#5-2-3 最終決戦③
四つの青い火の玉が、茶織たちを挑発するように笑いながらあちこちを飛び回る。
茶織は舌打ちした。「あんなのに構ってらんないよ」
「だからって無視も出来ない。いきなりピエロに突っ込もうとするなよ」
「えー」
「えー、じゃない」
火の玉の一つが急降下し、三人が飛び退くと、それが合図になったかのように、残る三つも縦横無尽に暴れ出した。
龍は一番近くを飛ぶ火の玉に錫杖を振るった。火の玉は光の矢をあっさりと躱し、男か女かわからない笑い声を上げた。
──目で追うのがやっとだ。
「っ!」
背中を掠めた別の火の玉に、振り向きざまに光の矢を放つ。やはり手応えなし。アルバの球電も飛んで来たが、空中で弾けて消えた。少々離れた後方では、茶織が骨の十字架から生み出した大きな人間の頭蓋骨が、歯をカチカチ鳴らしながら火の玉を追い掛けていた。
火の玉に警戒しつつ、龍はピエロがいた方へと目をやった。
──!!
「アルバ、道脇さん、気を付けろ。ピエロがいねえ!」
「逃げたんじゃないのぉ~?」茶織が叫ぶように言う。「アイツ逃げてばっかだしぃ~!」
茶織の正面に飛んで来た火の玉が、大きく口を開けた。茶織が身構えた直後、口の中から刀を手にしたピエロが飛び出した。
ガギィッッ!!
「……そう来るとはね!」
釘バットが刀の一撃を阻んだ。
「あー良かった、間に合って! やっぱこっちの方が使いやすいんだよね」
ピエロが横に飛び退くと、その後ろから火の玉が突っ込んで来たが、茶織は紙一重で避けた。
ピエロが先端の大きく欠けた刀を放り捨てると、泡が弾けたように消え失せた。
「次は何使うつもり……っと!」
再び火の玉を避けた茶織は、釘バットを骨の十字架に戻すと、先端から赤黒く燃える火の玉を生み出した。
「目には目を、火の玉には火の玉を!」
赤黒い火の玉と青い火の玉は、互いに相手を喰らい尽くさんと、火花を散らしながら何度もぶつかり合った。
「さて、これでアンタに集中出来るかな」
「随分と余裕そうだね」ピエロの右肩付近に、小さなもやが発生した。「でも本当は、余裕そうなフリしてるだけだよね。ボクが見た限りじゃ、だいぶお疲れのようだ。ケケッ」
もやは拳銃となり、白手袋をはめたピエロの右手に収まった。
「それはお互い様じゃないの?」茶織は不敵に笑った。
茶織が召喚した頭蓋骨が、焼かれながらも火の玉を喰い散らかしている。
──あれは相討ちになるな。
それでも龍には、少しだけ希望が見えてきた気がした。
「……熱!」
喰い散らかされている火の玉から、あちこちに火花が飛び散っていた。その近くで、別の青い火の玉が赤黒い火の玉とぶつかり合って更に多くの火花を散らし、更にその奥で茶織とピエロが距離を置いて睨み合って──別の意味で火花を散らして──いる。
──ピエロの奴、銃持ってるじゃねえか……!
龍は茶織に加勢したいところだったが、残る二つの火の玉がそうさせてはくれないようだった。アルバの球電や槍の攻撃を避けつつ、隙あらば焼き尽くそうと狙っているのが、自分に向けられている目でわかった。
──出来るもんならやってみろ。
アルバが龍の元へ駆け寄り、耳打ちする。「悪いけれど、ちょっとの間ワタシを守ってくれないかしら」
「当然だ」
「上手くいったら、素敵な力を貸してあげられるから」
「え?」
アルバは再び龍から離れると、手にしていた槍を消滅させ、両手を組むと何か唱え始めた。すかさず二つの火の玉がアルバを狙う。
「させるか!」
龍は錫杖を火の玉に向けかけたが、アルバの言葉を思い出し、彼女の方へと光を放った。
──守る。
シャン。シャン。
遊輪の鳴り響く音は、これまでよりもずっと優しく聞こえたような気がした。放たれた光はアルバを痛め付ける事はなく、ドームのように体を覆うと、直後に突っ込んで来た二つの火の玉を弾き返した。
安心するのも束の間、二つの火の玉は龍に狙いを定めた。弾かれた影響か二回り以上は小さくなっているが、凶暴さは何ら変わっていないようだ。
龍は錫杖を軽く一振りし、自分の周囲にも防御壁を生み出したが、それはあまりにも薄く、今にも消えてしまいそうだった。
──二人分は無理なのかよ!?
大きく口を開いた二つの火の玉が、それぞれ異なる方向から龍に迫る。
──避けられねえ!
絶望的な思いに反して、龍の体は自然と素早い動きで火の玉を回避していた。
──ん?
二つの火の玉は正面衝突し、小爆発を起こすとあちこちに火花を散らした。龍は咄嗟に腕で顔を庇った。
「有難う、リュウ。お陰で集中出来たわ」
「アルバ」
龍は顔を上げると、相棒の元へ走った。爆発した二つの火の玉だけでなく、残るもう二つと、頭蓋骨や赤黒い火の玉も、既に消滅しているようだった。
「もしかして助けてくれたのか?」
「魔法を掛けたの。しばらくの間、リュウの身体能力が格段に上がる補助魔法をね」アルバは微笑んだ。
「そうか……だから今、火の玉を躱せ──」
乾いた破裂音が響いた。振り向いた龍が最初に目にしたのは、膝から崩れ落ちる道脇茶織の姿だった。




