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【改稿版】骨の十字架  作者: 園村マリノ
第三章

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#3-2 死んだはずの……①

 六堂町一丁目。 

 駅周辺に異常が見当たらなかったため、龍とアルバは大型ショッピングモール〈FOUR SEASONSフォーシーズンズ〉まで移動した。


「TAROが目的なら〈FOUR SEASONS〉内に何か仕掛けるって事はないだろうけどな……」


 開店時間の一〇時まで三〇分弱あるため、〈FOUR SEASONS〉の全ての出入口にシャッターが降りているが、周囲には既に十数名の客が待機していた。


「この辺りでも大道芸が行われるんですか?」


「ああ。それとこの近くの広場に模擬店が出る」


「こんな事態じゃなければ、一緒にゆっくり見て回れたのに残念です」


「大道芸に興味あるのか?」


「ええ、少しは。それ以上に、二人だけでお出掛けしたかったなって」


 龍は微笑み、アルバの頭を優しく撫でた。

 広場では洋風屋台やワゴンが開店準備中だった。龍とアルバは、行き交う人々の間を警戒しながら進んで一周し、この場にも異常がない事を確認すると、〈FOUR SEASONS〉とは逆の春日町方面へと向かった。小さなビルやマンション、アパートが中心に建ち並ぶ路地を進んでゆく。


「ピエロを倒して時間に余裕があったら、先程の広場にあったクレープの屋台に寄りたいです」


「呑気だな。下手すりゃ俺たち、生きて帰って来られないかもしれないんだぞ」


「リュウさんこそ、そうおっしゃる割には余裕がありそうに見えますよ」


「お前の力を頼りにしてるからな」


「あら、それは裏切れませんね。ウフフフ」


 龍は内心複雑だった。自分は霊感があるだけのただの人間とはいえ、何もかも相棒に頼り切るのには抵抗があった。ボディバッグに折り畳みナイフを忍ばせてはいるが、そもそも化け物に刃物は通用するのだろうか。

 龍はパーカーのポケットから、緋雨の黒い羽根を取り出した。待ち合わせ中、道脇茶織の到着を待つ間に那由多がくれたもので、魔力や霊力が極端に高まった場所で役立つらしい。しかし、どのように役立つのかは、那由多も知らないようだった。


 ──緋雨を疑うわけじゃないが、これをどうやって……?


「リュウさん止まって」


 龍はハッと顔を上げ、歩みを止めた。「どうした?」


 アルバは答えず、何処かをじっと見やっている。その視線を辿ると、異様な光景が目に入った。

 前方の短い横断歩道を渡った二、三〇メートル先、鉄筋コンクリート造で外壁のあちこちにヒビが入った三階建てのビル。その入口前の駐車スペースに、人ならざる者たちが五体、焚き火を囲んでいるかのようにしゃがんで集まっていた。人影がそのまま実体化したように全身が薄黒く、顔にはパーツがない。


「あれは……何なんだ?」


「悪鬼、とでも呼びましょうかね。生者には害しか及ぼしません。こんな街中に複数体存在するなんて、なかなかない事ですよ」


「ピエロ、か」龍は眉をひそめた。「あいつらは……どうにかしなきゃ駄目なのか?」


「どうにかした方がいいと思いますよ。ピエロとは関係なかったとしても、ああいう存在を野放しにしておくのはまずいでしょう」


 角を曲がって現れた女性が、すれ違いざまに怪訝そうにこちらを見やったが、龍には周囲の視線を気にするだけの余裕はなかった。


「それじゃ、ちょっくらやってみましょう。さあ、行きますよリュウさん」


「ちょっくらってな……」


 横断歩道を渡り切らないうちに、悪鬼たちは二人に気付いた。しゃがんだままこちらを向いていたが、ある程度距離が縮まるとゆっくりと腰を上げ、パーツのない顔で怒りと警戒を露わにした。


「アルバ、気を付け──」


 龍は目を見開いた。隣の小さな相棒は、いつの間にやら龍とほぼ同じ背丈にまで成長していた。その身に纏うのは女児用の秋の装いではなく西洋甲冑で、冑だけがない。左手には二メートル以上の槍が握られている。

 アルバが龍に振り向いた。吸い込まれそうな碧い目は毎日見慣れているはずなのに、龍は妙にどぎまぎした。


「魔力溜まってたし、久し振りに戻ってみたの」その声は、艶のある大人の女性のものだった。「とりあえず下がっていてね、リュウ」


「お、おう……」


 悪鬼の一体が四足歩行で接近し、今にも飛び掛からんばかりに腰を落とした。その脳天に、アルバは何のためらいもなく槍先を突き刺した。引き抜くと同時に、刺された悪鬼が地面に溶けるようにして消え失せると、残る四体はたじろぎ、少しずつ後ずさりした。

