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【改稿版】骨の十字架  作者: 園村マリノ
第五章

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20??年??月??日

 人生の全てに絶望し、自ら命を絶った少年の魂は、強い憎しみと怒りの感情を抱え込んだまま、霊体として何年もの間この世を彷徨い続けていた。

 少年の霊は最初のうちこそ、自分を死に追いやった者たち一人一人への復讐心からこの世に留まり続けていたが、時が経つにつれ生前の記憶は徐々に失われていった。やがては自分が何を憎み、何に怒りを覚えているのかを忘れ去り、目に付くもの全てを呪うようになっていた。

 そんな孤独な魂に、ある時、一人の男が声を掛けた。


「やあ、探したよ」


 背が低く痩せている、真っ白い髪の老人だった。右目は大きな黒い眼帯に覆われているが、少年を見やる黒目がちな左目は鋭い眼光を放っている。


「私はドロッセルマイヤー。君の事は生前に、度々様子を窺っていたんだよ。短期間で日に日に負のエネルギーが強まってゆくのには目を見張るものがあった。いやあ、しかし私の想像以上だな、これは」


 少年の霊は、ドロッセルマイヤーに殺意の念を放った。たとえ〝見えない〟人間でも、何らかの悪影響を受けずにはいられないそれをまともに喰らっても、ドロッセルマイヤーは平然としていた。


「おっと、そんなに怖い顔をしないでおくれ。私は君の味方なのだから」ドロッセルマイヤーは親しげに言うと、警戒する少年の霊にゆっくり近付いた。「復讐したいのだろう? 君を死に至らしめたクソガキ共に」


 その言葉を耳にした瞬間、少年の霊は忘れていた全てを思い出し、狂ったように泣き叫んだ。


「ああ、わかる、わかるよ。君の気持ちはよくわかる! だからこのドロッセルマイヤーおじさんが、無念を晴らすために立ち上がるだけの力を、君に与えてあげよう!」


 ドロッセルマイヤーが少年の霊に手を伸ばすと、黒いもやが発生し、少年の霊をすっぽり覆い隠した。しばらくするともやは消え去ったが、少年の霊は通常の霊とは異質なものへと変化していた。


「さ、後は自分で何とかするんだ。なに、簡単な事だ。慌てず、少しずつ力を付けていけばいい──楽しみながら、ね」

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