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第039話 「アモンの戦い」

 公開試合は3試合。


 右と左で分かれて3人ずつ向かい合って座っている。


 対面の相手と立ち会いをしていくのだろう。


 一応、初級、中級、上級の3試合という事らしい。


 アモンの試合は3試合目の上級の試合だ。


 アモンの相手は体格の良い大人鬼人で180センチはあるだろう。


 さすがにハクビの首への手刀で気絶しなかっただけのことはある。


 たいぶ闘気がつかえるだろう。


 けど、そんな大人2人がなんでわざわざアモンをナジったり煽ったりしたのだろうか?


 そこまで闘気が使えるなら、やろうと思えばアモンをボコボコに痛めつけることができただろうに……


 まぁ、今のアモンはそうはいかないけど。




 第1試合。


 初級の試合は小学校低学年くらいの鬼人の子が微笑ましく立ち会っていた。


 それでもちゃんとした指導がなされているのだろう。


 ちゃんとした型があり突きや蹴りで打ち合う。


 闘気はまだまだだが、この歳の子達にしてはやはりしっかりした闘い方をしてる。


 そのうち1人の上段蹴りが見事に相手の顔面をとらえた。


 のけぞって倒れた鬼人の少年はしばらく我慢していたが泣いてしまった。


「泣くな!!!

 武道家が泣くなど恥を知れ!!」


 一番奥で見ていたキザン当主が怒鳴る。


 会場の雰囲気が一気にピリつく。


 「は、はぁい!」


 泣いていた少年は大声で返事をして必死で涙をこらえながら自分の場所に戻る。




 第2試合。


 僕と同世代で中高生くらいだろうか。


 アモンよりは年上だろう。


 鬼人と熊の獣人の男の子。


 2人とも僕よりも背が高い。


「はじめ!」


 さっきの子供達の闘いとは打って変わって、派手な打ち合いをする。


 2人ともまたまだ雑だが闘気の力もかなりある。


 けど、闘いのセオリー通り初手から全力でやるので、1分程の激しい打ち合いで勝負がついた。


「それまで!」


 実戦に趣を置いた道場だというのがしっかり伝わってくる闘いだった。


 よく見た漫画では、しばらくお互い打ち合った後に、そろそろ本気を出すかと言って新たな技が披露されストーリーが盛り上がった。


 しかし、生きるか死ぬかの実戦は違う。


 自分の持てる最大の力で初手から全力で倒しに行く。


 最初に手を抜いていたら、下手すれば即死だ。


 だから、実戦では初手から全力がセオリーだ。


 トトやジジから教わった闘いへの基本的な考え方だ。




 第3試合。


 アモンと大人鬼人の試合だ。


「はじめ!」


 大人鬼人は初手から首元、ミゾオチ、膝へのローキック。


 おそらく全快の闘気での連続攻撃だ。


 けど、アモンは倒れない。


 僕の言いつけ通り腰を落として1センチの闘気を丹田へ込める。


 うん。いいぞ。

 アモン。


「は! はっ!」


 大人鬼人も手を緩めない。


 逃走が考えられない以上、攻めている大人鬼人は、時間がたって疲れればどんどん不利になる。


 だからこそ、はじめの体力のあるうちに防御をくずしたい。



 すごい気迫で闘気のこもった打撃が続く。



 《ゴン、ババン》


 アモンは倒れないが痛みはあるだろう。



 《ガシ、バンバン》


 そして怖いだろう。



 《ドガ、ドドン》


 あくまで倒れないし動かないだけであって、痛みもあれば、威圧も感じるだろう。


 それだけの闘気の攻撃をアモンは受けている。


 しばらく耐えた。


 3分は持ちこたえたと思う。


 アモンの顔はボコボコに膨れ上がり、足もガクガクしている。


 厳しい顔をしながら耐えていたアモンの目からはついに涙がこぼれ出す。



「う、うわぁん」


 嗚咽がこぼれたところで闘気も乱れる。


 そのタイミングでミゾオチに大人鬼人の会心の一撃が入った。



 《ドガッ》


 アモンは膝をついてしまう。



「それま――」


「まだだ!」


 審判が勝敗の判断をする前に大声で叫んでしまった。

 声を出した僕自身も驚いた。


 終わりじゃない。


 アモンは泣いているけど目は死んでない。

 諦めてない。


 そうだよね? アモン。


 審判やみんなが僕の声に驚いてる間に、僕の思った通りアモンは再び立ち上がった。



 泣いている。


 痛くて泣いている。


 怖くて泣いている。


 けど闘気を纏い直した。


 泣いてるけど闘気は乱さない。



 よしそれでいい。アモン。



 大人鬼人はうれしそうな顔をしたように見えた。

 すぐに全快の連続攻撃を再開した。



 《バンバン》



 《ドン、ドドン》



 アモンの体はボロボロで足もガクガクだけど、決して倒れない。


 怖くて泣いているけど倒れない。


 精神が肉体を凌駕する。


『変わりたい』と言った少年の気持ちは嘘じゃない。


 僕もなんだか泣けてきた。


 更に3分程耐えると大人鬼人の動きが一気に鈍くなった。


 そりゃそうだろう。

 全力の連続攻撃なんてもって数分だ。



 うん、ここだ。



 アモンはこの隙を見逃さない。


「うおぉお!」


 1つだけ教えていた単純な攻撃。


 利き腕の右手で相手を強く押す。


 《ドーン》


 大人鬼人は2メートル程後ろに吹っ飛び。

 一撃で失神した。


 ただ強く押しただけでも、アモンの闘気を纏った一撃は余裕で大人鬼人をふっとばせる。


 それだけズバ抜けた闘気の素質をアモンは持っているのだ。


「それまで!」



 気の抜けた亜門は声をあげて泣いた。


「うわーん。オラ、オラ」


 一瞬僕の方も見ていた。

 僕は泣いているのがばれないように慌てて涙を拭った。


 すると周りの道場生たちから一声に歓声があがった。


「若、ついに若がやったぞ!」


「わかー!」


 門下生はみんなうれしそうにアモンの所へ集まる。



 若? あれ?


 アモンってこの道場の息子なのかな?



「静まれー!!!」


 キザン当主が叫ぶ。


「悪くない試合だった。アモン。

 しかし、試合中に泣くとはなんたることだ。

 恥を知れ憶病者!」


「お、オトン。

 オラ、ヒック、オラ」


 アモンは必死で涙を抑え込もうとする。


 騒いでいた道場生達も一気に小さくなり、アモンから離れる。

 また雰囲気がピリつく。


「取り消しなさいよ!

 オジサン!

 アモンは泣き虫だけど、憶病者じゃないわ。

 泣く事と臆病は一緒じゃない。

 間違ってるわ!」


 ハクビがいきなり当主に噛みついた。

 譲る気がないのが一目でわかる強い視線を当主へ向けている。


 僕もジャックも割り込まなかった。

 それくらいハクビは強い目をしていた。


 当主はしばらくハクビを見た後に言った。


「わかった。その話は奥で聞こう。

 とりあえずこれで3試合とも終わりだ。

 おまえら、片付けだ!」


「はい!!」


 門下生達が揃って返事をする。

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