第054話 「家族奪還」
デモン達との戦争が始まった。
ティグハートの500人の先鋭達は隊列を保って森を抜ける。
そして街へ向かって一気に加速する。
街の入り口では多くのデモンが僕らを待ち構えていた。
「突撃ーーー!」
カルバンの号令とともに本隊であるティグハート騎士団がデモン達とぶつかる。
すぐに悲鳴と怒号が混じった大乱戦となった。
さすが選りすぐりの先鋭だけあって、見たことのない紫色した異形の化け物にもひるまずに剣を向けている。
僕らは街中のデモンは相手にせず先へ進む。
大監獄に着く間に2体のデモンを始末した。
弱い。
攻撃も防御もまるでなってない。
いや、それだけ僕とハクビが強くなったということだろう。
正門(南門)についた僕とハクビとジジは誰よりも早く大監獄へ入った。
他の3チームもそれぞれの門へ走る。
奥に進んで行くと通路の両脇は牢屋で一杯になる。
見張りのデモンは多くないようだ。
遭遇するデモンは瞬殺し、片っ端から牢屋の鍵を破壊していった。
突き当たりの特別頑丈そうな牢屋の中にその人はいた。
やつれているがそれでもどこか気品がある。
濃茶の髪をした女性。
意識がもうろうとしている様でうつろな目をしている。
女性の目からは涙が流れている。
悲しくて泣いているんじゃない。
僕らを見てうれしくて泣いているようだ。
「母さん!」
ハクビが勢いよく牢屋の鍵を壊し、カカを抱き寄せて首輪を切断する。
「ジジは母さんを連れて父さんの所へ全速で帰還」
僕は冷静に発声した。
ジジはハクビと入れ替わりでカカを抱き抱えて、移動を開始しようとする。
カカとはっきりと目があった。
僕はカカが心配で仕方ない。
「キョウ、あたしの坊や。
そんな顔しないでよ。
母さん、大丈夫なんだから」
声もかすれてるし声量もない。
意識を保ってるだけで精一杯の様子だ。
しかし、大きなオオカミの獣人に抱えられた女性は、細腕に力コブを作りながら歯をむき出しにした。
我が家のムードメーカーのサルの決めポーズだ。
『まっかせなさーい』と言っている。
「うん。カカ。わかってるよ」
僕は素っ気なく答えて目をそらした。
年相応の思春期がきたわけじゃない。
そうすることでしか自分を保てなかった。
無理して明るくふるまう母さんに触れたかった。
本当は泣き叫んで駆け寄って、抱きしめたかった。
けど、それをしてしまったら僕の緊張の糸が完全に切れてしまう。
泣き崩れてしまう。
感情が爆発してしまう。
他のことが何もできなくなってしまう。
成すべき事が成せなくなる。
この女性は僕にとってはそれぐらいの影響力がある。
だから、今は歯を食いしばって涙をこらえて目をそらした。
ジジは僕の気持ちを察したのか、そのままカカを抱きかかえながら走り去った。
ハクビも必死に気持ちを切り替えているようだ。
僕達は先に進んだ。
2階分の階段を上がったところで身に覚えのある感覚に気づく。
《トクン》
居た?!
心臓が高鳴る。
感覚でコロンがどこにいるかわかる。
僕が一歩目も踏み出す頃にはハクビは既に走り出していた。
豪華なドアは開けっ放しになっていた。
きれいで広い部屋だ。
壁に絵画が飾ってある。
明らかに他の部屋と作りが違うのがわかる。
監獄長室といったところか?
部屋の中にはデモンは1体もいなかった。
代わりに見たことのない金属で出来ている大きな鳥かごのような檻がある。
見るからに頑丈そうなこの金属は、おおかた魔法を無効にする効果でも有るのだろう。
檻の中には、幼稚園児くらいの少女が入っている。
明るい茶色の髪をしたプクプク太った幼稚園児は見るのも痛々しいほど傷だらけだ。
「コロン!!」
ハクビが鳥かごの扉をねじ切って穴をあける。
そして、コロンを優しく持ち上げると強く抱きしめながら回復魔法を注ぎ込んだ。
「姉ちゃん。苦しいよ」
とってもうれしそうに不満をもらす幼稚園児。
泣いている。
「ごめんね。コロン。遅くなって。
痛い思いさせて」
コロンの傷はすぐに全回復した。
「兄ちゃん。母ちゃんと父ちゃんが……」
コロンはハクビの手を離れ、僕の足にコアラのように抱きついてきた。
両手で持ち上げて抱っこしてやる。
「うん。わかってるよ。コロン。
けど、まずは魔王をやっつけなきゃ。
魔王がどこにいったかわかる?」
「わかる!
