002 不正が……あれ?
再会したばかりの幼馴染に恋しているなど、普通の人なら思いもよらないだろう。恋愛の理想像を気の遠くなるような昔の鈴に映していなければ、俺だって気付かなかったかもしれない。
……人って、成長すると顔変わるな……。
鈴を一目見て今までの前提が吹き飛んだから、結果オーライ(?)だ。
「……勉強嫌い?」
「待ってそれ以上言ったら失神しちゃうやめて:
禁断症状で、鈴の両手両足が震えている。教科書をライターで燃やし、その灰を煎じて飲みでもしたんじゃないだろうな……? 覚醒剤じゃあるまいし。
ここが高校内ではないことに最大限の幸運を感じる。彼女との腑抜けた会話がクラス中に響き渡ろうものなら、たちまちバカコンビとしてつるし上げられてしまう。バカなのは鈴の方だよ!
お友達から始めたくて話しかけたはずなのだが、列車はレールを脱線して滑走路へと向かっている。いずれ窓から翼が生え、大空へと投げ出されるのだ。
「……この学校にどうやって受かったんだよ……?」
「正々堂々とべ……頑張って努力して汗水たらして、やっと入学できたんだから……」
同一表現で重複してはいないか。アルバイトで闇金を稼いでいた疑惑が浮上してくる。高校でもアルバイト禁止なのに……。
お金を貰える喜びに、鈴は負けてしまったのか。社会経験という表の鎧を着た誘惑に、堕とされてしまったのか。
証言の真偽など、心理学者でしか見抜けない。そもそも、『汗水たらして』で金稼ぎと決めつけるのは早計だ。
……俺には、とっておきのスキルがあるんだ。
異世界転生? いいえ、ここは現実世界の真っただ中だ。エルフやドワーフを敵に回して火花を散らすのはごめんなさい。お断りいたします。
「……鈴、本当にそう? 裏口入学して入って来たんじゃなくて……?」
「……幼馴染は幼馴染でも、十年くらい疎遠だったんだよ? 実質初対面の人に、その言いぐさはどうかなぁ……。職員室に連れていかれるのがオチだよ」
「実質初対面の心構えで『慶くん』とは呼んでくれないだろ……」
幼心が思春期まで生き続けると、鈴は信じているようだ。無垢で理不尽を経験していない時代の性格など、無残なまでに変化してしまうと言うのに。
……鈴って、ドが付くほどの天然か? 世界はみんな優しいとか、吹き込まれた非現実を鵜呑みにするタイプか?
天然な人は、自称してこない。自分の正体に気付いていない人狼ほど、発見しづらくなる。
……裏口入学ってことはないと思うけど……。
高校で裏金を行使した事例を、ニュースやネットで耳にしたことが無い。そこで権力に任せて入学させるくらいなら、良い大学に入らせた方が親心を込めているとしたものだ。犯罪は判明しなくても犯罪ですけどね。
「鈴、俺にはとっておきの必殺技があるんだよ……。人様がウソを付いたかどうかを見分ける手段がね……」
「中学二年生から、もう一度義務教育をやり直すの? 慶くんの右手、暴れたくてうずうずしてるよ?」
「いや、本当だから」
目に包帯を巻いている中二病は、俺が所持しているスキルに比べれば足元にも及ばない。
俺は、天空目掛けて人差し指を突き立てた。
「召喚! コマンドプロンプト!」
「……パソコンに命令するやつだよね、それ。……もしかして、人間の脳はパソコンで作られてた……?」
「なんでそうなるんだよ。中学校の理科で習わなかったのか?」
「……うう、頭が……」
そうだ、鈴は勉強関連の語句で低気圧を発生させるんだった。故意じゃないので、傷害罪は成立しない……だっけ?
コンクリの道路でのびてしまった鈴は後で介抱するとして、俺は黒画面を起動させた。家族の前で出現させたこともあったが、このコンソールは俺にしか可視できないらしい。不審者扱いされたくはないからな……。
キーボードも、バーチャル入力画面も付属していない。時代は、音声入力に突入している。最新技術から程遠いのは勘弁してください。
俺は、ひよこが輪になってよちよち歩きしている鈴に正対した。目線を固定するのはどこでも良かったのだが、無難な腕にしておいた。胸ばっかり凝視して通行人に見られたら、性的暴行と疑われかねないからな……。
『何か御用ですか』と表示された文字に対して、テレパシーで命令を送る。
(鈴は、どうやってこの高校に入学したんだ? 『勉強』で卒倒するようでは、合格は夢のまた夢と言うか……)
(検索中……。どうやら、合否判定の試験官が、顔写真を気に入って入学許可させたらしいです)
俺が授かりし能力、『窃盗』。犯罪者の念に心が冒され続けているのは、スキルの名前によるものだろう。もっとかっこいい名前は無かったんですかね……。
この能力は、目線を合わせた相手に関する情報を盗める……らしい。試したのが初めてなので、そこら辺のおじさんが妄想で完成させた出来損ないの可能性もある。
試験官さん、顔で選ぶのはナシじゃないですかね……? その判断で不合格になった人は、さぞかし無念だろうに……。
いや、顔立ちが良好だったから鈴とここで再会してるわけで、もし厳正に点数順だと鈴が落ちてた可能性が……。
もう一度、盗んでみるか。
(……合否判定が忠実に行われていたら、どうなってたんだ……?)
(検索中……。鈴はどちらにせよ範囲内だったので合格、慶は不合格……ですね。極端なブサイクを撥ねつけていたようなので)
……前言撤回。神様、仏様、えり好み試験官様。鈴とここにいられるのは、一生の幸福です。
不正で得をしていたのは、俺の方だったようだ。試験官さまさまである。正義の味方として悪を見逃すのは心苦しいが、ここは見逃そう。
春で穏やかな季節、気温も高くなければ直射日光も強くない。
それでも、道路は擬似フライパンに進化していたようで。
「……女の子の幼馴染が失神してたら、起こしてあげるのが普通じゃない……? もしかして、サイコパス……?」
目が開くやいなや跳ね起きた鈴は、懐疑の目を俺にやっていた。……失神してたんですね……。
正論を炸裂させられて、言い返す言葉が無い。袋小路で立ち往生したのである。
鈴は、だんまりを決め込んでしまった。首筋には、赤く塗られた跡が痛々しく残っている。焼き石だったのか、コンクリートは。
……馴れ馴れしく近づいてきた男子に脅されて、あること無い事を責め立てられたらそうなるよな……。
後悔、先に立たず。もう、俺と鈴の間で会話が行われることは無かった。
結局、お友達どころか心証を悪くするだけの結果になった出会い頭であった。
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