2。
(……雨の風景──)
列車の進行方向とは逆の位置に座った俺の目に、走り出した列車の窓辺の風景が後ろ向きに流れる。
日中、晴れていれば親子づれで小さな子が遊びそうな公園が見えた。
誰も居ない。
ブランコや滑り台の下の水たまりに向かって、地面に降り注ぐ雨が流れている。
直ぐさま、線路沿いに立ち並ぶ民家の中を走り抜ける景色に変わる。
遠くに望む山は暗く、雨雲が灰色よりも黒っぽく重くのしかかっている。
それでも、真向かいに座る女性は俯いたままスマホの画面を見ている。
しかし、10分ほど列車が走ったところで、女性は膝元にスマホを置きイヤホンは耳につけたまま、窓辺に頭を置くようにしてウトウトと眠り始めた。
(静かだな……)
誰も窓辺の雨の風景を見る人など居ない。
視界に映る人影は、皆、スマホの画面を見ているか目を閉じて眠る人ばかり。
おおむね、今という現実に興味のある人など、居ないようにも想える。
とは言え、自分自身も窓辺に映る雨の景色の中に、もしも自分がその場所に居たのなら──。
──なんて、空想する。
(もしも、自分があの学校の生徒なら……)
窓辺の雨の風景に、何処かの学校の校舎が目に映る。
もしも自分がまだ高校生で、その学校に通っていたのなら、知らない誰かに出会っていたわけで。
もしかしたら、あの田んぼのあぜ道を誰かと一緒に帰っていたのかも知れない。
今どき、ラブレターなんて無いのかも知れないが、もしかしたら、それに近い何かがあって──。
──なんでも無い退屈な授業でも、目を合わせるだけでとか、すれ違うだけでとか……ドキドキしたのかも知れない。
(いい年齢して妄想が過ぎるよな……。独り身だけど。眠い……)
真向かいに座る女性は、列車の雨の窓辺にもたれ掛かり、相変わらず目を瞑ったまま眠っているようだ。
俺も何だか眠くなって来た……──。
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(ん、んー……。ん? 海──?)
列車の雨の窓辺の風景には、一面、海が広がっていた。
遠くに小島が望み、水平線がどんよりとした雨雲の下で、鈍色に映し出される。
桟橋には誰も居ない。テトラポットが静かに波打ち際に何処までも続く。
車内の通路を挟み、反対側の山手の景色を見ると、前の研修先だった海辺の松林の向こう側にある式場も兼ねたホテルが過ぎ去る。
(従姉妹が、あそこで挙げたっけ……──)
──ホテルの中の様子を、雨の車窓に映る海辺の景色を見ながら想い出す。
正面玄関のロビーには、赤い絨毯が敷かれ、キラキラと光るシャンデリアが眩しかった。
ピアノが、白と黒の鍵盤を自動演奏で弾きこなし、まるで雨音が音階の上を流れ落ちるかのように響かせていた。
目を閉じれば、透明なガラス玉や水晶玉が雨粒のように水面に浮かび、まるで違う世界にでも居るかのように奏でてくれた。
(……ゴォォォーッ──)
──急に、雨の窓辺の景色が暗闇になる。
トンネルに入ったようだ。
トンネル内部に設置された幾つもの白の電光が等間隔に視界を流れ去る。
窓辺に頭を置いていた女性が目を開き、ようやく眠りから目を覚ましたようだ。
(そろそろ着くころかな……)
暗闇の中を、列車が幾つかの駅を停車せずに通過してゆく。
僅か数秒の超高速で過ぎゆく地下の駅は、まるで光の中で、人がコンクリートの中に溶け込むようだった。




