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第032話 「隠蔽魔法」

 ベルとジャックにハクビを紹介する。


「俺はジャックだ。キョウの大親友だぜ。

 そこでその大親友の妹にまずはプレゼントだ」


 自己紹介と同時にジャックが自分の荷物から、女の子向けのワンピースを取り出してハクビに渡す。


「俺が見た時よりも体が成長してるみたいだが、少し大きめのを選んだからサイズは大丈夫だと思うぜ!」


 大きめの布きれを体に巻きつけただけのハクビは、興味深そうに服を広げて体にあてて見たりして喜んでいる。


「ありがとう、ジャック。大切にするわ」


 ハクビの服に困る事を事前に予測していたのだろう。

 本当に僕の気づけないところにも気をまわしてくれる。

 ジャックには本当に敵わない。


「ベルよ。キョウ君の仲間で一緒に旅をしてるわ。よろしくね」


 ベルは優しく微笑む。


「ベルは耳がとんがってるのね。キョウ兄と一緒じゃないの?」


 ハクビは思ったまんまを口に出す。


「私はね、エルフっている種族なのよ。キョウ君とは違うの」


 軽い自己紹介をすませて、僕らのパーティは4人となった。


 僕はジャックとベルに改めて僕らの過去を伝えた。


 日本から転生した事は言わなかったけど、赤ちゃんの頃から獣の家族と暮らしていた事、そしてそこが恐らくグラディウム大陸で、種類は同じだけどこの大陸で見るものより数倍大きな魔獣が沢山いて、ドラゴンによってサートリア大陸に飛ばされた可能性あることを話した。


