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04 謁見室での歓談

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 祗園精舎の鐘の声〜盛者必衰の理をあらわす〜


 ……この言葉を体現するような集団がここジェダイト王国王宮に集っていた。


 王宮の謁見室に参集しているのは国王、王妃、第一王子と筆頭公爵家当主のビーニ公爵、ビーニ公爵御曹司であるパオロ・ビーニ、そして新たな聖女に認定されたイラーリア・ジラルディ侯爵令嬢とその父親ジラルディ侯爵、更には王国における教会の責任者である枢機卿ーーいずれも昨日の聖女追放を主導したキーマン達である。彼等は皆上機嫌で和やかな雰囲気のなか会話が弾んでいる。よほど楽しいのだろう……



「……昨日のことでの国王陛下の御英断、誠に感服致しました。あの役に立たない聖女を解任、国外追放にした事は多くの貴族家の支持を得ておりますぞ?

我が娘イラーリアの癒しの力は正に聖女に相応しい強力なもの、第一王子殿下との婚約も整い王家王国の威を遍く国内はもとより周辺各国にも示すことになるでしょう……」


「ふははは! ジラルディ侯爵。此度の仕置において、そちの貢献、なかなかの物であったぞ? 褒めて遣わす……」


「ふっふっふ、国王陛下、有り難きお言葉、感謝いたします……!」



 王宮の謁見室では国王とジラルディ侯爵によって悪者のお手本のような会話が交わされている。

 その会話に教会枢機卿が入り込んでいく。



「時にイラーリア嬢の聖女教育と聖女の御務めは速やかに開始する必要があります。出来れば明日からでもお願いしたいのです、いかがですかなジラルディ侯爵殿?」



 ジラルディ侯爵とイラーリアは途端に渋い顔になる。イラーリアは努力したり人に奉仕したりする事が大嫌いだ。一方で侯爵は聖女の管理を教会に独占されるのをよく思っていない。これは国王も同じ考えなのだが……その意を汲んで筆頭公爵家のビーニ公爵が口を出す。



「そうですな、イラーリア嬢もある程度の聖女教育と御務めは必要でしょう、貴族達の目もありますからなぁ。宜しければ儂が中立的な立場で調整してもよろしいですよ?」


「ふううむ。それも良いかもしれんな、公爵、骨を折ってくれるか?」


「承りました、お任せください」



 ジラルディ侯爵も枢機卿も公爵が割り込んでくるのは不満だったが国王の決定には余程正当な理由でなければ口を挟み辛い。



「……ところで偽聖女サーラはもう国外に出国したのか?」



 国王は第一王子に問いかける。第一王子はサーラには全く興味がないのでサーラの動向を把握していない。側近のパオロの方を見て発言を促す。



「恐れながら発言させていただきます。昨日ビアンコ男爵家を訪問して偽聖女サーラの動向を確認して参りました。

その際に、なんと男爵から「サーラを私パオロ・ビーニの妾に差し出すので何卒国外追放は勘弁して頂けないか」との必死の訴えを受けまして……

私としてもどうしたものかと困ってしまったのです。そういう状況ですのでまだ男爵家の近くに滞在しているはずです」


「ほほう? そうなのか、妾か……ならばパオロ君でなくとも適当な貴族に下げ渡すのも悪くないかもしれんな?」


「そうですよ、サーラ様は長らく聖女を偽ってきた罪人、パオロ様の妾などなんの罰にもなりません。罰になるような方にしないと……」



 国王の言葉にイラーリア嬢がすかさず意見を差し込む。令嬢が口を挟むなど礼を欠くのだが誰も気にしていないようだ。



「恐れながら、私の妾ならばいつでも折檻できますし第一王子殿下とイラーリア王子妃の幸せな生活を見せつけることも出来ます。十分な罰になりますので何卒ご一考を……」


「ははは! パオロ、貴様素直に妾に欲しいと言えば良いではないか! まあ良かろう、許可しても良いだろう。貸し一つだぞ?」



 国王の発言を聞いて喜色満面となるパオロとパオロをゴミを見るような目で見る王妃とイラーリア嬢。


 第一王子といいパオロ令息といいロクでもないな……枢機卿が威厳をたたえたすまし顔で参集メンバーの様子を観察していると…………おや?




 枢機卿がふと違和感を覚えて謁見室の斜め右上の天井付近に視線を向けると……


 そこには巨大な真っ黒い蠅が空中に浮かんでいた。


 全長2メートルほどもありそうな巨大な蠅は音もなく空中に浮かび前足をしきりに擦り合わせている。

 何を考えているのかさっぱりわからない巨大な二つの茶色い複眼。不気味と邪悪を体現するこの怪物は……!?



ガタン!



