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003 野球部員の伏龍

 昨日は散々な目に遭った。富士山のふもとから東京湾に滑落してしまった。這い上がってこようにも、水圧が邪魔をして先に進めない。


 ……鈴の好感度、マイナスになっちゃったか……?


 性格が幼いころと変わっていなければの話だが、生命の危機に追いやられない限り愛想を尽かしはしないはず。見捨てないというだけで、立ち位置が地盤沈下する事実は重くのしかかってくる。

 教室で、鈴が一言も話しかけてこなかったのが気になったな……。再会した嬉しさで設問攻めにされると思ったんだけどな……。裏口入学を疑って来る幼馴染に空ける椅子は無いってことか。


「……サッカー部の勧誘でーす! 良ければパンフレットをどうぞー……」


 入学して三日目で、もう部員確保合戦が爆誕している。文化部が来る者断らずのスタンスなら、運動部は我田引水である。兼部禁止の足枷さえなくなれば、加入する人数も多くなるはずなのだが。

 受け取ったサッカー部のパンフレットには、大きく『アットホームで風通しのいい環境』と打ち出されている。部員が退部して少なくなるから、風通しが良くなるのでは……? ベンチ入りのチャンスって言われても、ベンチが空席なだけなんじゃ……。

 とまあブラックを前面に押し出しても、一定数のカモネギは入部を選択してしまう。スポーツ推薦がこの高校に来るはずが無いので、大半はスポーツの落ちこぼれ軍団である。……落ちこぼれてるから、そんな風にブラックでも入らざるをえなくなるんだよ!

 中学校時に部活見学の時間があったのだが、サッカー部の面々は皆傷ついていた。この高校はトゲ付きボールを練習用に使用しているのだ、と心を落ち着かせようとしたこともあった。


 ……改めて、大変なところに来ちゃったなぁ……。

 帰宅部の部室を探すのが手っ取り早いが、その場合は家で家庭勉強の刑が待っている。


 野球部って、最近は丸刈りにするところが減って来たんだけど……。この学校は平常運転してそう……。

 丸坊主のデメリットとしては、頭部への衝撃が大きくなること。アルミ缶が上空からかっらしてくるとしても、フサフサとハゲでは数倍の違いが出る。……え、アルミ缶は空から落ちてこない?

 丸坊主は、格好でも『熱血バカ』と見られやすい側面がある。俺なんか、地道にパソコンの前で動画を見てるって言うのに……。


 殺気立った部室棟の奥へと歩いて行くと、お目当ての表示があった。


『求 野球部員』


 丸刈りではないが、俺は野球経験者である。守備の名手とスラッガーを合わせた選手だという評判を付けられていた。守備派の打撃力と攻撃派の守備力でしたけどね……。

 部室をノックして一歩踏み出すと、そこには甲子園大会の録画を回している先輩部員の姿があった。


「……部員希望ですか? それともマネージャーですか?」


 バットとグローブを持参しているのに、マネージャーと判断した根拠を知りたい。証拠を出せ、証拠を!


 この高校で、弱気を見せると首元にかじりつかれる。常に気を配っておかなければ、背後からの刺客にやられるのである。

 俺は、大きく胸に空気を吸い込んだ。ありったけの力を腹に込め、そして、


「「部員希望です! マネージャーじゃありません!」」


 ……お、今声が被ったような……。それに、熱血男子にしては甲高い声だし……。


 振り返ると、そこには昨日釣り逃した大魚がいた。


「あれ、慶くんも野球? バットでボールを売ったらどっちに走り出すか分かる?」

「俺を誰だと思ってるんだよ……。地方大会予選の一回戦に進出したことあるんだぞ?」

「それ、初戦敗退って言うんだよ? もっと日本語勉強しようよ……」


 鈴にだけは言われたくない。人間の脳がコンピュータで出来ていると勘違いするのは、全世界を見回しても彼女だけだろう。高等教育より先に、常識を叩き込んだ方がいいんじゃ……。

 頭を冷やしてみよう。常識は人によって違う。一方的に知識を詰め込まれていない鈴は、もしかすると高度な世界へ行ける人類なのでは……? 机上の空論はここまでにしておこう。


「……ちょっと待て、マネージャーじゃないのか?」

「女だからって、私を見くびっちゃダメだよ、慶くん? 中学校は、四刀流の大活躍だったんだから!」


 四刀流……? 投手と野手を兼任する二刀流はしばしば話題に上るが、その二倍もの物量をこなしていたとでもいうのだろうか。

 鈴は野球を、飛んできた球目掛けて刀を差しだすゲームだと勘違いしている。この刀野球においては、刀の数が多ければ多いほど初心者扱いされることだろう。


「……四刀流って?」

「えーっとね……。ピッチャーとキャッチャー、監督と、スコアラー……」

「スコアラー!?」


 スコアラーとは、打球や結果の記録をする人のことである。マウンドに記録用紙を置いて、投球していたのか。


 ……信憑性が怪しいな……。


 この場面こそ、『窃盗スティール』の出番である。


(……鈴は、四刀流だったのか……?)

(検索中……。顧問がパチンコ三昧だったため、鈴はチームの全てを任されていたらしいです。……こんな子いたら、惚れても仕方ないよね……)


 このスキルは、確かに有用……である。最後に感想が付いてるのは、なんででしょうね。鈴を彼女にするのは俺であり、他人に介入させたくない。


 鈴を観察している様子だと、過去の事件を引きずってはいなさそうだ。

 声を震わせながら、俺は過去を水に流してもらうように頼むことにした。


「……鈴、昨日のことはもう気にしてないのか?」

「……気にしてるよ。介抱してくれなかったの、誰だっけ?」


 恨みは、まだ鎮火されていなかったようだ。油を注いだのは……俺だった。言い訳の突破口が封鎖されてしまった。


 昨日は初回ということもあって気おくれしてしまったが、今日こそは少しでも鈴に向かって話がしたい。……スキルも全然使えてないしな。


 本格的な攻略作業に入ろうとした、その時。


「あの、ここ野球部の部室なんですけど……。ケンカするなら出て行ってもらって……」

「……すみませんでした。元はと言えば鈴が……」

「……すみません。昨日慶くんが起こした火種だからね……」


 先輩に金属バットを振り上げられるまで、俺と鈴の泥沼口論は続いたのであった。

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