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03 お断り致します!

【評価】と【ブクマ】ありがとうございました!

 男爵家の執事が私を呼びにきた。お父様が私を呼んでいるということはパオロ様がさっき持ち込んできた「良い話」のことだよね。

 あんまり聞きたくはないなあ……



「せっかく一緒にオブシディアン王国に行く打ち合わせをお茶でも飲みながら楽しくしようと思ったのに。

行きたくないな、どうせパオロ様が言ってた妾の話だろうし」


「ええ、お姉ちゃん? お父様に対して大丈夫なの無視とか?」


「私はもう21だよ?それに妾の子だからってロクに手もかけないで聖女になってからも放置しておいて今更だと思うの。

それに私は国外追放の身だからね、何人たりとも私の出国を阻止する事は出来ないのよ、私の国外追放は国王陛下が命じたんだからね? パオロ様が持ち込んできた妾になる話なんか欠片も興味ないから」



「……お姉ちゃん、妾の話って何?」


「ああ、それはね、パオロ様がね、私がパオロ様の妾になれば国外追放を撤回させてやる、第一王子殿下の許可はもらっている、とかお父様に持ちかけているのよ! 信じられる?」


「信じられない! なんなの妾って!」


「そうなのよ、パオロ様は子供の頃から変だったから! あなたたちも気を付けなさい? このままこの家には居たら危ないところだったかも」


「そういえばパオロ様はエミリーお姉ちゃんをいやらしい目で見てた事あったよ!」


「そうでしょう、そうでしょう。パオロ様はそういう人だからホント気をつけるんだよ? でも私たちはすぐ王都を出てオブシディアン王国に向かうんだから永遠にサヨナラできるから大丈夫か」




 コンコン! コンコン! 「サーラお嬢様! 早くおいで下さい! 旦那様が催促なさっていますよ! 執務室まで来てください!」




「……分かりましたよ。行けば良いんでしょ行けば。しょうがないね、どうせお父様にはお別れのご挨拶も必要だし。

あなた達どうする? 私と一緒に家出ますって言っちゃう?」


「そうだね、あたしは元々教会に採用されたらこの家から出る予定だったしね、一緒に行く」


「じゃあたしも」





 エミリーの部屋の引き戸を開けて三人で連れ立って部屋を出る。




 呼びに来た中年執事が睨みつけてくる。私をお嬢様って言ってるくせに相変わらず扱いが軽い。お父様が私達に対するこんな態度や扱いを良しとしているからだ。やはり妹達もこの家から出た方がいい。




「サーラお嬢様、あまり手間を掛けさせないで頂きたいものです。それでエミリー様とラウラ様は何故一緒なのですか? 旦那様はサーラお嬢様をお呼びになったのですよ?」



「……お黙りなさい。私のやる事に口出しをしてはいけません。あなたは使用人らしく家の人間のやる事を黙って見ていなさい」



「な、なんたる暴言を……旦那様にしっかりとお伝え致しますからね!」


「伝えたかったら勝手にどうぞ? 貴方……家の人間に対して何なんですかその態度は。エミリーやラウラに対してもこのような態度を取ってるらしいですね。そのような態度は今後一切許しませんよ?」


「………………」




 中年執事は怒りのあまり鼻息荒く私を睨みつけてくるけど一応静かになってくれたので十分です。三人揃ってサヨナラする為にお父様の執務室に向かう私たち三姉妹。こんな日が来るとは感慨深い。これからは自重しないで魔法をバンバン使っていこうと思う。聖女じゃなくなった私は自由。昨日までとは世界が違って見えます。女神様、悪魔の王宮への降臨はもうすぐです……




 執務室に到着です。



 コンコン! 「サーラです」


「入れ!」




 ドアを開けて入って行く私たち三姉妹。む? パオロ様が居る。さっきの話を一緒にする気なの?




