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第0話 幻影風景


 春の陽気がまだ残っていたとある日、学校が終わった後、いつものように一緒に帰っていると、あの人は寄り道をしようと言い出して、私をオープンテラスのカフェへと連れて行ってくれた。


 とてもおしゃれなお店で、中学生の私が入るのには気が引けたのだけど、あの人は私の手を取って店内の窓際の席へと案内してくれた。


 あの人が席に座ったので、私は周りを気にしながらあの人と向き合うように席に腰掛け、ここに私がいたら場違いじゃないかななんて思ったりした。


「大丈夫? 私がいても?」


 私はみすぼらしい格好をしているんじゃないか。あの人とは住む世界が違うようなもので、このお店もあの人も釣り合いが取れていないんじゃないか。


 私はそう思っていた。


 あの人はそんな私の心を見透かして、ゆっくりとかぶりを振った。


 私はすっかり舞い上がってしまった。


 あの人が私を新しい世界、新しい自分へと導いてくれるようで。


 しばらくすると、綺麗なウェイトレスさんがお水を運んできた。


「ブレンドコーヒー」


 あの人は『ご注文は?』と言われる前に、簡潔に注文した。


 私は慌ててメニューを手に取り、


「こ、ココアで」


 ぎこちなく、上ずった声でそう言っていた。


 ウェイトレスさんはそんな私のぎこちなさを笑う訳でもなく、注文を復唱して去って行った。


 程なくして珈琲とココアが私達の机の上に並べられた。


 あの人はミルクも砂糖も入れずにブラックのまま美味しそうに飲み始める。


 それなのに、私は甘ったるいココアだ。


 ちょっと引け目を感じながらも、あの人の顔を見つめた。


 見つめたと言うよりも魅入っていた。


 端麗な顔立ちと中学生なのに高校生か大学生のような大人びた雰囲気が魅力的だった。


 そして、外見と反するようにもろく儚い一面も魅力的だった。


「……有紀」


 あの人の唇から私の名前が呼ばれた。


 その声音だけで、心が震えてきて嬉しくなる。


 私はこんな関係がずっと続くのだと思っていた。


 中学を卒業した後も、高校を卒業した後も、大学を卒業して就職した後も、ずっと続くのだと思っていた。


 でも、私達の関係は壊れてしまった。


 あの事件によって……


 あんな事をされてしまって……



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