第034話 「ティグハード入国」
新章開幕です!
ハクビが加わって馬車の移動は更ににぎやかになった。
馬を御すのをやってみたくなりジャックに教えてもらっている。
けど、すぐに出来るようになってしまいジャックは苦笑いしていた。
その後は、僕にジャレてみたり馬車から飛び降りて辺りを走り回って戻ってきたりと大忙しだ。
ジジとの食料調達を思い出して暖かい気持ちになる。
あの時もハクビはいつも落ち着きなく動き回っているのが常だった。
同時にどうしても一番下の妹のことも思い出して少し暗い気持ちにもなる。
しばらく進むと人通りも多くなり、ビルデガルとティグハートとの国境の検問が見えてきた。
長い列ができている。
出国の警備やチェックは入国以上に力をいれていると聞く。
それに今は国のトップであったロイヤルノーブルが消滅し国政が不安定になっている。
大貴族達は富の流出を懸念して、国から出て行くものに対してよりいっそう敏感になっているそうだ。
僕とハクビは魔法で目と耳を隠しているけどまだまだ気が抜けない。
それにジャックはソフィーナの貴族の牢屋から脱走中だ。
もったいないけど馬車は検問近くで商人に格安で売ることにした。
そして検問から少し離れた林に入って暗くなるまで待機した。
国境沿いの森や抜け道はしっかり警備はしていても、10メートル以上の塀が建つ部分にはわざわざ気を払っていない。
辺りが暗くなると、僕らはその高い塀の部分を闘気を使って飛び越えてビルデガルを出国した。
ジャックはまた素直に僕にオブさり、ハクビはベルをオンブして飛ぶ。
誰にも見られずティグハート国側に着地できた。
国境付近は警備が厳しいだろうと考えて、とりあえず数キロは僕とハクビで走って2人を運んだ。
僕の背中は乗り心地が悪いらしく、数キロ先の林の中でジャックを下ろした時には青い顔をしていた。
そして茂みの中へ走って行きオエオエ吐いていた。
「ジャック、大丈夫?
ちょっとスピード速かったかな?」
「ばか、あんなの何でもねえよ!
気にすんな!」
ジャックはこういう時には必ず強がる。
別に気持ち悪くなったって認めればいいのに……
今夜は林の中で野営をすることにした。
「明るくなったらエステルの街を目指しましょう。
ここからなら朝に出発して皆でゆっくり歩いても夕方には着くはずよ」
道に詳しいベルが教えてくれた。
エステルはティグハート第2の都市で規模はビルデガルのソフィーナと同じくらいだ。
ティグハート国で一番大きい魔獣の森が近くにあり冒険者の街として有名らしい
平和で活気に溢れたベルのお気に入りの街だそうだ。
「それは楽しみだな」
ジャックはビルデガルには入国したことがあるけど、ティグハートの街は初めてなのでとても楽しみにしている。
キプロスが治める国だからっていうのもあるのだろう……
♢
のどかな林道を歩きながらたまに馬車とすれ違う。
快晴の空のした、歩いていて気持ちがいい。
ハクビは街がよっぽど楽しみなのかワクワクが止まらない。
落ち着きなく花を摘んでみたり木に登ってみたりしてる。
予定より早く暗くなる前にエステルに着いた。
街の活気がすごい。
自由の国 ティグハートの冒険者の街だけ合って、色んな人種、色んな格好の人で溢れかえっている。
繁華街には様々な店が並び、見たことのない物もいっぱい売っている。
神官と思われる人々も多く見かける。
そういえば僕は上級神官っていう設定もあるからな……
大森林はアマゾンの中の街って感じだった。
ビルデガルは異国人や多人種は肩身の狭い人間貴族至上主義の国だった。
けどここは平等で自由なんだ。
気のせいかすべての人種の人達が笑っているように見える。
奴隷がいないからそう見えるのかも知れない。
目を輝かせながら街を歩き回りたいと言うハクビをなだめながら、僕らはベルがよく利用するという宿屋へ向かった。
いつも泊まっている二段ベッド2つの4人部屋タイプはついに定員に達した。
ハクビは僕にくっついて寝るからベットは一つ空くわけだけど……
布団もシーツもちゃんとしている。
ハクビは大喜びで布団の上をゴロゴロしている。
それからみんなで露店をいくつかまわった。
ハクビは洋服に興味があるようだ。
ベルの指導のおかげなのかすっかり女の子になっている。
気に入ったワンピースを買ってあげるとすごく喜んでいた。
夜は皆んなで酒場兼食堂に行った。
ジャックとベルはエールを飲んだが、
撲はハクビが真似したがるだろうから飲まない。
ビルデガルの森の生活でも僕はエールを飲んでいない。
大好きってわけじゃないし飲まないことは苦ではない。
見たことのない料理。
ビルデガルとも全く異なった味付けがされている。
国が変わると調味料も変わるのだろうか?
とにかくおいしい。
ハクビも初めて食堂で食べるご飯にご満悦だ。
エステルはとても感じの良い街だ。
ベルがお気に入りの街だというのもうなずける。




