第051話 「創国の勇者たち」
ジジは意識を失ったトトを担いで再度馬車の中に移動させる。
家の前の道は人で溢れかえっている。
ここでは落ち着いて話ができないので、とりあえず何人かを連れて家に入りベルが状況説明を始めた。
「ごめんね。キョウ君。
私も昨日はじめて知ったの。
色々分からないだろうけどまずは事実だけ説明するわね」
ベルは申し訳なさそうな顔をする。
「改めて、私はエルフの【シュガーベル・スティーフ】
そして、あなたの父親は創国の勇者 【ソルム・ティグハート】
母親は大賢者 【ターニャ・バーキスト】
おじいさんが狼人族 【ミト・ガジェフスキー】
みんな500年前の創世の時代の仲間なの」
えっ?!
トトがティグハートで創世の勇者でカカとジジは8クラン?
この国を創った?!
ベルは当時からのトトの仲間で500歳以上ってこと?!
「あなたの家族3人はある事情があって500年前にガーシニアと戦ったわ。
そして敗れた。傷ついた3人は死ぬギリギリのところで大賢者の魔法で体を獣の姿に変えた。
消えそうな魂を獣の器に入れてグラディウムの森で冬眠させたらしいの。
グラディウムはサトリークより魔法濃度が高いらしいから、それで助かると大賢者が考えた。
そして、大賢者の読みどおり何百年も森で冬眠した結果、3人は目覚めることができたらしいわ。
獣になった3人が森で暮らし始めてまもなくお母さんが森で赤子を拾ったそうよ。
そう。それがあなたよ、キョウ君」
「シュガーベル。時間がない。
坊ちゃんには、ターニャ様とコロン様のお話をしよう」
人型の狼となっているジジがトトを馬車で寝かせて帰ってきた。
ジジともっといろんな話がしたい。
けど、今はその時じゃない。
「坊ちゃん。
トト様が仰ったとおり、カカ様とコロン様が魔王グルカゴンに捕まっています」
そうだ。この話を早く聞かなきゃいけない。
「これは留守の間、私達の家を預けたクマの神獣から聞いた話です。
コロンお嬢様は次元を操る伝説の神獣です。
幼い頃に魔王グルカゴンに強制的に神獣契約をさせられてしばらく城で捕らえられていたそうです。
私達があの森でケガをしたコロン様を見つけた時、あれは魔王の城から逃げてきた時らしいのです。
神獣と魔族は契約するとお互いの魂がつながり、相手の居場所が把握できるようになり、お互いの力を共有できるようになるらしいのです。
しかし、コロン様は自身の次元魔法でグルカゴンとの魂のつながりを別次元に隠す方法を考え出されて、グルカゴンから逃げることが出来たらしいのです。
私達と暮らしている間もその魔法を常に自らにかけていらっしゃったそうです」
「あの娘、そんなこと一言も言ってなかった」
ハクビが悔しそうに言う。
「しかし、ガーシニアとの戦いで、坊ちゃんとハクビお嬢様が次元を超えてサートリア大陸に飛んだとき、次元獣であるコロン様はその事実に気づいてしまった。
コロンお嬢様はあまりに動揺し、今まで自分にかけていたグルカゴンとのつながり隠蔽魔法を解いてしまったらしいのです
その結果、グルカゴンはコロン様の存在を把握することになります」
コロンは僕らを思って……
「コロン様はグルカゴンに自身の居場所を気づかれたことを悟ると、自ら森をでてグルカゴンの城へ戻りました。
そして、留守を任せたクマに笑ってこう言づてをされたとのことです」
『グルカゴンは私を殺せない。だから大丈夫。
父ちゃん達じゃ魔王に絶対に勝てない。
だから、すぐにこの場所から離れて、兄ちゃん達と合流後に助けに来て。
兄ちゃんはすごい魔人で、姉ちゃんもすごい神獣。
ちゃんと契約すればもっともっと強くなる』
コロンは別次元に行った僕らが必ず帰ってくるって信じてたんだ……
「私達はガーシニアと戦い後に家に戻り、その話をクマから聞きました。
トト様とカカ様は悩まれましたがコロン様の言うとおり、家の場所を森の東側に移し坊ちゃん達を待つことにしました。
獣のトト様とカカ様は魔法濃度の異なるサトリーク大陸に戻ると、体が人間の姿にもどり魂も安定して保ってられないということがわかっていたからです」
「獣人の私でも無事じゃいられないとカカ様は仰っていたのですが、狼人族の私は今でも体調に問題がございません」
「回復魔法は効かないの?」
僕は祈るように聞いた。
「父さんに試してみたけど全くダメみたい」
ハクビは暗い顔をしている。
ジジは話を続ける。
「コロン様は捕まってからも、グルカゴンのために力を使うことを拒否し続けたようです。
しかし、自ら城に戻ってきたコロン様を見て、グルカゴンも気づいたのでしょう。
何か大切なものを守るために自ら戻ってきた、居場所を感知できたこの森に大切な何かがあるのだと。
そして、グルカゴンの配下のデモンが執拗に森を捜索した結果、カカ様が攫われてしまいました。
それが3日前の話です」
怒りがこみ上げてくる。
「コロン様はおそらくカカ様の命を交換条件にされて次元魔法を使うしかなかった。
その次元魔法で、グルカゴン達がサトリーク大陸にやってきているのです」
確かにカカの命で脅されたら従うしかないだろう。
「それは確かなの?
なぜ、こちらの大陸に来ていることがわかったの?」
「それは次元龍 ガーシニアに聞いたからです。
カカ様を攫われた私達はガーシニアのところへ行きました。
そもそもガーシニアは、グラディウムとサトリークの次元の継ぎ目を管理するために存在しています。
特別な力で次元を移動した者たちを把握できるのです」
ガーシニアは僕が倒したんじゃないのか?
そもそもそんな事を教えてくれるような関係性なのか?
今はいい。
「だいだい話はわかってきたよ。
トトは人間の姿になって魂が消滅しそうになっているから、こんな状態ってことだよね?
それはカカも同じだよね?
グラディウムに戻れば元に戻るのかな?」
ジジは一気に暗い顔をする。
「それは……おそらくは難しいかと。
一度崩れ始めた魂は元に戻すことができないとカカ様は仰ってました」
それでもトトはサトリーク大陸に戻ってきたのか?
……あたりまえだ。
家族を、奥さんと娘を奪われて、カカはサトリーク大陸じゃ生きていられない。
黙っていられるわけない。
同じ状況なら僕だって同じ行動をとる。
親子だからかな?!
大丈夫だよ。トト。
僕が全部取り戻す。




