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01 追放された偽聖女

全5話となります。気軽に読んでいただければ幸いです。


「サーラ・ビアンコ男爵令嬢! 私は真実の愛を見つけた! ゆえにジェダイト王国第一王子の名において貴様との婚約を破棄すること、そしてこのイラーリア・ジラルディ侯爵令嬢と新たに婚約することを宣言する!」



 は? 真実の愛……?


 ジェダイト王国王宮の謁見の間に大きな声が響き渡る。謁見の間の最上段の玉座には国王陛下と王妃様。

 国王陛下の手前には私に婚約破棄を告げた第一王子が厳しい表情で私を睨みつけている。王子の隣にはイラーリア・ジラルディ侯爵令嬢が勝ち誇った笑みを浮かべながらピッタリと寄り添う。


 謁見の間の中央で聖女の聖衣を身に纏い、ひとり跪いている私に第一王子は更に追い討ちの言葉を告げていく。



「貴様は聖女にもかかわらず癒しの奇跡を示すこともなく、ただただ漫然と祈りを捧げる振りをしながら贅沢に塗れ、神殿の巫女や神官を虐め抜いていた! このイラーリア嬢や神官たちの証言もある、言い逃れはできないぞ!

しかし幸いにもこのイラーリア嬢が癒しの力を発現した。本当の聖女がイラーリア・ジラルディ侯爵令嬢である事が分かったからには貴様は偽聖女として国外追放を申し付ける!」





 第一王子とイラーリア嬢の周りには王子の側近たちが控えている。騎士団長令息、宰相令息、そして筆頭公爵家令息……この公爵家令息は私の幼馴染なのにニヤニヤしながら私を見下している……そういえばこの人は小さい時から質の悪い屑だった。


 しかし、ありもしない嘘八百で私を貶めて偽聖女の汚名を着せて国外追放するとは、第一王子とイラーリア様はよっぽど私が憎くて邪魔なんだね。


 第一王子は自分に余り好意を示さず媚も売らない私を嫌っていたからね、私が聖女の御務めで忙しかったから殆ど会いにも行かなかったのもあるけど聖女だからって無理矢理婚約させられただけで私だって第一王子は好きじゃなかったし。

 それと第一王子が19歳なのに私が21歳と歳上である事も気に入らなかった筈だ。


 イラーリア様は王子と同い歳の幼馴染であるうえに異性として好意を持っていて、男爵令嬢の私ごときが聖女だからといって王子の婚約者に収まっていることを常々不満に思い、それを隠すこともなかった。




 国王陛下と王妃様の様子を窺うと二人は玉座に座ったまま冷たい目で私を見つめている……陛下達は私の味方ではなく敵で第一王子のこの茶番劇は承知の上という訳か。

 これはもう終わってるね、婚約破棄と国外追放は決定事項で揺るがない……私は観念して意を決して声を発する。



「……承知しました。婚約破棄と国外追放のこと、承りました……では失礼いたします」



 私はゆっくりと立ち上がって丁寧に、深々とカーテシーをして謁見の間を退出した。





 王宮から出て行くためにひとり歩いてエントランスに向かう私。馬車寄せに到着して見回すも、神殿から王宮まで私を乗せてきた馬車はいない上に私を案内してくれそうな侍女はおろか使用人も居ない。歩いて立ち去れということか……私は城門に向かって歩き出した。







 私は王宮を囲む城壁の城門をくぐり抜ける。門の両側に立つ衛兵は私を横目で観察するも声をかけてくることはなかった。

 城壁外周に設けてある環濠に架かる橋を渡り終えてやっと肩の力が抜ける。




「……やったー! 自由だ……! 第一王子との婚約を破棄できて聖女の肩書きも返上できた、これで好きに生きていける……!」



 思わず喜びの声を出してしまった私は慌てて周りを見回してみる。

 城門の衛兵は知らん顔をして立っているし他に私に注目している人は居ないみたいだ。

 聖女の聖衣を纏った聖女らしき女性が一人で街中にいても案外と注目されないんだね……




 さて、これから私は国外に退去しないといけないんだけど、行き先としては東のオーバル王国か北東のオブシディアン王国の二択になる。

 行くならオーバル王国よりもオブシディアン王国の方が良さそう。大国だし首都は随分と栄えているらしいから住み心地も良さそうだからね。

 ちなみに西に行くと広大な地中海が広がっていて他の大陸への船旅になる上にそこは未開の荒野や森林になっていて異民族が跋扈しているらしい。住み心地は悪そう。




 という訳でオブシディアン王国に向かうとして……大事な物や貴重品とお金は空間魔法を使って格納してあって神殿の自室には大した荷物は置いてないから立ち寄る必要はない。


 私が一生懸命聖女の御務めを果たしているのに神殿の神官長を始め神官や巫女達は私に友好的でなく、常に嫌がらせをしてきて持ち物を壊されたり隠されたりもしたのだ。私が下級貴族家出身だからといって侮っていたんだろう……虐めていたのは私じゃなくて神官や巫女でしょう?