 枢機卿は椅子を後ろに蹴り倒しながら立ち上がると一目散に部屋の端、入り口ドアまで逃走した。ドアの向こうには衛兵がいるはずだ、震える手でドアノブを引いて開けようとするけど上手くいかない。声を上げて衛兵を呼び込むのも恐ろしかった、あの蠅の怪物が何をして来るか分からない……



 枢機卿の奇行をきっかけにして他の参集メンバーも次々と巨大な蠅に気付いてドアの近くまで逃げてきた。



「き……貴様は何だ! 怪物め……衛兵、部屋に入ってこい!」



 第一王子が堪らず大声を上げる。さすが普段から空気が読めないだけあって、この辺の度胸は良いようだ。

 ドアが開いて衛兵が入って来るが空中に浮かぶ巨大なハエを見て硬直する。



「……我は悪魔男爵。我が主人、悪魔王の忠実な僕である。ここには露払いのために先行してきた……

人間共、この地はこの瞬間から我らが支配領域となった、直ちに立ち去れ……」



 ハエが喋った! 余りのことに皆が声も出せない中、枢機卿はその僅かばかり持っている信仰心と神聖力を振り絞ってこの悪魔との会話を試みる。



「あ……悪魔男爵とやら……ここはジェダイト王都王宮である、大人しく自分達の世界に戻ってくれないか? 何か望みがあるなら出来る範囲で叶える……聞かせてくれ」


「……人間風情が我と交渉とは片腹痛い。

まあいいだろう……この地を我らの支配領域にする事は決定事項だ、すでに悪魔男爵である我が現界したのだからな……望みはこの地を悪魔王様の聖域にする事だ、サッサと立ち去れ」


「……ななな、なぜこの地なんだ? 土地は他にもあるだろう?」


「この地は三年前から我らの世界と繋がっていて他に替わりになる土地はない。

しかし、せっかく繋がったのに結界によって出入り口を閉鎖されていて難儀していたのだ、聖女のサーラ・ビアンコが結界魔法を使って結界を構築、我らを阻んでいた事は分かっている。

しかし昨日の夕方から結界が消滅したので我がこの地に来ることができたというわけだな。

お前たち、聖女サーラを追放したんだろう? 我らの世界との出入り口は謁見の間にあって、様子は観察できるからな……楽しく見物させてもらったぞ?」



 このハエの悪魔は何を言っているんだ? 聖女サーラが結界を構築して悪魔を阻んでただと?

 ……サーラからはそんな報告を聞いていない、あの女は三年前から急に癒しの力を使わなくなって……三年前? ハエの悪魔は三年前からサーラが結界を構築していたと言った。結界構築のために治癒魔法が使えなくなっていたのか?

 枢機卿は理解してしまった。無能な偽聖女と決めつけて追放したサーラが実は救国の聖女だった事に……


 一方でテンパった国王が半分発狂しながら衛兵を怒鳴りつけて指示を発する。



「……衛兵! 何をしている! この怪物を!悪魔を討伐せよ!」



 国王は部屋の出口から逃げ出しながら叫んだ。謁見室の面々は衛兵も含めて国王の後に続いて押し合いへし合いながらドアを通り抜けて逃走した。



 

 その後、近衛騎士団、更には魔法師団も非常呼集されて悪魔男爵討伐を試みたが悪魔男爵は対物理・魔法防御が途方もなく強力で攻撃は何一つ通用せず、悪魔男爵が放つ攻撃魔法によって王宮は破壊し尽くされ瓦礫と化した。



 王宮は壊滅したが騎士団の兵士や魔法使い、王宮に出仕していた使用人には幸い死傷者はほとんど出なかった。

 しかし悪魔男爵はおろか大量に湧き出してきた下僕の雑魚悪魔さえ一体も討伐することができず、悪魔達は城壁から徐々に貴族街へと支配地域を広げ始めた。こうなっては到底失地回復する事も叶わないとして王族はじめ王都にいた貴族は続々と王都を捨てて退避していった。



 悪魔男爵を含む上級悪魔達はお喋りが大好きで、聞きもしないのに自分達の事を色々と教えてくれる。彼等は人を見かける度に「王族が枢機卿やジラルディ侯爵達と結託して聖女サーラを追放したから結界魔法が効力を失って悪魔がやってこれるようになった」などと王族達の失態を面白おかしく教えまくった。


 このため、やむなく王都を立ち去る貴族・平民達の間には王家とビーニ公爵家、ジラルディ侯爵家、第一王子とイラーリア嬢、そして枢機卿に対する不信と不満が爆発。


 その後、かつて政争に敗れて地方に蟄居していた王弟を担ぎ上げた有力貴族家がクーデターを敢行、1ヶ月後には国王をはじめとする聖女追放を主導してこの事態を招いた責任者は罪人として捕縛されて地下牢に幽閉された。




 そして新国王に即位した王弟は、悪魔の侵入を結界魔法によって阻止してきた真の聖女サーラとの関係修復と彼女の帰国に向けて動き出したのであった……







読んでいただきありがとうございます。

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次話05 再 会

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