第042話 「ティグハート騎士団」
エステルの街で暮らし始めて2か月程たった。
グラディウム大陸については進展がない。
ギルドの魔獣関連の本は読み尽くした。
首都ティグハートへも何度か足を運び、資料や情報を探しているが新しい情報は見つからない。
ベルの伝手でも新しい情報が出てきていない。
何かアクションを起こしたいが、そのアクションも見当がつかない。
焦る気持ちもあったが、居心地の良いエステル街の生活には満足もしていた。
すっかり生活にもリズムができ、お金も使いきれない程に溜っている。
街中もほとんどの場所にいったことがある。
首都 ティグハートはあまり散策はしていないが、冒険者で溢れかえるエステルの街とは違った雰囲気を感じた。
なんといっても街のどこにいても確認できる大きな王宮があるのが違う。
町の中心にある広場からつながる大通りが王宮への門へとつながり高い城壁のお城がみえる。
ティグハードの王族キプロスは派手な外装を好まないらしくキラキラした装飾はみられない。
それでも僕がこの世界でみたどの建物より大きいお城は壮観だ。
エステルの街は冒険者の街であり、酒場での揉め事をはじめ、活気のある繁華街ではスリが居たり、泥棒等もよくでるらしいが、基本的に治安が良い。
その治安を守っているのがティグハート騎士団である。
ティグハート国の紋章である『赤地に白抜きの鳩が描かれた紋章』の付いた鎧を着けているのですぐわかる。
ティグハート騎士団は、創生の8クランのシュメールクランが創った。
今でも騎士団長、及び幹部はシュメールクランの人間が多いらしい。
シュメールクランは政治には一切関わらず、正義と規律を重んじるそうだ。
そのティグハート騎士団がエステルのそこらかしこを巡回し犯罪に目を光らせ治安を守っているのだ。
僕らも巡回している騎士達を何度も見かけたことがある。
♢
けどその日見かけた騎士はちょっと様子が違った。
夕方前に僕とジャックとハクビで、ハクビの好きなお菓子を街中で買って帰る途中だった。
ベルは首都ティグハートへ行っていて留守だ。
「貴様ら、ナイアをどこにやった?
知ってるんだろう」
短髪の赤髪が印象的な18才くらいの騎士団の女性が、顔まで覆うタイプの重装備の鎧をきた3人の男達と揉めているようだった。
重装備の鎧は無地なので騎士団の人間じゃない。
「しつけぇんだよ。
知ってたからってなんだってんだ?」
メイスを持った男が怒鳴る。
「おまえらがさらったのだろう!」
女騎士は鋭い闘気を武器に纏わせて戦っている。
上級の騎士は剣に闘気を纏わせることができるとベルから聞いていたが、この女騎士は相当な上級者なのだろう。
目視できるの程の闘気が武器に宿っている。
鎧の男たちは剣士というわけでもなく、持ってる武器もバラバラだ
それぞれ、大型の剣、メイス、最後の1人は斧をもっている。
動きは雑でしっかりとした型がないし、3人での攻撃も連携と呼べるものでもない。
しかし異質な闘気を纏っている。
雑だけど防御にも攻撃にも長けている。
「キョウ兄、あいつら」
「あぁ、おかしな闘気を纏っているね」
闘気の感知に長けているハクビも気づいたようだ。
「はっ!!」
メイスの男の一撃をかわし女剣士が薙ぎ払うようにメイスの男の横っ腹に渾身の一撃が決まる。
鎧と闘気で死んではいないだろうが、2,3メートルは吹っ飛ぶ。
「いやー痺れるねー、お嬢ちゃん」
「気安くお嬢ちゃんなんて呼ぶな!」
「おまえ、そいつを連れて先に帰ってろ」
大剣の男が斧の男にいうと、斧の男はすんなり従いメイスの男を担いでその場を後にする。
この男がリーダーなのだろう。
確かにこの男だけは他の2人に頭抜けて出来る様だ。
「全員、逃がさん!」
女騎士が斧とメイスの男達に飛びかかろうとするが、大剣の男が割って入る。
「おまえの相手は俺だろう」
《ガキン》
お互いの剣が激しく当たる
「少しは楽しませてくれよな。
お嬢ちゃん!」
2人は対峙する。
人通りが多い場所ではないが、遠くで見ている僕ら以外にも軽い人だかりができていた。
2人ともクザンの当主クラスだろう。
荒くれもの達の喧嘩とはわけがちがう。
「どうするキョウ兄? 止める?」
緊張感なくハクビが聞いてくる。
事情が分からないのに介入するのは気が進まないな。
なんて考えている間に大剣の男が動いた。
大剣を大きく横に薙ぎ払う。
大振りだが大剣のリーチを生かし、横に薙ぎ払うことで剣で受けさせることを想定しているのだろう。
簡単にはよけられない。
「おらぁ!」
見切っているのか女剣士はしゃがみ込み、寸でのところで剣を避ける。
避けたと思った。
だが、大剣にまとったあまりにも大きい闘気にあたり、女剣士はしりもちをついてしまう。
「悪いな!」
大剣の男が直ぐに体制を立てなおし。
剣を女騎士に振り下ろす。
《パキン》
僕は闘気を飛ばし男の剣を弾いた。
「あっ」
体が勝手に動いて手を出してしまった。
闘気を飛ばしてから気づく。
あの男の剣の振り方から見て寸止めの予定だったのであろう。
わざわざ介入することなかった……
「キョウ兄、やるなら言ってよ」
大剣の男も女剣士も驚いて僕の方を見ている。




