◆プロローグ◆ 大賢者エデル
戦闘中に『スタートボタン』を押してメニュー画面に移ると、一瞬でアイテムを使えたり、装備を変えられたり……。
相手からすると、時間を止められたかのように感じますね。
そんな能力を持った主人公のお話です。
よろしくお願いいたします。
最強の【大賢者】、エデルは絶望していた。
魔力と魔法が存在する世界。
エデルは、レベル99に達した伝説の【賢者】……【大賢者】だ。
【魔王】は彼の強さに恐れ慄いた。
【勇者】も彼には敵わないと跪いた。
全てを踏破し、彼は無敵だった。
しかし、彼は絶望していた。
それは何故か。
レベル99……世界最高峰、歴史の中で彼のみしか到達し得なかった、究極の高み。
(……だが、それは即ち、ここが終着点ということ……)
山をも飲み込む巨大なドラゴン。
その死骸の上に悠々と座り、夜空を眺めながら、エデルは思う。
(……これ以上の成長は望めない……)
世界最強の力と地位……それ以上の何を望むというのか?
きっと、多くの者はそう言うだろう。
(……だが、俺は……諦めたくない。この〝限界〟を超えたい……)
彼は考える。
考える時、彼はある『スキル』を使う。
『スキル』とは、魔力を持つ者に稀に備わる、その者独自の能力のようなものである。
理論化、体系化のされていない魔法と違い、『スキル』には個性がある。
そして、エデル……彼の使用する『スキル』……それは、彼にのみ備わった『書庫』と呼ばれるスキルだ。
――――
目を開けると、彼の目前には膨大な本棚が並ぶ空間が広がっている。
ここは、彼の頭の中に存在する、彼が今まで学び得た魔術知識を、本のように綴って収めた『書庫』である。
彼は椅子の一つに腰掛けると、本棚から書物を取り出し、読む。
かつての知識の復習。
新たな理論の構築。
読み、学び、研鑽するのだ。
この『書庫』での時間は外界とは違い、外での一秒がこの世界では三十分程になる。
今日彼は、今までに無いほど深く、長く、『書庫』に潜った。
何百、何千、何万という書物を読み漁った。
体感時間で、どれほどの時が流れただろう。
「……見つけた……」
エデルは、微笑を浮かべる。
彼は、一つの結論を出すに至った。
――――
それは、秘術。
彼の知識を総動員させ、編み出した、彼のみしか知らず、彼のみにしか扱えない秘術中の秘術。
簡単に説明するなら、1000年後の世界に転生するのだ。
彼の持つ、レベル99の膨大な経験と知識、その全てを魂に保存し、真っさらな器に継承させる……即ち、新しい子供の体に転生する。
それは、未だかつて誰も行おうともしなかった、神をも畏れぬ……否、神に挑戦するかの如き所業。
エデルに躊躇はなかった。
後悔も無かった。
瞬く間に準備を整え、彼は己の魂を千年後へと送るための、深い眠りに陥る。
――そして……。