グルカゴンは、ちゃんと契約した兄ちゃんと姉ちゃんの強さに気づいてすぐに部屋から逃げ出した。
けど、コロンは次元の魔法で魔王のところまで連れて行ける!
デモン達の気は目立つから、あいつらがいるところへはどこへでもテレポートできる!
兄ちゃんと姉ちゃんの気も感じ取れるからそこまでも行ける」
さすがは魔王なのかもしれない。
勝てないと分かったら逃げた方がいい。
戦いのセオリーではある。
「そっか。
じゃあ、ハクビはジジを追って母さんと父さんの所へ行ってあげて」
「う、うん。わかったわ……」
「直ぐに全部片付けて追いつくよ。
コロンの魔法でハクビの居るところへはテレポートできるみたいだから」
ハクビは少しだけ不満そうな顔をしていたが素直に言うことを聞いてくれた。
最後にコロンをもう一度ギュッと抱きしめると、部屋を出てジジを追った。
「よし、コロン。
まずはすぐに魔王のとこへ行こう」
「うん!」
【テレポート】
不思議なフワフワした感覚があったかと思うと、目の前にはひときわ強い闘気を持ったデモンがいた。
おそらくこの個体がグルカゴンなんだろう。
その後ろには護衛だろうか?
4体のデモンもいる。
大監獄から離れて林道を走っているところだったようだ。
グルカゴンは僕らのいきなりの出現に驚きながらも、直ぐに状況を飲み込んだらしく口を開いた。
「お、おい。お前どこの魔人なんだ?
なぁ、次元獣との契約は解除す――」
《ボン》
闘気を飛ばして頭部を爆発させた。
「失礼だな。
次元獣じゃなくてコロンだよ」
《バシュ》
左手の一振りで、残りの4体の首を落とす。
一瞬で息をしているデモンはいなくなった。
「ねぇ、兄ちゃん。
もう魔王がいないから神獣の契約できるよ。
コロンももっとみんなの役に立ちたい」
しっかり意思のある強い目をしている。
そうだね。コロンだって家族の一員だ。
「わかった。じゃあ、すぐやろう。
コロンちょっと手のひらを切るよ?
大丈夫?」
「あたりまえ!
コロン強いんだから!
大丈夫!」
ちょっと過保護過ぎたかな?
コロンは頬を膨らませる。
【ペル センプレ インスィエーメ】
光が僕らを包む。
ハクビの時みたいに力が溢れでる感覚はないけど、コロンの気をより鮮明に感じる。
「コロンは千里眼も持ってる。
兄ちゃんとつながってものすごい遠くまで見える!
もっとたくさんの人達でもテレポートできる」
コロンとの神獣契約はコロン側の能力強化になるのかな?
「じゃあ、サグパークの外にでてるデモンはどのくらい居るかわかる?」
「わかる!」
得意気なコロンは目を閉じて何かを確認する
「合計で10体もいない。3つのグループ!」
思ったより少ない。
これは手間が省けそうでよかった。
【テレポート】
一つ目のグループは、キヌガ大森林の村を襲っている所だった。
《バン、ババン》
目の前の2体を一瞬で仕留めて、もう一体のところへ走る。
デモンは泣き叫ぶ若い女性の髪を掴んでいた。
気持ち悪い。
《ザン》
首を落とす。
「あ、ありがとうございます」
女性の感謝の言葉に返答する前に、次の街へテレポートする。
【テレポート】
ティグハートの街だろうか?
キヌガ大森林の村より明らかに被害が大きい。
家のいくつかが焼かれている。
デモンは街中に散っていたが、すぐに4体すべてのデモンを始末できた。
コロンの魔法でそれぞれのデモンの目の前に一瞬でたどり着けるからだ。
街の人からは歓声が上がっていたようだ。
すぐに最後のグループの所へ飛んだ。
【テレポート】
どこの洞窟だろうか?
明らかに息を殺して隠れていたであろうデモン2体の前にテレポートした。
驚いている2体の声帯が揺れる前に始末した。
こうして街の外に出ているデモンは全部始末できた。
「監獄とサグパークの街にいるデモンの数はどう?」
抱きかかえてるコロンに話しかける。
コロンはまた目をつぶって確認する。
「ほとんどいない。全部で4体」
すごい?!
もうほとんど殲滅できているじゃないか。
みんながんばってくれているようだ。
これなら僕の助けもいらないだろう。
「よし、コロン。
姉ちゃんの所へ行こう」




