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【改稿版】骨の十字架  作者: 園村マリノ
第四章

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#4-3-2 追跡②

 龍、那由多、緋雨の三人は、サーカステントの残骸から離れた場所で、ピエロの行方の手掛かりを探していた。


「もう少し進んだら行き止まりですよ」龍は数十メートル先に見える白い仮囲いを指差した。「まさかあの向こうとか?」


「何処かに途切れている部分があるのかも」


「ここから見渡した限りでは隙間の一つもないぞ」


「もしくは、仮囲い自体に仕掛けがあるとか。行ってみよう」


 三人は仮囲いまで来ると、手分けして一枚ずつ直接触れたり目視で確認した。


「……何の変哲もなさそうだね」


「こっちも特に何も」


「単純に行き止まりという事か」


 後方で茶織がぎゃあぎゃあ文句を言っているようだが、何も聞かなかった事にした。


「捕まってる人たちが心配だ」那由多は不安そうに呟いた。


「そうだな。ところで那由多……お前たちが対峙した六人はどうだった」


「ああ、ピエロのお面の? 脳筋タイプだったよ。思っていた程体力がなかったみたいで良かった」


「我は見た目から中身までとことん筋肉な男たちと対峙したぞ」


「お疲れ様」


「木なんてどうです? ここら一体、何本か細いのが生えてますけど」龍が一番身近な枯れ木を指差して言った。


「うむ、調べるか」


 龍と緋雨が去ると、那由多は一番最初に目に入った枯れ木へと近付き、そっと触れた。


 ──地下通路への入口があるとか?


 ふと、至近距離から気配と視線を感じた那由多は、何の気なしにそちらを向いた。


「……っ!!」


 気配の主は緋雨でも龍でもなかった。ほんの目と鼻の先に、カジュアルスーツ姿の若い女がこちらを向いて立っていた。その顔は真っ黒いもやのようなものに覆われ見えなくなっている。


「莉緒華さん……?」


 那由多は戸惑いこそしたが、恐怖は感じなかった。相手から悪意は感じられなかったからだ。


「莉緒華さんは……どう思います?」那由多は落ち着いた口調で尋ねた。「ピエロたち、何処に消えたのかなって」


 女は無言で頭上を指差した。


「……空?」


 強い風が吹きつけた。那由多が一瞬目を閉じ再び開けた時には、女の姿は消えていた。


「ナユタ、そっちはどう?」


 サーカステントの残骸周辺を調べ終えたのか、アルバがやって来た。その五、六メートル後方では、茶織が釘バットで素振りをしている。


「茶織さん左打ちなんだ」


「え? ……ああ」アルバは振り向き微笑んだ。「ちなみリュウはスイッチヒッターなのよ」


「へえ、器用だな……って、今はそれどころじゃなかった! もしかしたらですけど、わかったかもしれません。ピエロたちが何処へ消えたのかが」


「マジ? 何処にいるって?」


 茶織の声に反応し、龍と緋雨も駆け寄って来た。


「見付かったか」


「あ、まあ多分なんだけど……」


 那由多が赤錆色の空を見上げると、一同はつられて顔を上げた。


「まさか上空にいると?」龍は顔をしかめた。


「ほんと趣味の悪い色! センスゼロだろアイツ」茶織は鼻で笑った。


「那由多よ、何故そう思うのだ」


「教えてくれたんだ……あの人が」


「……そうか」


 誰の事を言っているのかわからなかったが、二人の雰囲気から、龍は聞かないでおく事にした。茶織が空気を読まずに聞き出そうとするのではないかと思ったが、彼女の興味は既に空の方に向いているようだった。


「え、何、空飛ぶの確定なわけ?」


 ──嬉しそうだな。


「ん? 何、リュウ子。アタシの顔に死相出てる?」


「出てない。それとその呼び方やめろ」


「でもどうやって飛ぶの? このメンバーで飛べるのはカラス姿のヒサメだけじゃなくて?」


「それなんだよな……」那由多は頭を抱えた。


「んなの簡単でしょ。緋雨がカラスに戻って、一人ずつ運ぶ。勿論最初はこのアタシ!」


「馬鹿言うな。小石を運ぶのとわけが違う。効率も悪い。だいたい空と言っても何処から──」


「ねえ皆、あれ」


 那由多が遠くの方の空を指差した。二〇メートルも離れていない、サーカステントの残骸寄りの位置に浮かぶ雲と雲の間に、大きな渦が発生していた。


「あの中に入ればいいってわけか! ほら緋雨!」


「ほらじゃない!」


「とりあえず行ってみましょう」


 アルバが言うや否や、茶織は「おっしゃ!」と笑顔で走り出した。


「やれやれ……とっととピエロを倒し、元に戻さんとな」


「ああ。じゃないと俺たちの身が持ちそうにない」


 緋雨と龍は互いを労うように頷き合った。


「あら、ワタシは今のサオリが結構好きね」アルバがのんびり言った。「本来のサオリも好きだけれどね。でも本来のサオリの誰も寄せ付けないような雰囲気、生まれ持った性質じゃない気がするのよね」


「つまり、育った環境が原因?」


「そうね」


「そういや、初めてサムディ以外の全員で会った時、チラッと言ってたよな。家族は叔父一人だけだって」


 龍は〈わかばおかフラワーランド〉でのやり取りを思い出しながら言った。たった一週間前の出来事なのに、かなり前のように感じられるのが不思議だ。


「綾鷹さんだよね」


「ええ。親はいないとも話していましたが、その時の茶織さん、心なしか不機嫌そうというか、思い出したくもないって顔をしているように見えたのを覚えています。まああの人、いつも不機嫌そうな感じですけど……。もしかしたら、ご両親は健在でも、茶織さんとは不仲なのかもしれない」


「龍君、よく見てるよね」


 那由多が感心したように言うと、龍は慌てた。


「え、いや、別に変な意味は」


「ああ、俺も変な意味じゃなくて。龍君は俺よりずっと観察眼が鋭いし、行動力もあるよね。今回のピエロの殺人だって、自分で調べ回って被害者が何人もいるって突き止めたんだし。凄いなって」


「そ、そんな事はないですよ……」龍はほんのり頬を赤らめた。


「ちょっとちょっとー! 何してんのさー!」渦の真下に立った茶織が大声を張り上げた。


「ごめん、今行くよー!」


 那由多が応えると、茶織はまだ何か言おうとしていたが、ふと何かに気付いたように渦を見上げた。


「どうした」


 茶織は仲間たちに向き直ると、ニカッと笑い、


「先に行く!」


「何だって?」


「あら、あれ見て」


 アルバが渦を指差した。渦は右回りにゆっくり回転を始めていた。


「遅れないでよね!」


 茶織が釘バットを持った右手をピンと伸ばして上げると、直後、その体がゆっくり浮き上がった。


「え、何あれ!?」


「あの渦が吸い込んでいるのよ」


 渦の回転が速くなり、地上一〇メートル付近まで浮き上がった茶織は、あっという間に吸い込まれていった。


「もっと他になかったのかよ……」


「まったくだ。そもそも我らは、空から落ちて来たのではなかったか」


「何かもうほんとに滅茶苦茶だね。ちょっと笑えるけど」


「ほら、早く行かないと消えちゃうかもしれないわよ」アルバは既に先へ進んでいた。「なかなか楽しそうよね。ワタシは二番目ね。ウフフ」


 残された男性陣はもう何も言わず、アルバの後を追った。

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