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【改稿版】骨の十字架  作者: 園村マリノ
第四章

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#4-2-2 殺人サーカス②

「ん……あった、ここだ」


 茶織は、だだっ広い空間の最奥のタイル壁を触れ、仲間たちに示した。触れた部分とその周辺がグニャリと歪んでいる。更に掻き分けるようにすると穴が空き、天井は高いが二人並ぶと少々狭く感じられそうな狭い幅の、薄暗い通路が出現した。


「首を洗って待ってな、道化野郎」言うや否や、茶織は通路へと姿を消した。


「待てってば」龍は後を追い、数メートル進んだ先で茶織の腕を掴んだ。「危ねえぞ」


 振り向いた茶織の顔には、からかうような笑みが浮かんでいた。


「へえ、心配してくれるんだ? 紳士ぃ~!」


「そりゃあ当然だろ……あんたは死にかけたんだから尚更」


「え、アタシが? いつよ」


「……覚えてないのか?」


 茶織が僅かに首を傾げると、龍の顔は曇った。


「じゃあ……あの約束も?」


「二人共大丈夫ー?」


 那由多たちが顔を覗かせ、こちらの様子を窺っている。


「リュウ、危ないから勝手に行っちゃ駄目だって、何回言ったらわかるの?」


 アルバの声はあくまでも穏やかで、微笑みすら浮かべていたが、龍は今まで経験した事のないような圧やら念やらを感じ取った。


「あ、ああ……気を付け、ます……」


 五人全員が集まると、茶織を先頭に再び歩き出した。平坦な一本道に足音が反響する。


「何も出ないじゃん。つまんないの」茶織が子供のような口調でぼやいた。


「出て来られたって困る。こんな狭い所じゃ武器振り回せないだろ」


「まあ確かに、アンタの女の子みたいな可愛い顔にヒットさせるわけにもいかないもんねえ!」


「お、女? 何言って……おい待てって、危ねえから!」


 笑いながら走り出した茶織を、龍は慌てて追い掛けた。そんな二人の様子を眺めながら那由多が、


「茶織さん……ほんとすっかり別人みたいだよね……何だか変な感じ」


「まったくだ。あれじゃあ却って調子が狂う」緋雨は溜め息混じりに同意した。


「リュウってば、敬語使うのも忘れているわね」アルバは楽しそうに言った。


 茶織が急に速度を落とした。行き止まりだった。


「一本道だったよな」


「絶対に出口があるはず。さっきみたいにさ……これ邪魔」


 茶織が釘バットとリュックを足元に放り両手で壁を探り始めた。龍も一番近い場所を調べ、後からやって来た三人も続いた。


「というかこれ、見たり触ったりするだけでわかるものなの?」那由多は隣の緋雨に尋ねた。


「〝見える〟人間ならわかるはずだ。明らかな違和感がある……いや待て」緋雨は一旦手を止めると地面を指差した。「壁だけとは限らんぞ」


「確かにそうね。リュウ、お願い出来るかしら」


「ああ……って待て待てやめろ!」


 片足を壁に引っ掛けようとする茶織に気付いた龍は、無理矢理引き剥がした。


「いや逆にさ、上かもしれないって」


「だからって危ない真似はするな! つうか登れねえだろ」


「んなもん、やってみなきゃわかんないでしょ。ほんと心配性」


「あのな……」


「はいはい、んじゃこっちにしますよーだ」


 呆れて立ち尽くす龍をよそに、茶織は片膝を突いて地面をペタペタと触り始めた。

 龍も茶織と同じ姿勢になり、地面に触れた。大理石調になっており、少々ヒンヤリする。

 ふと気付くと、茶織がこちらをじっと見ていた。


「……何だよ」


「 約束なら覚えてる」


「え?」


「クソ生意気で身勝手な人殺し道化野郎をさ、一緒に倒すって話でしょ。アタシとアンタで」


「……ああ」


 龍は内心安堵し、ほぼ無意識に微笑んでいた。口調が変わろうと少々子供っぽくなっていようと、やはりこの女性(ひと)は道脇茶織なのだ。新たな人格が生まれたのだとアルバから聞かされた時は驚いたし、行動を共にしているうちに、ひょっとすると、茶織本来の人格が戻らなくなってしまうのではないかという不安も生じていたが、きっと大丈夫だ。


「そんでもって裸にひん剥いて色々してやるんだよね」


「やらねえよ。記憶を改竄するな」


「えー、そうだっけ。おかしいなあ」


 ──ちょっとでも感動した俺が馬鹿だった。


 龍はニヤニヤ笑う茶織から目を逸らし、作業に集中する事にした。

 程なくして、茶織たちと同じように地面を探っていた緋雨が何かに気付き、手を止めた。


「恐らくここだ」ある一点を拳でコツコツと叩く。「異様に熱を帯びている」


「緋雨、地面に穴開けるの?」那由多が後ろから覗き込んだ。


「そうなるな」


「モグラみたいに地中を進む事になる?」


「あるいは地下深くに落ちるかもしれんな」


「はいはい、どいたどいたーっ」


 嬉々としてやって来た茶織の両手には、釘バットが握られていた。

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