3。
ビニール傘に激しくぶつかる雨音。暗く淀んだ雲間。
傘を畳んで改札口を抜ける。足取りが重い。
「そうだ……」
電車に乗って、助けてくれた彼に会いに行こうとしたけれど、どうしても事故に遭った『四番乗り場』に行く必要があった。彼の住む街へ行くには、四番乗り場に停車する列車に、乗らないといけなかったから。
「やめ、ようかな……」
デパ地下まで行って洋菓子買って、それなりの服装で来たけれど。
私の視界の上を遥かに望む重苦しい灰色の階段。あの日の衝撃が頭を過ぎる。それに、隣のエスカレーターに乗れば、勝手に四番乗り場へと連れて行かれる。
「別に、誰だっていいか。会えるわけでもないし」
本当は、一目会いたかった。ほんの少しだけでも会ってお礼が言えれば。けれども、彼の方も仕事かも知れないし、休みかも知れない。面会の予約と言っても、家族でもなければ、知り合いでもない。そんな何処の誰とも分からない私に、職場が彼へと取り次いでくれるだろうか。
「気持ち、だけでも……」
独り呟いて気が付くと──、一歩。エスカレーターの一段上に乗り、俯いた私の視界に足もとの自分のヒールが見えた。
「ヒール。赤──って、目立つかな」
たぶん、会えない。だからこそ、昨日、手紙を書いた。ほとんど、初めてと言って良いかも知れない。今の時代、手紙なんて書くこと無いから。
私は、洋菓子の入った袋に手紙がちゃんと入っているのを確認してからエレベーターを降りて──、四番乗り場のホームに広がるあの時の光景を目にした。
「うっ……」
吐き気がする……。私は、俯き、直ぐそこにあった駅のベンチに横になった。今にして想えば、各駅停車から新快速に乗り換えれば、別に二番乗り場でも良かったのかも知れないけれど、たぶん同じ。
「──大丈夫ですか?」
「はい……」
あの日とは違う別の駅員さんが、私のもとへ駆け付けた。彼だったら良かったのに。
「(──四番乗り場に、新快速が参ります。ホームの内側にお下がりください──)」
あの時の通過貨物列車とは違う、新快速列車のアナウンスがホームに流れた。
「──ハァ、ハァ……。は、早く、早く……」
列車が停車し、扉が開いてくれるのを息苦しさを耐えて待った。
「(──三ノ宮、三ノ宮でございます……──)」
立ち上がった。フラフラする。けれど──。
「(──扉が閉まります。ご注意ください──)」
背中の後ろで、列車の扉が閉まる音を聞いた。それから、私は、フラフラと、ちょうど空いていた四人掛けの座席に身体を預けるようにして座った。進行方向とは逆向きだった。けれど、列車が再び発車する頃には、何故か不思議と吐き気は治まっていた。
激しくぶつかる雨粒。車窓に流れ落ちる幾つかの水滴。ちょうど、重なり合って一つになったのを私は目にした。
(──彼に会えたら良いのに……)
心の中で、そんなことを想いながら──、雨の神戸の街並みを後にした。




