第047話 「地下空間」
改めて皆に作戦を説明する。
4チームに別れる。
【1】ジャック、キザンの上級門下生5人
【2】僕、ハクビ
【3】ギラン、アモン
【4】ルービア、ドーサル
ジャックとキザン上級門下生達は外で見張り兼地下から逃げ出したウロボロスを担当。
有事の際はジャックの判断で行動する。
他の3チームは地下空間へ突入する。
まず僕とハクビで武器屋の出入口から突入。
その3分後に残りの2チームが同時にそれぞれ違う店の出入口から突入。
地下空間がどういう構造になっているかわからないけど、ギランとアモン、ルービアとドーサルは地下階段を下って地下にたどり着いた階段の終着点で待機。
もし、その階段を使って地上へ逃げてくる敵と遭遇したら気絶させる。
逃げてくる敵は必死だから攻撃も自然と大きくなるし動きも読みやすくなる。
そこを落ち着いて制圧する。
「先行した僕とハクビは、なるたけ短時間で地下にいる全員を制圧する」
この僕の発言にルービアが割り込んだ。
「な、キョウ殿。
私ももっとウロボロスの制圧で役に立てる」
階段の終着点で待機に納得がいかない様子だ。
「驕るな。ルービア!!」
突然、ギランが怒鳴った。
「失礼だと思わんのか?
お前も見たのだろう?
キョウさん達の強さを。
ここまで実力が離れている方々が考えた結果、ワシらの動き方を指示してくれてるんだぞ。
ワシらが奢って勝手に動く事が一番迷惑だろ。
わからないならお前はこの作戦から降りた方が良い」
ドーサルは何も言わない。
すぐに考え直したであろうルービアは改めて表情を引き締める。
「キョウ殿。失礼した。
お話を続けてください」
「地下にどんな強敵がいるかわからない。
だから、まずは僕とハクビで出来る限り対応したいんだ」
できれば1人も死者はだしたくない。
「それに、何が起こるか分からない状況だからこそ、チームとしての意思決定は早ければ早い方がいい。
だから、現場では僕の指示には迷わずに従って欲しい」
全員から肯定の返事をもらえた。
まだ繁華街が人で溢れてる時間帯に作戦を決行する。
皆が寝静まった時の方が相手方も監視を外に向けるだろから、逃げられやすくなると考えたからだ。
僕とハクビは先行して1番最初に見つけた武器屋に入る。
運良く客はいない。
店主が僕らに気づくや否や、ハクビがミゾオチに拳をねじ込みマスターを気絶させる。
急いで地下に降りると、思ったより広い空間になっている。
テーブルと椅子が並べられ、そこで陽気にエールを飲んでいる集団が目に入る。
机で固まって飲んでいるのが8人。
別の少し離れたテーブルには2人と3人。
悪い意味で想定通りだ。
鎧を脱いで寛いでいる彼らは人間じゃない。
獣人や鬼人でもない。
緑色の肌を持つ【ホブゴブリン】だった。
異質な闘気の理由はこれだったのだ。
この大陸に存在してるという話は聞いたことがないから、これはだいぶヤバイ話なのだろう。
思考しながらも自然に体は動く。
僕は3人のテーブルに近づき、彼らが僕の存在に気づく頃には目前まで迫っている。
強い闘気だ。
だが僕らからしたらこのレベルであれば子供の頃の対戦相手だ。
1体目を手刀で気絶、2体目、3体目その勢いで倒した。
2人のテーブルへ向かったハクビの方は、1体目が手刀に反応して打ち所がずれる。
ハクビは2撃目を放って確実に気絶させた。
抑えてるとは言え1撃目の攻撃に反応して体を動かせるとは相当のやり手だ。
その個体の近くに大剣が見えるのでアレが大剣使いなのだろう。
ハクビの2体目は難なく気絶させられている。
「アイスロック」
