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氷の女王

作者: ゆっくりスー

大きく円を描くようにスケートリンクを滑る。広いスケートリンクで今は1人しか滑っていない。俺は広くスケートリンクを使い悩み事をすべて吹き飛ばすように滑る。そしてだんだんと勢いに乗っていって冷たい風を全身で受ける。だがその視界にはたった一人の後ろ姿が見える。やがてその顔はゆっくりとこっちを向く。その時だった。俺は氷の凹凸につまずき転んでしまった。

「いってぇ…」

しりもちをついてしまい、立ち上がろうとするのだがリンクの中央あたりで転んでしまった俺は捕まる物がなくなかなか立ち上がれない。

「大丈夫か?」

その声にハッとして顔を上げると無表情な1人の少女が手を差し出していた。青い瞳のその美少女は俺の顔をまじまじと見ているが顔色を一つ変えづ手を差し出し続けているので俺はその手を取った。その瞬間さっきまでなかなか立ち上がれなかったのがウソのようにすんなりと立ち上がれた。

「ふむ…大丈夫そうだな」

そう言うとその少女はゆっくりともといたリンクの壁に戻るとさっきと同じように外を眺めている。滑れないというわけでもないのにリンクのはじで外を眺めている少女を不思議そうに思いながらも今日はもう滑れないと思い俺は腰を押さえながらリンクを後にしようとする。すると先ほどの少女が話しかけてきた。

「君とはまた会いそうな気がする…もし会うことがあったらその時はよろしくな?」

とだけ。

妙に上から目線だったのでとても印象に残っている。だがまさか本当に彼女の言うことが正しかったなんて…

「初めまして…白雪 怜(しらゆき れい)と言います…よろしく」

目の前…いや、俺のクラスの教卓の前でそんな自己紹介をするあの時の少女がいる。

「なら白雪さんの席は空いてる席を適当に使ってくれ」

そう言われその少女はゆっくりと歩みだし、やがて俺の隣の席に座るのであった。


「よろしく」

そんなことを言う彼女の表情は無表情。まるで人形だなと思ってしまう。

そう思っている間にも時間は過ぎていく。そしてやがて授業が開始されるのであった。





~休憩時間~


「はぁ」

俺は校内にある自動販売機で缶コーヒーを買う。

「ブラックじゃないのか?」

キョトンとした表情で訪ねてくるのは転校生の白雪 怜(しらゆき れい)である。

別に気分じゃないだけだ…決して飲めないというわけではない…決して。

「安心しろ。私もブラックは飲めない」

自慢げにいう怜だが何一つ自慢できるところがない

「そう言えば聞きたかったんだが…」

唐突に怜が話を振ってくる

「お前は何であのスケートリンクにいたんだと思ってな」

普通ああいうのは友達と行くものだと思うが…という怜。誰がボッチだ

「あそこに行くとなんかいろいろどうでもよくなるんだよ」

俺は適当に返しつつコーヒーをすする。

「ていうかお前こそ1人だったじゃねえか…」

俺のその言葉に怜は

「私は親がいないからな…基本1人だ」

唐突にそんなカミングアウトをされた俺は思わず固まる。ただ無意識に俺の口からその言葉は漏れた。

「同じだな」

その言葉を聞いた怜がこっちをまじまじと見つめる。

「?」

俺が困惑しているとやがて小さくうなずき目を離す。

なんだったんだ?

改めて怜という少女のつかめなさを認識する。クール系なのだろうか…わけわからん。

「お前…笑ったりとかできるのか?」

ふとそんな疑問を俺はぶつける。彼女が転校してきてから彼女が笑っている…というか表情を変えているところを1度も見ていないのだ。

すると怜は自分のほっぺをつねって引っ張る。

「む」

「いや笑えてないぞ」

するとすこし頬を赤くした怜は少し考えたのち

「ならお前が私を笑わせてくれ」

俺は試しに手に持っていた空のコーヒー缶を怜の頭の上に乗せる。

だがそれでも表情を変えずに?マークを頭上に浮かべる怜に俺は確信する。

絶対にこいつの表情を変えることは不可能だな。






~放課後~


で…俺は1つ問いたいことがある。

「なんでお前が俺の家を知っている?」

そう。何を隠そうここは俺の家である。しかもこいつは確か俺が1人だということを知っていたはずだ。なのになぜここにこいつは来ている?

