第一話
「それでは、班決めをしましょう。同じ班になりたいなって人に、声を掛けてくださいね。男子3人、女子2人ですよ。」
「「「はーいっ!」」」
大きめに、でもおざなりに返事をすると、僕はすぐに辺りを見渡した。
だって実際、先生も言い終わったらすぐに教室を出て行ったから……ちょっと責任感が薄すぎると思う。子供にとってはいいことなのかな?
いや、ちょっといいことじゃない……そっか、幼稚園の頃は先生が決めてくれていたけれど、今度は自分で集まって決めなくちゃいけないんだ。
ん、こういう事に気づかせる意図とかがあった、とか?……ないか。
「タツくん、いっしょのはんになろーよ。」
「おう。」
意外と簡単に受け入れた彼に、ほっとする。
でもどうしよう、幼稚園から同じだった人は、タツ君しかいない……まぁ、幼稚園の時は一人も話しかけて行かなかったから、知り合いなんてのがいるわけないんだけど。
ギリギリ、男の子ならまだしも、女の子の友達なんて、まだ作ってない。なのに2人もなんて、どうしよう。
「うー……さびしい。」
タツ君曰く、友達を作る能力と言う物が壊滅的?にないらしい僕には、この数週間、本当にどうしたら良いか本当に分からなかった。
奇跡的に氷河君という友人を一人作ることができたけれど、正直、クラスになじめている気が全くしない。タツ君の事もあったし。
お父さんは、小学生でそんなの逆に珍しいなって、ちょっと面白がってたけど……僕からしたらとっても困る。
「さびしいとかいってるばあいでもねぇだろ、おまえ。」
「そうなんだけど、でも……」
そう言われたって、僕はまだ小学一年生なんだ。友達がいなけりゃ寂しいし、悲しい。というか辛い。病んでも良い?
そう考えると、やっぱり氷河君と言う存在は奇跡だった。
まあ、謎すぎる日に謎すぎる言動で転校してきた、最近はタツ君にもちょっぴり同意できるような、本当、本当に少しだけ胡散臭い彼だけど、それでも、僕にとっては救世主に近かったと言うか。
タツ君は意外と人と話すのが得意なところがあるから、すぐに他の子たちとばかりつるむようになりそうだったし。
ああでも本当、氷河君は何で僕たちに声を掛けて来たんだろう、謎すぎる。それが分かったら、僕もそう言う自分の良い所を活かして、友達作りに励めるというものなのに。
まぁ、活かせるほどの能力も持って無いし、実際そんな物があるのかも分からないのだけど……。
「わっ!」
「ふぁっ!?……って、ひょーがくんか。ビックリした。」
そう心の中で噂していたら、それを感じ取ったかのように氷河君が現れた。
というか氷河君、気配消すの滅茶苦茶上手いと思う、初めて会った時もそうだったし……タツ君が言うまで普通に良い人かな、なんて思っていた自分が恥ずかしいくらいに、謎だらけだ。
でもまあ、やっぱり良い人のような気もする。爽やかな雰囲気で、この数週間、勉強も運動も、何でもできることが分かった。
一年生なのに、三年生の先輩に「すごい」って言われていた。
だから多分、完璧すぎてつかみどころがない、みたいな……そんな感じ。
「つーか『ふぁっ!?』ってなんだ『ふぁっ!?』って。」
「あんまふかくついきゅーしないでよタツくん……あれだよ、デリカシーがないってやつだよ。」
「あはは、たしかにちょっとおかしかったな。」
「ひょーがくんまで!」
僕だって『ふぁっ!?』なんて変な声を出してしまった事には動揺してたんだから、あんまり言わないでほしい。
本当なんなんだろ今の。自分でも、もっと他に驚き方があったと思う。
こないだはちゃんと『わっ』だったし。
「まぁ、いまは『ふぁっ!?』のなぞはおいておくとして。」
「あ゛?おくなよ。」
