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雨……。  作者: 破魔 七歌 
エピローグ。
14/14

6。

 透明のビニール傘の上を流れ落ちる大量の雨粒。

 曇天の暗がりの空の下、私の足もとから雨が流れる黒いアスファルトの歩道。

 もうすぐ、その目の前には、彼の働く三階建ての老人ホームが道沿いに立っている。思ってたよりも小規模だけれども、私の胸には重くのしかかった。


「帰ろっかな……。やっぱり」


 会えたとしても、自信がない。いや、会えるかどうかも自信がない。何の自信がないかって、自分に聞いても分からないくらい自信ない。それは──、


 何かが変わる怖さ。何も変わらない怖さ。

 

 勇気を出して、ここまで来た。

 雨粒が激し過ぎて、濡れないようにはしてたけど──彼に渡す手紙と贈り物以外は、風もあって凌げないほど濡れて……。いや、もしかしたら、それも……。

 弱々しく立ち止まった私の足もとに、雨水が側溝へと流れていく。躊躇う私の気持ちを他所に、雨は降り止まない。

 心臓が激しく高鳴る。濡れた洋服の胸の前で、右手を強く握りしめた。立っていられないほど緊張する。


「神様──……」


 まるで、増水した川の流れに揺られるように、私の鼓動の動きがアスファルトの雨の歩道を波打たせる。だけど、例え晴れてたとしても、真っ直ぐには歩けなかったのかも知れない。

 運命がウネる時──、空間は白く歪む。まるで、時間が止まったかのように。ゆっくりと視界を奪う。泣いてもいないのに、雨のせいなのか、視界がボヤケる……。







(──イィィーン……。ガチャン)


 立ってた。

 

 透明に両側へと開く自動ドア。彼の勤め先の老人ホームの正面玄関。少し雨に濡れた灰色の四角いタイルに、職員の足跡が幾つかついてた。傘を折り畳む。入り口の屋根が雨を弾いてた。風が強くて、雨粒が少し肌にかかる。


 あんなに、空間が歪むような足どりの重さを感じていたのに。降りしきる雨に、足もとのヒールが、おぼつかなかったのに。

 

 入り口の案内窓口と、事務所が一体になっている。どことも似たような中の風景。

 奥から、綺麗めの若い女の人が出て来た。年は、私と近い感じ。

 口角を上げて、つくり笑顔。負けてない。雨に濡れた格好と前髪は、気にする余裕が無かった。


「──はい……」

「あ、神戸○○介護支援事業所で介護支援専門員(ケアマネジャー)してます、高嶺と申します。いつもお世話になっております。先月、研修でお世話になった間中(マナカ)さんにお礼とご挨拶を兼ねて参りました。あらかじめ、お電話での面会予約が出来てなくて、申し訳ないです。間中(マナカ)さんは、いらっしゃいますか?」

「あ、間中(マナカ)ですね。少々、お待ちください」


 心臓が口から飛び出そうだった。けど、平静を装い、ニコリと笑う。

 事務員と思われる女性は、一つ括りにした髪の毛を背中に揺らして、電話口の内線で取り次ぎをしている。

 小じんまりとした事務所内。受付窓口(カウンター)の上に設置された水槽。熱帯魚がネオンに照らされて、水槽の角から身を翻して泳いでいた。私を見た気がした。


 半分、嘘だった。


 何を話すか考えてはいたものの、頭の中は、真っ白。

 けど、良くもまぁ、自分でも驚くほど言葉が出て来た。なんとか取り繕えた。


 先月、研修でお世話になったと言うのは、嘘。

 だけど、受診先のクリニックからの帰り道、あの日、たまたま研修があったのは本当。

 休職していなければ、私も参加していたはずだった。彼は、あの日、研修を終えた帰りに私の事故に遭遇した。だから、半分、本当。そして、お世話になったと言う事実だけは──、正真正銘の真実。


 きっと、会えば分かると想った。









 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様ですm(_ _)m とうとう次回で会うのかな~? どうなるのか気になるところですね~。
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