ほうじ茶
自分で言うのもあれなんだけど、けっこー人気者なんだぜ。
制服姿のお姉さんは贔屓目に見てくれるし、私服のお兄さんは常連さんで、毎日午前8時半ごろ会いに来てくれる。
冬場とか寒いなぁと感じる時もあるけど、必要とされていることが嬉しくて嬉しくて、もっともっと売れるぞーって意気込んでたんだ。
それが最近、様子がおかしい。
みんなの対応が急に冷たくなって肩身が狭くなった感じがする。
原因は確実にあの子だ。新しく仲間入りしてきて、容姿は大差ないのに、僕より少しだけ安いあの子。
制服姿の君は僕なんかに見向きもしなくなって、その子のことばかり気にかけるようになった。僕は日に日に隅っこに追いやられた。ちょっと悲しい。
あーー。
誰かに見てもらう時間が格段に減って、一日に一歩か二歩しか歩けなくなって、流石に落ち込んだよね〜。だって、新入りに颯爽と追い抜かれるんだもん。悔しくないって言ったらウソになる。
でも、世の中が僕よりあの子を求めてることも認めないとなぁ。
いつか安売りでもされた時にでも、もう一花咲かそ..
「酒井さんって最近出た安い方のほうじ茶選ばないんですね。」
「一回だけ試してみたことあるけど、こっちの方が飲みやすい。俺はこっちの方が好きかな。一口あげるから飲んでみ?まじハマるから。」
「マジすか。じゃ遠慮なく。...って、酒井さんもう8:35っす。急がないと。」
「それはヤバい。店出たらダッシュ確定だな。」
人の体温を感じながら駆け抜ける都会の風は凄く心地よくて、優しい景色がどこまでも広がっていた。