表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/55

第045話 「ルービアの正義」

  僕が作ってしまった変な空気を変えるためにも、ドーサルがウロボロスの話を続けた。


「お嬢様が牢屋から逃がしたナイアという少年がある日から行方不明になったんです。

 ナイアを含む身寄りのない子供達が何人かで集まって街の郊外に小屋を建てて住んでいます。

 お嬢様は子供達の面倒を見によくそこに出入りしていまして、特にナイアは剣術に熱心だったためお嬢様が剣の指導もしていました」


 優しいんだなルービアは。

 ドーサルが続ける。


「ある日からそのナイアが家に帰ってこなくなったんです。

 調べてみると、その日にウロボロスの奴らと一緒に居たっていう話がありまして。

 だからお嬢様は今日、ウロボロスの連中に直接聞いていたってわけです」


「それじゃあ、それこそルービアさんの立場を使ってウロボロスを一斉検挙しちゃえばいいじゃんか?」


「そうしたいのはやまやまなのです。

 しかし、実際には目撃情報があるだけで証拠は何もでていないのです。

 だから、捕まえるわけにもいかなくて。

 とりあえずアジトを把握しようと、何人かでウロボロスを尾行しているんですが、いりくんだ繁華街でいつも見失ってしまうんです」


「そうなのか?!

 けど大剣の男はとんでもなく強かったよな?

 強い傭兵団ってのはわかるけどよ。

 シュメールの次期当主と言われるルービアさんと互角くらいに戦えるものなのか?」


「いや、私も驚いたのだ。

 恥ずかしながら私もシュメールの次期党首として育ち剣の腕には自信があった。

 剣で後れをとったことがなかったんだ」


 ルービアも負けたことないのか、ギランみたいだな。


「しかし、もしキョウ殿が助けてくれなかったら、私は今日あの男に負けていた。

 いや、殺されていただろう」


「確かに、あの男は強かったね」


 僕は大剣の男が寸止めを狙っていたことは言わずにおいた。


「大剣の男は、昔はそんなに強くなかったってことかい?」


 ジャックが問う。


「うむ。数ヵ月前にあの男が他の傭兵と立ち会っているのを見たことがある。

 それで、私が到底後れを取るような実力じゃなかった。

 ドーサルでも余裕で勝てたと思うのだ」


「なんならなにかい?

 ここ最近あいつらの中で鎧を着るようになって劇的になにかがかわってことかい?」


「うむ。それに今日あいつの闘気からは嫌な感じがした」


 やはり、ルービアも感じたのだろう。


「そうだね。それは気になった。

 だから僕も少し調べてみるよ。

 何かわかったらルービアにも教えるね」


「本当か? ありがとうキョウ殿。

 こちらからもお願いしたいと思っていたんだ。

 本当にありがとう」


 ルービアの真っ直ぐな感謝の気持ちが伝わってくる。


「よかったですね、お嬢様。

 キョウ様、ジャック様ありがとうございます。

 ささ、お食事の用意ができております。

 お二人もお召し上がりになってください」


 ドーサルは護衛だけでなく執事でもある様だ。


「そだな。

 腹減ったな。行こうぜ、キョウ」


「いや、僕はお腹好いてないから、未だいいや」


「そっか?

 じゃぁ俺は食べるぞ。

 初めての高級料理だぜ!」


 そう言ってジャックはハクビのいるテーブルへ向かった。




 ◇




 僕はおおきなベランダ? テラスのような場所で外の風を浴びながらボンヤリとさっきの問いを考える。


 正しいのか、正しくないのか?

 僕の正義はどこにあるのか?


 グラディウムの悪魔に正義なんてあるわけない……


 すこし前から後ろに立っていたルービアが静かに話す。


「私はずっとわからないんだ。

 自分の行いが正しいのか間違っているのか」


 どうやらルービアも正義について考えていたようだ。


「15才の時よりこの職務につき色んな犯罪者をみてきた。

 小さい子は良く物を盗む。

 罰を与えて外にだすのだけど、そういう子はまた同じ過ちを繰り返す事が多いのだ。

 けど、そういう子供達は親がいなかったりするのだ。

 『親がいない子供が生きるためには盗むしかできなかったのかもしれない』と思うと、ただ罰を与えることが正義なのかわからなくなるんだ」


「そうだね」


 僕はつぶやく様に同意する。



「けど、キョウ殿にああ言ってもらえて私はなにか救われた気持ちになった。

 正義を求めること自体をやめる選択肢もあるのかもしれないと。

 私は私の感じるままで良いのかもれしれないと思えた」


 すっきりした様子のルービアは笑顔だった。


「ルービアが子供達を思う気持ちは暖かいよ。

 暖かい気持ちは奇跡を起こすんだ。本当だよ?!

 だから暖かい気持ちだけは抑えるような事はしない方が良いと思う」


「ありがとう。

 奇跡か……キョウ殿は詩人めいたことも言うのだな。

 すごく……すごくうれしいよ」


 ルービアの顔が赤い。


 あれ? キザなことを言ってしまっただろうか?

 本当のことを言っただけなんだけど。


 僕もなんか恥ずかしくなる。


「じゃあ、お腹が空いてきたら、僕も夕食を頂こうかな」


 逃げるように部屋へ移動した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