001 俺の幼馴染はポンコツ?
俺の誇りは、異性の幼馴染がいること。俺の胸をざわめかせる雑音は、その幼馴染に一目ぼれしてしまったということ。
そして、俺の不動明王を揺らがせているのは、幼馴染が恋人ではないということ。
どうして、恋愛運に俺はつくづく見放されているのだろう。女子の幼馴染がいて、しかも同じ高校の同じクラスなんて、確定演出じゃないんですか!?
非現実的な神に何を言っても、クレームを受け付けてくれるとは思わない。空想は、どこまで発想力が豊かでも空想どまり。リアルに舞い降りてはこない。
……鈴の方は、俺のことを覚えてくれてるかな……。
彼女のことは、さっぱり分からない。幼馴染だからと言って、裸をさらけ出した仲ではないのだ。幼少期に交流があったというだけで。
もしかすると、鈴は俺のことすら記憶に残っていないかもしれない。
「……高松さん? それとも、鈴って呼べばいいか?」
「……どっちでもいい。慶くんが呼びやすい方で」
慶くん……で鈴はいいのか? 気の遠くなるほど昔に聞いたあだ名ですね……。アルファベット一文字のモブキャラじゃないですよ。
夏の風をフリーパスする黒髪ショートの少女は、鈴だ。美少女と言えるかどうかは、個人の見解で大きく分かれることになる。俺的には、理想像ドストレートのお姉ちゃんだと思いますけどね!
「その呼び名、まだ続けてくれてるんだ……」
「……小っちゃい頃は、『慶くん』って言ってたでしょ? 今更変える必要、あるかな?」
「……えーっと、恥ずかしい気持ちは微塵も存在しないの?」
「……慶くんは慶くんであって、他の子じゃないと思うけど……?」
ダメだ、会話が成り立ちそうにない。何をどう勘違いしたら、くん付けに同世代との乖離を見出せないんだよ……。
日本語での意思疎通が難しそうなこの子に惚れた理由? そんなことを言っても仕方がない。言えるわけないだろ、過去の鈴と今の鈴が全く変わってなかったからだって……。
放課後で俺が待ち構えていたと言うのに、鈴に驚きの色は見られなかった。普通、もっと目を見開いたり手を打ったりするものじゃないのか……?
「……所属中学校が違って同じ高校なんて、宝くじで当選するよりレアだと……思わない?」
「三百円なら絶対当たるから、当たり前だよ?」
「……言い方が悪かった。隕石に頭を粉砕されるよりはレアだよな?」
「……そんなニュース、頻繁に見ないけど……?」
「お茶の間で隕石落下が日常化してたまるか」
脳の容量が大きいが、肝心の言語能力に関わる部位が未発達だ。発達の最中で、それこそ流れ星が墜落してきたんじゃないだろうな……。
俺と鈴との間に、交流らしき交流は十分の一世紀途絶えていた。住んでいる地域が同一小学校に進学しない行為が、二人を引き離した元凶である。
「……入学式にいたか、鈴……?」
「あんなの、茶番でしかないでしょ? 授業が無いって聞いたから、初日は休んじゃった」
「出席日数って知ってる? あれが足りないと、卒業どころか単位すらくれない」
「ギリギリまで休むから、心配しなくても大丈夫だよ」
「そんなこと言われると、余計に心のキャパを割かなくちゃいけなくなるんだよな……」
この鈴っていう幼馴染、もしかして頭の構造も鈴そのもので出来ているのではないだろうか。脳みそが見本詐欺シュークリームで、歩く度に頭蓋骨にへばりつく不甲斐ない脳である。
涼風がこの道路を駆け抜けたら、もしかすると風鈴の心地よい金属音が聞ける。まだ春なんですけどね。
「……ところで、よく私が鈴だってわかったね……」
「それは、教室からずっとストーカーしてたから……」
「わざわざ扉の前で待ってたの!? 警察に訴えたら、慶くんはお縄?」
「クラスは一緒だろ……。配られた時の名前で気づけよな……」
竹刀を構えて手合いに踏み込んでいるが、幼少期にこれと言って特別親しかった記憶はない。おままごとに乱入しても嫌の一つ発さない女の子だったのを覚えている。あの年頃で環境の変化に適応できるなんて、最先端を走ってたんだな……。
クラス発表初日に配られた、クラスメート表。そこには『高松 鈴』という幼馴染の氏名も記載されていた。なぜ覚えていたのかって? 忘れられなかったからだよ!
「……そっか、初日は来てないんだっけ。それなら、仕方ないか……」
「手紙は家に届いてたから、知ってる人がいるかどうか何遍も読み返したよ? でも、慶くんかどうかの確証がなくて……」
「……どういう事?」
「名前の読みしか知らなかったから、『慶』はいても『けいくん』かどうかは判別の仕様がないでしょ? 慶喜くんだったかも……ってね」
慶喜と『けい』で共通する漢字など、一つしかない。欠陥のある懸賞パズルも解けないとなると、鈴のIQの範囲が一定に収まりそうだ。
……俺だって、鈴の苗字は忘れてたし……。お互い様か……。
鈴の苗字は、四国の県庁所在地だ。うどんが名産品というキーワードが、たった今復刻してきた。
「……鈴、受験勉強は……」
「べんきょう!? ……慶くん、耳栓どこかに売ってないかな……」
鈴の唇から、血の色が引いた。勉強の二文字は、彼女から闘争本能を軒並み奪い去るには十分すぎる威力だったのだ。
鈴は、受験勉強という一発勝負の修羅場を潜り抜けてきた猛者に見えない。ストローを腹に刺されて栄養分を吸い取られる、寄生主になりそうなものだが。
……ここ、自称でも進学校ですよ?
彼女の知能レベルは、意外にも嘘を取り繕っているだけかもしれない。
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