 ジャックは只々驚いていた。


 ベルは前に聞いた時には言ってくれなかったグラディウム大陸についての話をしてくれた。


「ずっとずっと昔に必ず戻ると約束した仲間が帰って来なかった事があったの。

 もしかしたら彼らはグラディウム大陸に行ったんじゃないかと私は考えた。

 だからグラディウムについて徹底的に調べたことがあるの。

 けど結局何の手がかりも見つからなかった。

 ドラゴンの話も聞いたことがないわ」


 大切な仲間だったのだろう。

 ベルの悲しい顔の訳がわかった。


「けど、キョウ君の言ってた大きな魔獣って観点からは調べた事がなかったから、もしかしたら魔獣関係の文献で何かわかるかもしれないわね。

 私もティグハートに着いたら、改めて知り合いに何か知らないか聞いてみるわ」


 大きな魔獣、これは僕らにとって唯一の手がかりになりそうだ。

 ベルの知り合いにも期待しよう。



 ♢




 これからどうするか検討した結果、とりあえず今は移動せずにこの森の中でしばらく生活する事にした。


 指が生えるのを待つのと、僕の赤い目とハクビのトラ耳を魔法でどうにかして隠す練習をする時間をとるためだ。


 指はこの3日で半分近く生えてきていたので、後は待つだけだ。


 それより問題は赤目とトラ耳だった。


 最初ジャックに赤目を隠す必要性を指摘された時に、僕は『魔法でどうにかできるんじゃないか?』とすぐに思いついた。


 しかし、水魔法で霧を作り光魔法を少し混ぜて色の見え方を変えるよう工夫してみたがうまくできない。


 隠蔽魔法と名付けよう。


 時間をかけて練習すれば十分に調整できる感覚はある。


 だから、どのくらい時間が掛かるかはわからないけど、しばらくはこの森で隠蔽魔法を練習することにしたのだ。


 ハクビの耳も同じ理屈で、霧と光の魔法で見えなくすることができそうだ。


 尻尾は服で隠せばいい。




 僕は『人間じゃない』らしい。


 赤目の人間なんてベルでも一度も見たことがないそうだ。


 だから、僕は人間じゃなくてグラディウム大陸に生息する悪魔の一種なのだろう。


 その力が覚醒したから目も赤くなって闘気の質も変わったのだと思う。


 指が生えてくるのにも納得がいく。


 『人間じゃない』


 ジャックは僕を少し気づかってくれていたけど、僕はその事実を自分でもビックリするくらい簡単に受け入れることができた。


 受け入れられたというより気にならなかった。


 獣に囲まれて育った僕には今さら自分が人間かどうかなんてたいした問題じゃない。


 大切なものを守る力に少しでもなるなら僕にとってはプラスでしかない。




 ♢




 この森は長期滞在に都合がよかった。


 森のとても深い場所にあるので狩人達もなかなか来ないだろうということ。


 そして水回りや果物や野生動物達も多いので僕らは暮らしに困らない。


 なんなら、僕とハクビは15年間こんな環境で育ってるし何の違和感もなく暮らせる。


 もともと森の民のエルフであるベルはもちろんのこと、ジャックも魔獣の森で囲まれたウルムで育ったこともあってすぐに森のサバイバル生活に慣れた。


 ジャックは当初ハクビに組手の稽古をつけてやるとはりきっていたが、力加減の掴めていないハクビのパンチで死にかけていた。


 そして、そのケガをハクビに治療してもらってからは稽古には一切口をださなくなった。


 今では時間のあるときに、ハクビに隠密の動きを教えてもらっている。


 日中は主に街に出て、情報を集め物資(主にエール)を調達してきてくれる。


 ベルは周囲の監視を担当してくれた。


 たまに来る狩人達にわざと見つかって、僕らの野営地とは別の方向へ誘導し野営地を守ってくれている。


 ジャックによると、ビルデガルの貴族達は僕の探索を完全に打ち切っているらしい。


 なぜなら、ロイヤルノーブルが消滅した今、大貴族の5つのファミリーのどこかが国を治めることになるからだ。


 つまり、次のビルデガル王になるわけだ。


 欲深い大貴族達はそれぞれ情報戦と他の有力貴族の囲い込みで大忙しらしい。


 確かに僕らにかまっている暇なんてない。

 その間に他の貴族に先をこされちゃ堪らないだろう。


 ジャックとベルが働いている間、僕とハクビは隠蔽魔法の修得に集中した。


 左手の指は日に日に生えてきて1週間も経つ頃には完全に元通りになった。


 そして2週間が経つ頃、隠蔽魔法も完璧になってきた。


 慣れてしまえば簡単なもので、あまり気を払わなくても長時間魔法を維持できるようになった。


 僕の目は黒く見えるし、ハクビの耳は無くなって白銀の髪をした人間の少女に見える。


 けど僕らと同程度魔法が使える者が見れば、魔法で何かを隠してる事には気付くだろう。


 今のところ会ったことがないし居るとしても少数だろうから気にしなくて大丈夫だろう。


 ハクビは尻尾も服の下に目立たない様に畳む事が出来るようになった。

 これは体の感覚の問題らしい。


 隠蔽魔法の理屈で全身を透明化させることも試してみたがこれはうまくいかなかった。


 そこまで広範囲の魔法は桁違いの魔力が必要で僕らのコントロールできる魔力じゃ到底まかなえない。


 この修行の機会に変質した僕の闘気を遠くに飛ばして相手を気絶させる技も習得した。


 変質した僕の闘気が軽くでも体に当たるとたいていの人間は気絶してしまう。


 ソファーナの街でやったように何百メートルも広範囲に飛ばすのを制御はできないけど、数十メートル範囲の特定の方向へ闘気を飛ばして相手を気絶させることが出来るようになった。


 出来るようになったと言っても、練習中に近くに居たジャックが気絶してしまったのを確認しただけだから、完全にマスターできたかはあやしい。


 その後、目を覚ましたジャックにはだいぶ怒られた。

 わざとじゃなかったんだけど……


 けど、感覚は掴めたから実戦でも十分使えるはずだ。




 ハクビはこの世界の事に興味深々だ。


 4人で食事をとったあとはベルとジャックで晩酌をする。

 そして、酔ったベルが得意の女子トークをする。


 女の子の洋服のことや男女の事、悪い大人もいるとかいないとか。


 色んな話をしてくれる。


 それにジャックも悪乗りしながら、男は黙って英雄を目指すのが美学だとか、男気だとか好き勝手教えている。


 ハクビは意図せずこの世界に来てしまい獣から獣人となってしまった。


 ここで暮らすには、この世界の慣習をある程度受け入れないと難しいだろう。


 だから2人の話はすごく助かる。


 ハクビも新しい世界のことを楽しんで受け入れているようでよかった。

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