「……お待たせ致しましたお父様」


「遅い! 儂が呼んだら直ぐに来なさい」


「はい……次回からは気をつけます」


「で、何でエミリーとラウラも来たんだ?」


「私もお父様にエミリー、ラウラと揃って用事がありましたので。ダメですか?」



「まあ良いだろう……実はここにおるパオロ・ビーニ様がお前を妾としてビーニ公爵家に輿入れさせても良いとのご提案でな……儂とパオロ様との間で合意したので伝えておく。

このことでサーラ、お前の国外追放が撤回されるとのこと、第一王子殿下の御慈悲に感謝しておったところだ。

ビーニ公爵家への輿入れは一月後の佳き日に行うとのビーニ家の意向だ。それまでに身の回りを整理して整えておくように。分かったな」



「妾としての輿入れにつきましてはお断り致します」



「そんな事は認められん! 輿入れは決定事項だ!」


「お断り致します」


 ーー身体強化(防御)!


バシーン!!




 お父様のビンタが派手な音を立てて私の左頬に炸裂する……何なの、女性にするような事じゃないでしょう全力ビンタとか……身体強化(防御)のお陰で全く痛くないから良いけど♪




 微動だにせずに平然と立っている私にビンタのフォロースルーの姿勢のまま驚愕するお父様。




「じゃお断りしましたからね。このお話は終了ですね?」


「そ、そんな訳あるか!」




 直立不動のまま睨み合う私とお父様。このままだと埒が明かないな、困った。お父様がこんなだとは。エミリーとラウラを連れてきたのは失敗だったかも……





 ビアンコ男爵家屋敷の当主執務室。

 ここでは当主であるダニエル・ビアンコ男爵と長女サーラが仁王立ちをして睨み合っている。すでに10分位は一言も交わす事なく睨み合っている。

 



 仁王立ちをして睨み合っているようで割と平然としているサーラに対して父ダニエル・ビアンコ男爵は混乱していた。


 ……おかしい。サーラはこんな口答えする子ではなかった。もっと素直で扱い易い子だったはずだ。神殿で聖女になってからも扱い易かった。一ヶ月前に会った時だって扱い易かった……

 なぜ急に変わってしまったのか? 聖女解任、婚約破棄、国外追放のトリプルコンボのショックで精神が病んでしまったのだろうか?



 ダニエルにはサーラ姉妹を軽く扱っていると言う意識は無かった。ただ普通の人より人に対する興味が無く人の気持ちが分からないだけであった。従ってダニエルは本妻や本妻の子達からもそこそこ嫌われていた。


 さっきもサーラに全力ビンタを張ってしまったがこれもこの男の衝動的で人の痛みが分からない性格によるもので本人はちっとも悪いと思って居なかった。軽くサイコパスが入っているのかもしれない……



 父ダニエルは思考を加速する。


 サーラが儂のビンタにビクともせず平然としている……サーラにビンタを放った自分の右掌に意識を向けると肘から先の感覚が無くなっている。まるで鋼鉄の彫像を全力ビンタしたようだった。右手はもう使い物にはならない、骨折している可能性もある。


 感覚が無くなっていた右手が猛烈に痛みだした。痛みの余り脚が震えて顔から脂汗が滲み出ている。恐らく顔面も蒼白となっているだろう。


 隣のパオロ・ビーニを見ると頬が紅くなっているものの何か行動を起こす様子は見えない。この役立たずめ……しかし、どうやって父親の威厳を保ちながら早急にこの場を収めるかー。







 仁王立ちをして父ダニエルと睨み合っているのもいい加減に飽きてしまった。なんなのだろう、この無意味な時間は……

 このままお父様と睨み合っていても話は進まないよね、しょうがないから曖昧な返事で結論を先送りにする作戦でいくか……ホントは妾なんて絶対お断りだけど、ここジェダイト王国では子供の婚約・結婚の決定権は父親にあるのよね、厄介だわ……



