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雨……。  作者: 破魔 七歌 
特別なある日。
3/14

3。

(『終点──。三ノ宮……、三ノ宮で御座います。お降りの際は、お足もとの傘などお忘れ物の無きよう……──』)


 ──列車が停車した瞬間、重心が座席の前方向に掛かり、身体が前のめりになる。

 雨の日でブレーキの掛かりが悪かったのか、そんなことを思う間もなく、次々と乗客たちが車両から開いた扉へと向かい混雑した。

 視界には、人の後頭部と背中しか見えない。

 誰もが何かに吸い込まれるようにして、車内を後にした。


(あぁ、そうだ。おりなきゃな……)


 研修も仕事だが、なんとなく気が抜けている。

 久しぶりの電車だし窓からの風景も見れたし。

 とは言え、朝の通勤客と自分との温度差と言うか、空気の違いと言うか、どうしても自分と世間とのズレみたいなのを感じてしまう。

 

(まあ、適当にやって帰りゃ良いさ……)


 地下に入ってから見るものが無くなった俺は、車内の広告の週刊誌のネタや、宣伝用のテレビ画面でやってたアニメがしばらく気になっていた。

 けれども、降車後には黒い蟻のように駅の何処かへと向かう人の波に自分も連なっていた。それから歩く内に、そんなことは忘れてしまった。研修先の案内用紙を封筒から取り出し、目的地を確認する。


(駅の北改札口を出てから、神社を素通りして……。そのまま真っ直ぐ坂道を山手へ、か──)


 改札口を出る前に、駅のキヨスクとコンビニが目に付いた。

 朝飯がまだなのと、昼飯も買っておきたいと思う。適当にコンビニに入りパンとコーヒーを買う。空いていた方のレジに並んだが外国人の店員で、日本語があまり通じず、気が付くと要らないレジ袋を買わされていた。まあ良いかと思う。雨傘で混雑したコンビニを早く出たかった。昼飯は買わなかった。


(ん……。眩しいな……)


 改札口を出ると駅のロータリーで、光が射し込む。

 時計台があり、公園みたいになっている。雨は止んでいて、お決まりの鳩にエサやりのオジサンなんかが居る。ここで、買ったパンを食べても良かったが、人目が気になりやめる。思ったより早めに着いて、まだ時間はある。

 いそいそと忙しく流れる人混みにつられるようにして、「パッポウ」と鳴り響く横断歩道を信号が青い内に、俺は渡る。

 重かった雲間に、少しずつ晴れ間が覗いている。

 流石に俺のいる街よりも都会で、人も車も建物も多い。けれども、異人館や異国の文化の発信地ともなったこの港街は、昔からお洒落な雰囲気が街全体に漂い、海や山の景色とともに人工物が上手く融合されている。

 

 横断歩道を渡り終えると、ビルの真ん中に、一際大きな神社が見えた。


(デカいな……)


 朱色に塗られた神社の鳥居を目前にして、境内を望む。

 朝早くから敬虔なのだろう、参拝客がチラホラと見える。

 通り抜けても良かったが、参拝する時間も無く先を急いだ。時間はあるとは言え、何処かで朝飯も食っておきたいし、タバコも吸いたい。

 足早に、神社隣の坂道を往くと、修学旅行生たちのバスの連なりが見えた。


(流石に、どの子も若いな……。高校生か)


 変な意味ではなく、楽しげな空気を感じた。

 連なるバスの側面に、昇降口とは別の、荷物置き場の扉が開かれている。

 荷物を置きに並ぶ生徒たちを掻き分けながら、スーツ姿の先生みたいな格好をした俺が、坂道を黙々と歩く。

 いや。俺も内心、生徒たちに混じって、何処かへ行きたいとは当然想ったものだが──。


(──大人には修学旅行なんてもんは、無い……)


 などと、バカバカしくも自分で想って自分で笑う。無表情を装いながら。俯いて歩く視線の先に、黒く濡れたアスファルトが見えた。

 顔を上げると、隣には、神社の瓦屋根が施された黄色の土壁が坂道に連なっている。ご神木の緑のせいか、街中なのに凜とした空気を雨上がりに感じた。

 修学旅行生たちを後に、坂道を昇り切ると、二度目の時計台と緑の公園が目の前に見えた。

 そこで、朝飯とタバコを済ませようと想う。

 俺は、これまた二度目となる「パッポウ」と鳩の機械音声鳴り響く横断歩道を、歩行者信号が青色の内に急ぎ足で渡った。


(やれやれ……)


 緑の生い茂る公園に入り、樹の下の比較的雨に濡れていない適当なベンチに腰掛けると──。

 ──朝飯のカレーパンを取り出した俺の足もとに、羽根がハゲて薄くなった親分みたいなデカい鳩が彷徨く。

 条例法違反なのだろうが、ひとつまみのカレーパンの欠片を投げると、たちまちの内に、鳩の親分がカレーパンの欠片に食いつき、そのあとから、一斉に仲間の鳩たちがやって来た。


(今日だけだぞ……)


 適当に、千切っては投げを繰り返して、落ち着いた頃合いを見計らって、俺もパンを食う。

 まだクレと言わんばかりに欲しそうな鳩たちの視線だが、お構いなしに俺はパンを口の中へと押し込んだ。コーヒーも流し込む。

 それから、タバコを吸い始めると、もう違うベンチに座る誰かの元へと鳩たちは鞍替えしていた。


(現金なヤツらだ。まあ、当たり前か……)


 その鳩たちの様子を見た俺は、さっさとベンチから立ち上がって、研修先へと急いだ。

 途中で、ラーメン屋があったので、昼はそこで食うことに決める。この街にしかない有名なラーメン屋「もっこすラーメン」だからだ。

 

 裏路地を通り抜け、小学校に保育園、さらに現代風の民家や商店の立ち並ぶ坂道を歩く先に、研修先のビルが見えた。

 入り口玄関の階段を昇り、研修先の自動ドアを通り抜けると、エレベーターの先に、受講番号を書くために人の列が出来ていた。

 そう言えば、研修先へと往く途中の何処かで見たことのある姿が、何人か確認出来た。

 その中に、さっきの列車で同じ席の向かい側に座っていた女の人の後ろ姿が見えた。顔はよく見えなかったが……。







 

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 相変わらず、雰囲気が良いですね~(^^) 前回感想返信にありましたが~…酒アレルギー!? 毎日飲んで…何て言いますか、今頃なるものなんですね~(^^; 臓器を痛める前に、体が自己防衛本能で…
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