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第041話 「特別最高顧問」

 負けを宣言したキザン当主は膝をついて語り始めた。


「成人する前よりキザン当主となり数十年一度も立ち会いで負けたことがございませんでした。

 ここまでの使い手と出会ったのは初めてです。

 また息子を救ってくださった事へも心より感謝しております」


 当主は妙に改まって喋る。


「初代キザンは、勇者ティグハートに立ち会いに敗れ、その人となりに惹かれ忠誠を誓い創世の8クランとなったといい伝わっております。

 ちから及ばずではございますが、私はじめキザンクランをハクビ様に忠誠を誓わせてください」


 門下生たちにも当主の真剣さが伝わる。


 道場はザワザワとしながらも、門下生達は当主の後ろに並んで同じように膝をつき頭を下げる。


 小さい子もそれに倣っている。


「やめてよね。

 ハクビ様なんて呼び方も。

 配下になるだのってのも。

 私は別にそんなつもりでオジサンと立ち会いをしたわけでもないわ」


 ハクビは困ったように言う。


「それはわかっております。

 あなた様にそんな気がないことも。

 しかしながら道場主である私がここまでの力の差をもって武で負けた相手に頭を下げないわけにはいけません。

 キザンは武と義を重んじます」


 言わんとする事はわかるけど……


「せめてキザンクラン特別最高顧問として私達の先頭に立って頂き、有事の際には私たちを手足としてお使い頂けないでしょうか。

 また、お時間のある時には道場にも足を運んで頂き、キザンクランの修行を見て頂けないでしょうか」


 やはり、このオジサンは食えないな……


 ハクビの手足として動きたいというのも本音だろうが、要はこれからも修行をつけて欲しいということなのだろう。


 強い者と戦いたい武道家の性なのだろうか。



 ハクビはチラッと僕の方を見る。


 まぁ、ハクビの性格は無下に断れないだろう。


『好きにすればいい』と僕は軽く笑ってうなずいた。


「時間のあるときに、道場に来るくらいはいいわ。

 けど、私はいつまでこの街にいるかはわからないからね。

 都合のつく間だけでいいならって条件付きよ」


「もちろんです。

 ありがとうございます。

 ハクビ様」


「あと、ハクビ様ってのも禁止ね。

 ハクビでいいわ。

 変な風に畏まるのもやめて」


 当主は抵抗したが、ハクビの呼び方は「ハクビさん」で落ち着いた。


 ちょっと変な感じだが、礼節を重んじる道場で教えを乞う者が、師匠を敬称なしで呼ぶことはさすがにできないだろう。


 ハクビは多くのチビ達と既に面識があるらしく、ワイワイとハクビにまとわりついて特別最高顧問就任を喜こんでいた。


 近所のガキ大将は国で一番の武道家道場の大将になってしまった。


 目立ち過ぎかな?


 この世界で信頼して助けを求められる人ができたことは単純にプラスだろう。


 困った時は本当に助けてもらおう。


 僕らの素性についても当主には話しておいた方がいいかもしれない。




 ♢




 その日以来、午前中の時間にハクビはジャックを連れて道場に行くようになった。


 ジャックも良い機会だからということで、闘気を使った武術を学ぶことにしたらしい。


 ハクビはすっかり祭り上げられ、特別最高顧問として当主と当主の息子と数人の上級門下生に稽古をつけてやっている。



 ギランには、僕とハクビの素性について改めて話をした。


 僕とハクビが人間じゃないこと、そしてグラディウム大陸のこと。


 思ったとおり、ギランは僕らの素性を知って態度が変わるようなことはなかった。


 むしろ、信用してもらえたという事に大層喜び、より一層忠誠を誓うことを宣言していた。


 素性を話したことで僕にも大層な敬意を払うようになったのには少し困った。


 食えないオジサンではあるけど、信頼はできると僕は思っている。


 残念ながらグラディウム大陸については、キザン当主からも新しい情報は得られなかった。





 アモンは公開試合後もずっと土俵での訓練を続けている。


 闘気をコントールできるようになったアモンは自信がついたのか、ほとんど泣かなくなったのだと言う。


 自信どうこう関係なく、闘気をあれだけ不安定にまき散らしていたこと自体が涙腺に何らかの影響を及ぼしていたのかもしれない。



 ハクビがいない時に土俵の整地を頼みに来たアモンがこんな話をした。


「ハクビちゃんが言う『泣き虫』はお兄さんだったんですね」


「どういうこと?」


 僕がアモンの公開試合を見て泣いていたのを言っているのかな?


「ハクビちゃんと初めて会った時、オラは泣いてたんです。

 その時は、道場のチビがイジメられてたのを助けようと思ったんだけど、オラが泣いちゃって……

 それでイジメっ子が言ったんです」


『泣き虫の臆病者』


「そしたらどこからか現れたハクビちゃんが、一瞬でイジメっ子達全員を気絶させたんです」


 小突いて泣かす程度じゃないのか。


 気絶させちゃまずいんじゃないかな……

 意識失っちゃってるしな。


「そして言ったんです。

 『泣き虫と臆病者は全然違う』って。

 ハクビちゃんは、この前の道場の時みたいにすごく怒ってました。

 オラはなんでそこまでハクビちゃんが怒るのかわからなかったんです。

 だから、一緒に遊んでる時に改めて聞いてみたことがあるんです。

 『なんでそこまで泣き虫にこだわるのか?』って」


 確かに、あの時のハクビはだいぶ怒ってるように見えた。


「そしたらハクビちゃんは言ってました。

 『私が知っているこの世で一番勇敢で強くて優しい人は泣き虫なの。

 だから泣き虫を臆病者って言われると、その人の事をバカにされてるみたいでハラが立つのよ』って。

 それがお兄さんだって事がわかりました」


 そうなのか? 泣き虫は僕のことだったのか?


 確かに僕はよく泣くし、僕のことをバカにされたと感じたらハクビも怒るだろう。


「それにハクビちゃんはいっつもお兄さんの自慢話ばかりするから……」


 少し間を置いてアモンは意味深に言った。


「オラ、負けませんから!

 いつかハクビちゃんを守れるような男になります。

 お兄さん今後ともどうぞよろしくお願いします。

 では!」


 そう言うとアモンは足早に去っていった。


 負けないってどっちに負けないのだろう?

 ハクビにか? 自分自身にか?


 何れにせよ、明らかにアモンはハクビに好意を持っているようだ。


 他の近所の子供達もハクビを好きな奴なんてたくさんいるのだろう。


 ハクビは超美少女だし、性格も良い。


 ギランはアモンの恋心を見越してハクビを道場と関わらせようとしてるではないか?


 それはあまりに邪推が過ぎるかもしれない……


 しかし、目を輝かせながら「お兄さん」と言ってくるアモンには、怒りの様な不思議な感情が湧き上がってくる。


 これが親心なんだろうか、娘を嫁には出したくない父親の気持ちっていうのかな?


 もしアモンがトトに挨拶に来たら、トトはアモンをとりあえずボコボコにする気がする。


 トトはハクビとコロンが大好きだから。


 何れにしろ複雑な心境なのは確かだ。


 会いたいな……父さん。

ついに甘酸っぱい要素もでてきました。

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