「……ではお父様、お父様がそれ程仰るのであれば妾としてビーニ家輿入れのこと、一ヶ月ほどジックリと前向きに考えさせて頂きます。

返事は一ヶ月後にお答えしますのでお待ちください。私達はこれからお友達のところにお泊まりに行きます。探さないで下さいね? もうお友達との約束の時間ですのでこれで失礼します。ご機嫌よう」



 私は綺麗なカーテシーをして一方的に辞去することを告げる。辞去するのを阻止されたら聖女パワーを解放です。なるようになるでしょ……



「お、おう、分かった。一ヶ月後だなサーラ、前向きの返事を待っておるぞ……」



 お父様は顔面を(怒りのため?)蒼白にして手足を震わせてながら絞り出すように返事を返してくれた。どんだけ怒ってるんだか……

 パオロの方をチラリと見ると顔を真っ赤にして震えるだけで何も言ってこないので相手にせずサッサと立ち去ることにする。



 私とエミリー、ラウラの三人はお父様に一礼して執務室を出た。パオロは居ないものとして完全に無視です。



 直ぐにエミリーとラウラの部屋に寄って持っていく貴重品はカバンに、その他持ち出したい物は私の空間魔法に詰め込んで二度と戻らなくてもいいようにしてからビアンコ男爵家屋敷を後にした。



 屋敷の門前には二頭立ての大型の箱馬車が停車していて御者台にはレオナルド様が座っている。



「レオナルド様、お待たせいたしました。もう準備はよろしいのですか?」



「はい、サーラ様。神殿から馬車を借りてきたので乗ってください……でも食料品などを買い込んでから出発した方が良いですね。商業地区に立ち寄っていきましょう」



 神殿から馬車と馬を拝借してくるとはレオナルド様さすがです。ちょっと見直してしまいました。エミリーたちも尊敬の眼差しになってる。

 さっそく私たち三人は箱馬車に乗るといったん商業地区に立ち寄って食料品や足りない日用品などを買い込んだ。レオナルド様は気を利かせて私の部屋から荷物を馬車に詰め込んできてくれていた。ありがとうございます、レオナルド様の株は爆上がりです。






 私たちが乗った箱馬車は王都の外壁を通り過ぎて北東の方角、オブシディアン王国目指して街道を軽やかに進んでいく。 


 時刻は午後の三時頃、この調子なら夕方には一番近い宿場町に到着して宿に泊まれると思う。

 私、エミリー、ラウラの三姉妹は楽しげに談笑しながら馬車の座席に座っている。



「結局お父様にはオブシディアン王国に向かうことも告げずに出発しちゃったね」


「そうねえエミリー、でも国外追放された私はグズグズしてられないし。キチンと説明したり筋を通したりすると際限なく拗れるような気がしたから……」


「お姉ちゃん、あたしは成る程って思ったよ? 下手にケジメ付けて妾になるのを断ったり義理を欠かないよう説明したりしないで適当なこと言ってサッサと出て行けば良いんだってね。勉強になるよ」


「ラウラ、私もさっき気付いたのよ。パオロ様とか放置して出て行っても何の問題も無いってね。

ああ言っとけば妾の話とか国外追放を撤回とかの話は宙ぶらりんで永久に決まらないから。しかも一ヶ月後は私たちはオブシディアン王国にいるから返事するって約束は放置するし。

なんかお父様は顔が真っ白になるくらいプルプル震えて怒ってたし、当分顔を合わせない方が良いと思うんだ……あれ?」



 私は違和感を覚えた……今まで背中に背負っていた荷物を下ろしたような爽快感、身体が軽くなったような感覚。

 そうか、結界魔法維持の距離限界を超えて離れてしまったため結界が解除されたのか。私は箱馬車の窓から顔を出して王都の方向を見てみる。



 遥か遠くに見える王都王宮の上空には真っ黒な雲……靄が渦巻いていた。女神さま、良くないことが起こりそうな気配です……





読んでいただきありがとうございます。

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次話04 謁見室での歓談

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