第048話 「魔王ヘルハザード」
長髪で白髪な赤目の男は嫌な笑みをうかべながらこちらを見る。
「おいおい、なんで逃げるん――」
「アイスロック」
その男が喋ってる途中でハクビが魔法で遠隔攻撃。
僕もそれに合わせて追い打ちをかけようと動く。
が、その前に――
「なんだよ、いきなり?」
氷魔法を闘気でかき消すと同時に、ハクビに向けた人差し指からレーザービーム? の様な細く赤い線が見えた。
「いぁ!!」
それは光の速さでハクビの腹部を貫通して地面に穴をあけた。
ハクビは直ぐに自身に回復魔法を始めている。
致命傷にはなっていない様だ。
2撃目に備え僕がハクビの前にカバーに入る。
「おっ、なかなか早いな」
間髪をいれずにレーザービームが飛んでくる。
全開の闘気の防壁で受け止めようとするが、ビームにふれた瞬間防壁は砕け散った。
一応盾の役割は果たして、ビーム自体はかきけせた。
「全員退避だ!!
ハクビもみんなを連れて早く上に!
早く!!」
精一杯叫ぶ。
僕以外は一斉に動き出し地上に駆け上がっていく。
「おいおい、だからなんだよ。
なんでおまえら逃げるんだよ」
男は逃げる皆を気にする様子もなくうすら笑いで僕に話しかけてくる。
「ていうか、お前も魔人だよな?
なんでこの世界に居るんだ?」
魔人? というのか?
こいつは僕と同じ白髪で赤目だから同族なのだろう。
けど、僕の目が赤いのは隠蔽魔法によりバレていないはずだ
「僕は魔人じゃない!
お、お前は誰だ?!」
「え? なんだよ?
お前魔人じゃないの?
魔法でなんかしてるみたいだけど、目も赤いよな。
けど? 角は生えてねぇのか?
それにあの虎耳の娘も神獣だよな」
こいつには隠蔽魔法も見透かされてしまうようだ。
よく見ると、魔人を名乗る男の後ろには、ローブに身を包んだ人影が6つある。
今まで気がつけなかった。
どこから湧いてでた?!
人じゃない。
尖った耳、褐色の肌【ダークエルフ】だ。
「おい、お前ら!
なんで他の魔人がここにいるんだよ?
しかも、こいつらいきなり攻撃してきたぞ」
ダークエルフ達も僕を見て驚いて居る様だ
「把握しておりせんでした。ヘルハザード様。
私たちも初見でございます。
しかし、次元の灰龍を倒した者に魔人の闘気を感じたという情報がございました。
にわかに信じられませんでしたので気にとめておりませんでしたがこの者なのかもしれません」
「ははは、おもしれーな。
お前があの灰龍倒したってのか?
それであの竜がお前をこっちの世界へ飛ばしたのか?
だとして、お前はそれまでどこに居たんだよ。
いきなり現れたわけでもねぇだろ?」
「お前らはガーシニアを知ってるのか?」
「知ってるも何もお前が倒したんじゃねぇのか?
お前本当になんなんだ?」
こいつらはガーシニアも知っている。
故郷の森の世界から来ているんだ。
「まぁ、弱ぇし、もういいか」
一瞬で間合いを詰められる。
知覚は出来ても、体が反応出来ない。
《ボン》
右肩付け根から右手指先までが吹き飛ぶ。
「ぐわっ」
意識が揺らぐ。
ケガのレベルじゃない。
大きな欠損だ。
グラグラしながらもなんとか倒れなかった。
「おー、反応できるのか。
なかなかやるんだけど、おしいな」
ヘルハザードはうれしそうだ。
「おい、俺はこの世界にあと何分いれるんだ?」
「もって数分かと」
ダークエルフが答えた。
「なんだよー、もうすぐじゃねぇかよ。
まぁ、いいや。
あの虎耳の神獣だけでも狩るか?
あいつもおもしろそうだ」
神獣? ハクビのことだ。
こいつはハクビを殺すかのか?
ハクビをころす?
コロス?