「メリークリスマス」

「まだ少し早くないか?」

まだ12月24日である。いい子にしてるとプレゼントがもらえるのが今日の夜、そしてクリスマスは12月25日である。

「ということでサンタ特権でおじゃまする」

俺の質問をスルーして怜は家に入っていくのであった。



「で…本当は何で俺のうちに来た」

現在時刻は午後6時半。まあまあな時間帯だが冬ということもあり日はほぼ落ちきっている。

こたつに入ってココアを飲んでいる怜に問う。

「他のクラスメイトから遊びに誘われたのだがな…全部断った」

その言葉に俺は違和感を持ちつつはぁっとため息をつく。

「で?お前はいつ帰る?」

俺がそう言うと怜は

「何を言っている?今日はここに泊まるぞ?」

「お前が何を言ってるんだ?」

思わずそうツッコんでしまう。

「大丈夫だ。私は気にしない」

「そのセリフをお前が言うのか」

色々と問題がありすぎるその提案に俺は即却下したはずなのだがその後外を見ると雪が降り始め、帰るのは危険ということで結局泊まることに決定してしまったのだった。







「はぁ…なんでこんなことに」

急展開すぎる日々に俺は湯船につかりながらため息をつく。

クリスマスに転校してきた美少女と一つ屋根の下で過ごす…

「字面だけでも意味不明度が半端ないな」

そして俺はゆっくりと立ち上がり風呂場を出ようと扉に手をかける。

すると扉越しに何やら人影が見えた。まさかとは思うが、一応声をかけてみる

「誰もいないよな?」

「ああ 誰もいないぞ」

怜の声だ

「いるじゃねぇか」

「なに…一緒に入ろうと思ってな」

「…………………入ってくるな」

「ずいぶんと悩んだようだな?」

なんで俺はこんな漫才みたいな会話を風呂の扉越しにしなければならないのだろうか…

「とにかく俺は風呂から上がりたいんだが…」

すると怜は仕方ないなと移動をする。

何だったんだいったい…

俺は風呂から上がると怜はそそくさと風呂に入っていった。いや…ホントに何だったんだ…

困惑しながらも結局分からず寝巻に着替え、課題に取り掛かるのであった。







あの後も色々とあった。怜が課題を教えてくれと言ってきたまではよかったのだが、ケーキを食べたいと言い出したり、俺と寝ると言ってきたりと振り回されっぱなしだった。そして…そして










~12月25日 クリスマス~


その日の朝、俺の家には怜はいなかった。

先に学校に行ったのかと思ったのだが学校が始まっても姿が見えない。教師曰く無断欠席らしい。その言葉に俺は1時限目をサボり、その場所に走るのだった。









「やっぱりここか」

俺は例のスケートリンクでベンチに座っている怜を見つけた。俺は近くの自動販売機で缶コーヒーを2本買い、彼女の方に近寄る。

「おい」

俺がそう声をかけるがその少女はずっとスケートリンクの方を見ている。そこで俺は持っていたアツアツの缶コーヒーを彼女の頬にあてる。

「ひゃぁ!」

すると聞いたことのない声を発して肩を飛び跳ねさせこちらを向く怜。だが赤くなった頬にはくっきりと涙の痕が残っていた。

「泣いてたのか?」

俺の言葉に普段通りの表情に戻ったそいつは話す。

「私にとっては今日が最後の日だから」

そんな意味深なことを言う怜はまるで昨日までとは別人のように思えた。

「疑問に思わなかったのか?12月という時期の転校生に」

「多少な…けど、深くは考えなかった」

お互いに缶コーヒーを開けゆっくりと飲む。だがその温かさをかき消す言葉が怜の口から絞り出る。

「私という存在は今日 凍る」

その発言を一瞬で理解することはできなかった俺は沈黙する。

「私は特別な体でな…両親を失ったときからその命日。12月25日にすべての感情を失う。そしてその記憶は戻らない。」

その一言に俺は言葉を返せなかった。

「昨日はごめんな…悪気はなかったんだが今日で記憶もリセットされる。だからせめてクリスマスっぽいことをしてみたかったんだ」

そう言いながら彼女はこっちを見て、笑った。涙の痕が残るその笑顔は急展開すぎるここ数日の記憶を思い出させる。

「それに…言っただろ…私からのクリスマスプレゼントだ」

そう言った彼女はゆっくりと眠るように俺の肩に頭をのせてきた。

「サンタ…」

俺はお互いの空になったコーヒー缶をそっとベンチ横のゴミ箱にすてる。

「また来年」

俺はきっとまだスケートリンクを滑っている。来年も再来年も


いつか彼女の氷が解けるその時まで

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