 アルバは再び槍を構えた。「ねえリュウ、どいつがいい?」


「どいつって……」


「どの部分を刺す?」


「んな事──」


 一体の悪鬼が素早く飛び掛かった。黒い手がデュラハンに触れるよりも先に額に風穴が開き、どっと崩れ落ちると溶け出した。


「──っぶねえ! 呑気に喋ってんなよ!」


「ウフフ、大丈夫よ」


 悪鬼三体が身を寄せ合うように一箇所に固まった。怯えて動けなくなったのかと思いきや、グチュグチュと嫌な音を立てながら混ざり合った。何度か伸縮を繰り返し、やがて獣のようであり女性のようでもある甲高い叫び声を発すると、全長約三メートル程もある大蜘蛛へと変化した。全身が黒く、所々に血が飛び散ったような赤い斑がある。


「うえっ。マジかよ」


「あまりいいデザインじゃないわね」


「そういう問題じゃねえだろ」


 大蜘蛛が身を翻した。


「リュウ、もっとずっと離れていて。それでもって蜘蛛の直線上に立たないように」


 問わずとも、アルバの発言の意味はすぐに理解出来た。大蜘蛛の尻から糸が噴射されると、直前まで龍とアルバが立っていた場所を通り越し、駐車されている青い軽自動車とその周辺に飛び散った。

 右に避けていたアルバが更に右へ回りながら、少しずつ距離を縮めてゆく。大蜘蛛は次に八本脚と糸のどちらを使用するか迷っているのか、体勢を整えられずにいた。

 アルバと同じく右に避けていた龍は、言われた通りに距離を取っていたが、相棒任せな状況に手持ち無沙汰だった。


 ──そりゃあ、俺はただの人間だけどよ……。


 パーカーのポケットに手を伸ばし、緋雨の羽根をそっと掴む。


 ──槍一本で足りるのか?


「──……ちゃん」


 誰かに名前を呼ばれた気がした。


「龍(にい)ちゃん」


 ビルの方を見やり、入口の前に声の主の姿を認めた瞬間、龍の心臓は強く脈打った。


「り……理人(りひと)……?」


 喜多山(きたやま)理人。小学生時代からの友人である喜多山慶太(けいた)の弟。人懐っこく少々わがままで、野菜は嫌いでも納豆は大好き。

 最後に会ったのは八月下旬、日本の真夏にしては珍しく、最高気温も湿度もあまり高くない日だった。棺の中で眠る彼に何と声を掛けた?

 そう、あり得ない再会だった。理人は死んだ──ピエロに殺された。


「理人……」


 龍が僅かに足を踏み出すと、理人は背を向け、ビルの中に入ってしまった。


「っ……待て!」


 罠かもしれなかった。それでも龍は、本能に従い駆け出した。途中、爆音に驚き足を止める。コンクリートの地面から噴き上げた炎が大蜘蛛を包んでいた。


「後から来てくれ!」叫ぶようにそう言うと、龍は再び死んだ友人の後を追った。



 槍と魔法を駆使し、大蜘蛛の脚を三本使い物にならなくさせたところで、アルバは龍の異変に気付いた。


「……リュウ?」


 声を掛けたものの、全く耳に入っていない。視線の先を辿ると、先程まではいなかったはずの少年が一人──明らかに生者ではない──がビルの前に立っていた。

 大蜘蛛の脚がしつこくアルバを捕らえようとする。


「懲りないのね」


 右手から放った球電で一番近い脚を焦がしてやり、怯んだ隙に間合いを取った。


「お熱いのはお好き?」


 アルバの碧い目が一瞬、紅く強く輝くと、大蜘蛛の足元に、その巨体がすっぽり収まるサイズの魔法陣が浮かび上がった。直後、地面から大きな火柱が上がり、一瞬で大蜘蛛を焼き尽くすと、最初から何もなかったかのように綺麗に消え失せた。大蜘蛛は、キイキイと掠れた悲鳴を上げながら溶けてゆき、こちらもシミ一つ残さず消滅した。


「後から来てくれ!」


 声に振り向くと、龍がビルの中に入ってゆくところだった。


「リュウ! あらあらもう……」


 槍先に付着した蜘蛛糸を大雑把に払うと、アルバもビルの中へと向かった。

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