「うぉおぉぉ!!!」
咆哮を上げる。
無いはずの右腕がメキメキと生える。
血がたぎる。知覚がとっても鮮明になる。
力が溢れてくる。
その勢いにのって全速で突っ込み、拳をヘルハザードの顔面に打ち込む。
《ガシ》
が、ヘルハザードの左手にしっかりと受け止められてしまう。
「おいおい。いきなりすっげーパンチだな。
まともにくらったらヤバイかもな」
ヘルハザードの空いてる右の拳が僕のミゾオチにめりこむ。
《メリメリ》
「ぐはっ」
くの字になったがなんとか倒れずに耐えた。
「今度は腹に穴も開かないのか。
本当にすっげーな? おまえ!
てか、さっくよりデカくなってねぇか?
とんでもねぇ量の闘気だ。
うん。やっぱりこいつは面白い。
あの神獣もおもしろそうだしな」
ヘルハザードの目線が出入り口に移る。
全く逃げろっていったのに……
あまりに夢中できづけなかった。
いつの間にかハクビが出入り口から臨戦態勢でこちらに飛び出すタイミングを図っている。
虎の形態になっている。
ビルデガルで見たときより更に大きい。
もう完全に成体の虎だ。
子供の大きさじゃない。
「おい? まさか? 白虎なのか?
んなわけねぇか?」
ヘルハザードは驚いているようだ。
「おい、おまえら。
次はいつ俺を召喚できるんだ?」
「今回で手法が確立できたので、少なくとも3ヶ月以内には。
数日間レベルの滞在ができる環境が準備できるかと存じます」
「おー、そうか。すぐだな。
じゃぁ、次の機会を楽しみにするか。
あっ? けど、グルカゴンもこっちに来ようとしてるんだよな?
あいつにこいつらを殺られるのもシャクだな。
おまえらグルカゴンのことを、こいつらに話してやれよ」
「ははっ。仰せのままに」
ダークエルフが頭を下げる。
「よし。じゃぁ、今回はもういいだろ。
そろそろ終わりだろ?
久しぶりに面白かったぞ。
帰って寝ることにする」
男は僕をしっかり見て言った。
「じゃぁな、少年。
グルカゴンなんかに殺られんなよ?
俺はヘルハザードだ。 お前は?」
「キョウ」
「そっか、キョウか。
また会おうぜ!」
そう言ってヘルハザードの体はボンヤリと薄くなり遂には消えた。
それと同時にハクビが駆け寄ってきて回復魔法をかけ始めてくれた。
「魔人の少年よ。
我が主が仰ったとおりお前は生かされた。
これより3ヶ月程で魔王ヘルハザード様は再度この地に降臨されることとなる。
お前はその時までに少しでも強くなり主を楽しませる命を受けた。
光栄に思うがいい」
うやうやしくダークエルフが語りだす。
「主の仰ったとおり魔王グルカゴンのことを教えてやる。
魔王グルカゴンが最近次元獣を操りだしたという情報がある。
その話が本当なら、グルカゴンは近いうちに次元獣を使ってこの世界に来るだろう。
グルカゴンは人間の女に大層熱心でな。この世界中の女を集めて自分の城へ持ち帰る気なのだろう」
ダークエルフ達は嫌な笑みをうかべる。
「貴様らはこれよりどこか小さい村に身を隠し、少なくとも3ヶ月はそこから動くな。
間違ってもグルカゴンに挑もうと考えるなよ。
あのデモンはヘルハザード様程ではないにしろおまえ達では絶対に勝てん。
それでは伝えたぞ」
「おい、待ってくれ。
デモン? グルカゴンは人じゃないのか?
大きい魔獣達も来るのか?」
ダークエルフ達は顔を見合わせる。
そして薄く笑いながら、体が薄くなっていく。
「デモンを知らないのか?
デモンはおぞましい紫色の肌と赤い目を持つ悪魔の種族だ。
奴らは魔獣は操れん。あれはまた違う力が必要だ。
とにかく我々の言われたとおり隠れておれ。
グルカゴンも長くはこの地に留まってられまい。
お前が死んでしまってはヘルハザード様が嘆かれる」
そう言ってダークエルフは消えていった。
意識が遠のく。