 さっきの謁見の間にも神官が何人か居たけど私が婚約破棄と国外追放の宣告をされている時ニヤニヤと笑ってたから神殿は王家とグルなんだろうね……やっぱり神殿なんかに立ち寄る必要はない。




 ……そうと決まれば実家の男爵家に戻って妹二人を勧誘して行こう。年の三つ離れた18歳の妹と16歳の一番下の妹。この子達は私ほどじゃないけど聖女の素質があるからこのままではいずれ神殿に連行されて私みたいに酷い目に遭わされるかもしれない……









 国外追放の宣告を受けて追放された元聖女である私、サーラ・ビアンコは王都貴族街を早足で歩いていた。



 王都の街は広大な敷地を有する王家宮殿を囲むようにして貴族の屋敷街が広がっていてその東側に歓楽街や商業地域、更に外側に平民居住地区が広がっている。

 貴族街の西側には神殿を中心とした教会地区が広がっていて聖女だった私が住んでいた部屋もこの地区にある。もう立寄ることもないからどうでもいいけどね……


 私の実家であるビアンコ男爵家は貴族街の南の端、貴族街としては一番不便で格式の低いとされる地区にある。私は宮殿城壁の南門を出て貴族街の南にある実家に向けて歩いている。




 ……私は歩きながら今までのことを思い返していた。


 私、サーラ・ビアンコが生まれたビアンコ男爵家はジェダイト王国筆頭公爵であるビーニ家の陪臣であるものの、歴代ビーニ公爵家の家老を輩出する名家で私の父親は現在ビーニ公爵家の家老を務めている。


 そのような有力な家の長女でありながら私と二人の妹は軽く扱われてきた。私達の母親が平民出身で妾だったからである。




 私を含めて女子ばかり三人を産んだ母親は癒しの力を持っていたけど、神殿に囲われて聖女として奉仕しても余り良いことはないと考えて癒しの能力を隠していた。

 そして希少な癒しの能力を娘三人全員が発現させた事を知った母は私達に能力を隠させた。

 長女の私だけは五年前に事故で大怪我をした母を助けるため癒しの力を使ったことでバレて神殿に連れて行かれてしまったけどね……



 平民で妾の母と私達三姉妹は後ろ盾になってくれる人も無く、身を寄せ合って生きてきた。その母も三年前に他界してしまった……



 神殿に連れて行かれた私は強力な治癒魔法を使えたため聖女に認定され第一王子の婚約者にさせられた。


 聖女になってからは癒しの力を都合よく使われながら様々な魔法の勉強にも力を入れて空間魔法や身体強化、攻撃魔法なども使えるようになった。が、その事は隠した。

 色々な魔法が使える事がバレると更に面倒になると思ったからね、力を隠すのがお母さんの教えでもあったし……私はどうやら歴代聖女の中でも飛び抜けて力が強くてオールマイティの魔法使いでもあるらしかった。




 ある時、いつもの様に神殿の最奥、女神様と交信が出来ると言われる聖域で祈りを捧げていると突然「女神様の啓示」を得た!



 ……王宮に悪魔が降臨しようとしています……放置すれば王宮は悪魔の巣食う魔境となって徐々に広がり王都を飲み込んでしまうでしょう……あなたが結界魔法を使えば悪魔の降臨を阻止できます……ただし結界魔法を発動している間は他の魔法を満足に使えません……ごく小規模な魔法なら使えますが……そして結界魔法の発動者は王都から離れることはできません、遠隔地から結界を維持することができないからです……



 この啓示を得た私は王都と王宮を守るため、直ちに結界魔法を使った。王都貴族街のはずれに住むお母さんと妹達の生活を守らなければならないから……


 ただし私が「女神様の啓示」を得て「結界魔法を使って王都を防衛している」ことは誰にも話さなかった。話したって真実であることを証明できないし、証明できたとしても永久に神殿に拘束されて使い潰されるだけだから。結界魔法なんて超高難度魔法を使える人は私以外には居なかったしね。




 それ以来私は癒しの魔法を使うことなく神殿最奥の聖域で祈り続けた。別に祈らなくても結界に問題は起こらないけど女神様から啓示があるかも知れないと思ったからね、だけど啓示はあれっきり二度と得ることはなかった。


 結界魔法を使っている私はごく小規模な魔法以外は使えない。このため王族や高位貴族に治癒魔法をかけてあげる事ができなくなった。この事が今回の婚約破棄と国外追放の直接の原因だということはすぐにピンと来た。


 でも私としてはどうしようもない。私が国外に退去すれば王都は悪魔が降臨して魔境に飲み込まれるだろうけど聖女を解任されて国外に追放されたのだからしょうがないよね……だから妹達を連れてさっさと出ていこう。


 何の罪もない王都の住民は気の毒だけど騎士団がいて戦えるんだから逃げるなり隠れるなり対応はできると思う。私一人で全ての面倒は見切れないから……むしろ今まで人知れずたった一人で王都を防衛してきたことを感謝してほしいと思う。



 足取りも軽く貴族街を実家の男爵家に向けて歩く私。

 ……あの第一王子は正直言って嫌いだった。顔は並はずれて良いが頭は悪く性格は傲慢。プライド高く私を常に下に見て口を開けば嫌味と悪口のオンパレード、彼と面会すると頭痛がして吐き気がするから自分自身に治癒魔法が必要なくらいだった。しかし結界魔法を発動させてからはそれもできないため地獄だった。第一王子との婚約を破棄されて心の底から嬉しかったよ……




 そう考えると今日はなんて素晴らしく良い日なんだろう! 今日舞い込んだ特大の幸運を女神様に感謝してスキップでもしようかと思った時、神殿の方からこちらに走ってくる若い神官が目に留まる。あの神官は……?




「サ、サーラ様! 良かった、ご無事……だったんですね!……ゴホゴホ!」



 走ってきた若い神官は息も絶え絶えに咳き込みながら私に声を掛けてきた!




読んでいただきありがとうございます

『イラーリア嬢と第一王子が悪者』『第一王子の取り巻き達は屑』などと思われましたら【評価】と【ブクマ】をどうぞよろしくお願いします

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次話02 私に良い話を持ってきた?

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