──」


 周囲を歩く磨陣高生たちの視線が集まる。


「ほら、スマホで撮るから! はい笑って笑って~!」


「ちょっ……こらやめろって!」


「あ、田中君と村瀬君!」


「え?」


 亜子の言う通り、後方から田中と村瀬が駆け寄って来た。


「え、お前ら部活は?」


「顧問に急な用事が出来て自主練になったから、サボった」田中はあっさり答えた。


「俺の方も今日は何か暇だったから、帰ろうとしたら田中に会ってさ。今なら日高にも追い着くかなって話してたら、日高が大屋さんとイチャ付いてるのが見えたから」


 村瀬がそう言うと、田中はニヤリと笑って「なー!」と同調した。


「ばっ……何言ってんだお前ら」


「もう二人共、わかってるなら邪魔しちゃ駄目でしょーっ!」


「ちょっ──」


「あ、(わり)ぃ悪ぃ」


「すまんな日高」


「コラ!」

 


 龍の様子を駅前の交差点付近から見守っていたアルバは、安堵し微笑んだ。

 ここのところの龍は、いつも通りに振る舞っているようでいてその実、落ち込んでいるようだった。だいたいの原因はわかっており、本人の口から語られるのを待っていたが、その様子がないのでどうしたものかと考えていた。しかし、深く心配する必要はなかったのかもしれない。


「先に帰っているわよ、リュウ」


 自らの首を小脇に抱えた少女は、クルリと身を翻すと、次の瞬間には姿を消していた。

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