2。
「(──四番乗り場に、列車が通過致します。危険ですから、ホームの白線より内側に、お下がりください……──)」
ホームから、通過列車のアナウンスが聞こえた。特に、死ぬつもりなんてなかった。けれど、何かに吸い寄せられるように、バランスを崩した。
立てなくなっているのか、私は、空気中を彷徨うように、ここが何処だか分からなくなった。
目の前が白くなる。
まるで、その瞬間は宙を浮くように、私が私でなくなっていたんだと想う。
「おいっ! しっかりしろ!!」
(ゴォォォォォォ……──!!)
目の前を通過貨物列車が、私に強風を浴びせて、猛烈なスピードで駆け抜けて行く。何トンもの鉄の車両と貨物──。ホームから望む目の前にあった夕焼けの美しい景色が、帯状に伸びる貨物列車と轟音に遮られる。
けれども、その先へと足を滑らさずに済んだのは──、
──あの時の彼が、私の手を引いて引き止めてくれたからだ。
「大丈夫かっ!? 怪我してないかっ!?」
あまりの突然の出来事に、目が泳ぐ。焦点が定まらないまま、視界がボンヤリと霞む。けれども、あの時の彼の声が耳もとに残って──、私はそのまま倒れた。
駅員さんが駆け付ける音、救急隊の人にタンカーに乗せられた感覚。それからしばらく、記憶は途切れ途切れになり、ボンヤリとした視界の中で霞む。搬送先の病院で、私の家族が到着するまで、救急車の中でも、ずっと彼に声をかけられていた気がする──。
──それから、私の家族が到着するまで、彼は病室に居てくれたんだと想う。私の腕には点滴が施されていた。何を話したのかは覚えてないけど、短い言葉で、大丈夫ですとかそう言った事を返事したり頷いたり。そして、点滴が取り替えられる頃には、ようやく家族が到着して──、私の家族に挨拶してから何かを手短に話した彼は、僅かな時間で病室を後にした。今にして想えば、状況の説明と、私が救急搬送された経緯を家族に伝えていたんだと想う。原因は不明だけど、医師の診察と彼のおかげもあり、私の命に別状は無かった。
「──愛美……」
母の声が聞こえた。
それから、少し病院のベッドで眠っていた私は、一枚の名刺を母から手渡された。
「『──社会福祉法人 ○○苑 介護支援専門員 間中郁人──』?」
ベッドから半身を起こした私の手にある名刺。彼は、どうやら、違う街の老人ホームで介護支援専門員をしているみたいだった。偶然にも、休職中の私の職業と同じだった。
それから退院した私は、違う場所とは言え、同じ職種でもある老人ホームにはあまり行きたくなかったけれど、彼にお礼がしたくて──、ある日、神戸のデパ地下で高級洋菓子を買って電車を乗り継いで彼に会いに行くことにした。