「どうぞそのままおいておいて。」
「あはは、うん、おいておくとして、ふたりとも、おなじはんにならないか?」
そう言った彼の表情は少し硬い。
やっぱり氷河君みたいな人でも、こういう時は緊張するんだなぁって少しだけ可笑しかった。
でも、嬉しい。やっぱり友達ってすごく良いものだ。
それに、やっぱり小学校は良い所だ。寂しさがまぎれる。
「めしあ……?」
「なぜきゅうにちゅーにびょうなった?」
「もちろんいいよっ!」
「ほんとうか!」
「うん。タツくんもいいよね?」
「……どーでも。」
心底どうでも良さそうな反応に、氷河君と二人で苦笑いすると「あとはおんなだけだな」とタツ君が言った。
僕は瞬時に苦笑いをやめた。
「どうしたんだふたりとも、きゅうにかおをむにして。」
「ナンデモナイ。」
「……そうか。」
何かを悟ったかのような表情をされて、やっぱり子供らしくないよなぁ、と、最近よく思う事を考えた。
もはや頭の中だけだけど、口癖になってきている気がする。
それじゃ、口癖っていわないのか。なんだろ、頭癖?それじゃ寝ぐせみたい。
「わぁっ!」
「ぴゃんっ!?」
「「ぴゃん????」」
するとまた突然、誰かが驚かしてきた。
僕はそんなに驚かしやすそうな見た目をしているのだろうか。いや、驚かしやすそうな見た目ってなんだ?僕には分からない。
というか「ぴゃん」をりぴーとあふたみーしないでほしい。
「……ねぇタツくん、りぴーとあふたみーって、なんかのじゅもんだっけ?」
「とうとつにくだんねぇこときくな。」
「あ、ごめん……。」
僕が『ピーン』と、まるで真実に気づいた迷探偵みたいな顔で聞くと、呆れたような顔をされる。
そんな、無駄話をして振り返ると、そこには女の子が立っていた。
子供にしても高い声だな、なんて思ったら、女の子だったのか。少し納得した。
「えっと……なに?」
「……もしかして、まだきまってないですか?」
ふんわりとした雰囲気の女の子だった。
垂れ目のパッチリとした新緑の目は、優しく、少しだけ細められていて、愛らしい。
艶々とした絹のような髪は栗色で、風になびくと、ほんの少し金に輝いて。
長い髪を耳にかける仕草は幼いながらも美しく、まるで絵本の中のお姫様みたいだった。
「でも、そのみためでおどろかしてきたんだ……。」
「『ぴゃん』、かわいかったですよ?」
「……。」
僕は大人になるまでに何人、子供らしくない子供を見ることになるんだろう。
もう、一ヶ月に二人、あえてタツ君を入れるなら三人見た。
この子の、頭の回転が速くて、すぐに揶揄ってこれてる感じ。明らかに子供らしくない。どうしても子供らしくない。いや、こうやってすぐに悪態を心の中でつける僕だって、わりかし子供らしくは無いのだけど、それでも、この人たちよりはましな気がする。
「で、まだはん、きまってないんですね?」
「え?」
「きまってないんですね?」
「え、あ、」
「き・ま・っ・て・な・い?」
「あ……ハイ。」
「じゃあ、いっしょのはんになりましょう。」
そう言ってその子は聖女みたいな顔で笑うと、班決めの紙に、無理矢理自分の名前を付け足した。
別に、今そのことで困っていたのだから、反論することは無いのだけれど、それでも、こんなキャラの濃い子と同じ班かって、戸惑う。
タツ君も、面倒臭そうな顔をしてるし。
「そうだ、このこもいっしょでいいですか?」
「……このこ?」
「はい、このこ。」
そう言うと、彼女の後ろで不貞腐れて座っていた女の子が、むいっとこちらを向いた。
すごい目力で睨んでくる。
僕は、この後の自分の展開が、決して良いものではないことを悟った。
勿論、僕の後ろでげっそりしてる二人も。