◆第七話◆ 瞬殺
「貴様の事は調べさせてもらった」
ステージの上には、エデルとバロンの二人だけとなった。
手にした補助魔法具を、確かめるように調べているエデルに対し、バロンが悠々とした態度で語る。
「エデル・クラーム。クラーム領、現領主の次男」
その顔に、嘲笑を浮かべ。
「そして、昨日行われた入学前の魔力審査における結果は……レベル0」
「………」
高らかに、歌うように言うバロンに対し、エデルは手にした補助具を振るっている。
「表示された全てのステータスに0が並んでいたと聞いたが……驚いた、まさか、その程度の実力でこの私と相対する気が起こるとは」
バロンは口元に手を当て、演技染みた動きで語る。
「教えてやろう、入学前審査における私のステータスは……レベル20」
その数値に、どよめきが起きる。
「魔力値21、魔法適性値(火)27、魔法適性値(水)19、魔法適性値(風)19、魔法適性値(土)22、魔法適性値(光)34、魔法適性値(闇)17」
口にされる数字一つ一つにざわめきを起こす新入生達。
その反応に、バロンは満足したような表情となる。
「それに、さっき、何と言った? 随分大きな口を叩いていたな。どう死にたい、だったか?」
ははははははははと、大仰に笑い。
瞬間、その顔に怒りの形相が浮かんだ。
「思い上がるなよ、無能が! 貴様如きが、こうして私の前に立っていることすらおこがましい!」
ブオンと振るわれた補助具の切っ先が、エデルに向けられる。
「かかってくるがいい! その売女の娘共々、ここに居られぬほどの恥を味わわせてやる!」
静まり返る会場内。
その殺意の全てを向けられたエデルは、そこで改めて、バロンを見て。
「……言いたい事はもう終わったか?」
「なに?」
「それが最後の言葉で良いのかと聞いている」
補助具を肩に担ぐと、エデルは言う。
「お前の言う言葉……全て、そっくりそのままお前に返してやろう」
心底くだらなそうに。
「よくその程度の実力でこの俺と相対する気が起こるな、思い上がるなよ無能、こうして俺の前にお前が立っている事すらおこがましい」
ふるふると、バロンが震える。
「それと……希望は言わなくていいのか? 自分の死に様くらい、自分で決めたいだろう」
「貴様……」
「まぁ、いい、ならこっちの好きなようにさせてもらう」
「……進行!」
バロンの怒声に、進行役の男性が慌てて手を上げる。
試合開始だ。
「まずは気絶しない程度に痛めつけ尽してやる!」
補助具を構えるバロン。
その先端に、稲妻が生まれる。
「体の自由を奪った後、何度も何度も何度も何度も痛みを与え続けてやる! 死にかけの虫のように醜くもがき続けろ、無能がぁ!」
放たれる稲妻。
直後、エデルはバロンのすぐ真横にいた。
「――え」
そしてその手にした補助具が、目にも留まらぬ速さで振るわれ――。
一閃と共に、バロンの首が刎ねられた。
「――――」
飛んで、ゴロゴロと転がって、バロンの首がステージ上で空を見る。
「《強化》……まぁ、簡単な身体能力の強化だ」
誰に言うでもなく、エデルはそう、どうでも良さそうに呟いた。
すべては、刹那の出来事だった。