エールを飲んでいた8体はハクビが纏めて一気に氷魔法で凍らせて気絶させる。
心臓を数瞬止めるだけで生き物は気絶してしまう。
これでしばらくは起きないだろう。
手刀で気絶させたホブゴブリン達も、ハクビの氷魔法で念のため再度心臓をすこし止めておいた。
気絶から回復して暴れられても手間だ。
ちょうどそのタイミングで残りの2チームが同じ地下空間の部屋に辿り着いた。
どうやら他の入り口からの階段の終着点も、この広い空間につながるようになっているようだ。
同じような穴がもう1つあるから、僕らの発見できていない4つ目の地上への出入り口があるのだろう。
僕の指示どおり、2チームは出入り口の部分で待機している。
ホブゴブリンを見て驚いているだろうが、誰も動揺を表に出さずに集中している。
奥に扉が2つ見えるからだ。
そこからいつ何が飛び出てくるかわからない。
「4つの階段の出入口を2チームでカバー!」
穴はほぼ均等な位置に4つあるので、1チームで2つの出入口をカバーできるようにする。
《バタン》
程なくして扉からホブゴブリンが2人飛び出してくる。
そいつらが、状況を把握するより先に――
「アイスロック」
ハクビの魔法ですぐに気絶させる。
扉の中はホブゴブリン達の寝床なのだろう。
2段ベットがいくつも並んでいた。
その部屋にはもう誰もいないこと再確認する。
さっき出てきた2人のホブゴブリンで最後なのだろうか?
もう一つの扉を開けると、松明の数が減り、中は薄暗く異臭がただよっている。
出入り口すぐの大きな空間の半分程の広さだ。
部屋の真ん中には魔法陣の様な物が描かれていて、祭壇の様なものの上には大きな壺? が置いてある。
何かしらの儀式? 呪いのための空間なのだろうか?
部屋の隅には異臭の正体である魔獣の死骸・残骸が積んである。
誰もいない?
しかし、この空間はホブゴブリン達が使っているわけではなさそうだ。
他に誰かいる可能性が高いのか?
更に奥に扉があるが、今までの扉と比べてずいぶん小さく作りも雑だ。
最近作ったものなのだろう。
扉をあけると通路になっているが、扉と同じく小さくて狭い。
通路というより穴に近い。
ハクビと2人で奥に進んでみる。
僕らは難なく直立で歩けるが、ギランなんかだと、屈んでギリギリ通れる程度だろう。
その穴は扉から真直ぐに伸びていない。
グネグネと曲がった穴は先が見通せないのでどこまで続くのかもわからない。
穴が埋まってしまえば、通路を掘り当てるのも手間になる。
それを狙っているのだろう。
何をそこまで隠そうとしているのか?
嫌な予感がとまらない。
数十メートルは進んだだろうか。
《ドクン》
何かが近づいて来る。
直感が教えてくれる。
これはヤバい。
「退避! 全速力!」
ハクビを担いで来た道を引き返す。
ハクビの視線は僕の後ろ、つまり穴の奥に保てるようにして走る。
「土魔法で道を塞ぐんだ」
全力全開の土魔法で出来る限り固く道を閉ざす。
祭壇の部屋まで転がるように外にでて、そのまま出入口の空間へ。
「全員、今すぐ退散だ」
ギラン、アモンとルービア、ドーサルは僕らのあまりの剣幕に驚きを隠せず、反応が遅れる。
そしてその瞬間――
《ドカーン》
砂煙を巻き起こしながら男が現れる
白髪の長髪で赤い目をしている。
額からは目の色と同じ赤い角が生えている。
皮膚に埋まっているんではない。角としてしっかりと生えている。
間違いなく人間じゃない。
背はジャックよりも高い。
際立つほどではないが長身の部類だろう。
体型はスラっとしていて武道家という感じではない。
けど放っている闘気でわかる。
すごく強い。
本当にヤバい奴だ。




