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第031話 「青くさすぎて」

 約束通り明るくなる前ギリギリに帰って来れた。


 やることはやった。

 でも、気分は思ったより晴れなかった……


 寝床に着くと美少女ハクビははっきりと起きていた。


「キョウ兄、お帰り。

 だいぶ疲れてるみたいじゃない?!」


「ただいま。ちょっと無理しちゃったかな」


「しばらくゆっくりしたら? 私が気配感知しとくから」


 今までも体を休めながらも気をはっていたのだろうに……

 優しい妹だ。


「ありがとう。そうさせてもらうよ」


 だいぶ疲れていた僕はその言葉に甘えて横になると直ぐに意識を失った。




 ♢




 次の日、昼過ぎに起きるとハクビが既にご飯を作ってくれていた。


 ハクビは母親ゆずりの料理魔法で森で狩った動物を調理して焼いたものとフルーツをいくつか出してくれた。


 故郷の森と変わらない食事。

 この森には果物の木もいくつかあるので助かる。


 一晩寝ても心はモヤモヤしたままだ。

 まぁいいや……

 そのうち消えるだろう。



 それから2人でゆっくりしながら、魔法と闘気の制御の修行をした。


 やっぱり新しい闘気と魔法の制御は難しい。

 けど、急ぐ必要はないだろう。

 既に故郷の森に居た頃くらいには戦えるのだから。




 ♢




 暗くなる手前で、誰かが近寄ってくる気配を察知する。

 僕のよく知る気配だ。


 ベルが探し出したのだろうか?


 この場所はだいぶ森の深くにあるのに、さすがはエルフといったところなのか。


 《ピーー》


 聞き覚えのある口笛。

 ハクビを寝床に待たせて友達に会いにいく。


 僕だって忘れてた訳じゃない。

 いつか話をしなきゃと思っていた。


 口笛の先に着くと2人はとても心配そうな悲しそうな顔をしている。


「よぉ、なんだ? だいぶ雰囲気かわったな」

 ジャックがバツが悪そうに話しかけてくる。


「うん。よくここがわかったね。

 ごめんね。勝手にいなくなって」


 ベルは困ったように微笑んでいる。


「いや、それはいいけどよ。

 おまえは大丈夫なのか?

 目が真赤になっちまって。

 背も伸びてるよな?

 お、おま。指も半分無くなってんじゃねぇか。

 それに奴隷の子は大丈夫なのか?」


 ジャックが矢継ぎ早に質問してくる。


「僕は大丈夫。指もそんなに困ってないよ。

 奴隷だったあの子は実は僕の妹なんだ。

 ずっと探してた家族なんだ」


 ジャックもベルもあまり驚かなかった。

 僕の近しい子だっていうのはわかってたのだろう。


 まだ2週間程度しか3人で旅をしていない。

 けど本当に名残惜しくなる……



「ジャック、ベル。突然でごめんね。

 僕らの旅はここで終わりにしよう」


 2人もこの話をしにわざわざここまで来てくれたんだろう。


 あれからソフィーナの街はとんでもない騒ぎになっただろう。

 そんななか二人だけは僕が王子を殺してハクビを奪って街を出た事がわかっていた。


 ジャックは怒っている様に見える。


「なんだよそれ。

 おまえがソフィーナの何百人もの人を気絶させたからか?

 王子を殺したからか?」


「まぁ、そうだね」


「ソフィーナでは、王子を殺害した奴の顔を見たっていうやつはいないみてぇだ。

 それに気絶した連中は全員無事だったよ。

 けど今朝ビルデガルから早鷹で文が届いてな。

 ソフィーナの街を出る前聞いたよ」


 驚いた。

 早鷹なんてものがあるんだ。


「町中で大騒ぎになってたよ。

 首都ビルデガルに現れたフードを深くかぶった赤い目をした1人の男が、わずか数時間でロイヤルノーブルの目ぼしい屋敷を全壊。

 首都に戻っていた第一王子の側近達はもちろんのこと、国王、ビルデガル兵団、そして関係者の数百人が死亡。

 その中には女子供いたってよ。

 第1王子を殺して奴隷を奪ったやつの仕業だって言われてるよ。

 ビルデガル建国以来の大惨事。

 グラディウムの赤目の悪魔だってよ」


 そうか。

 グラディウムの赤目の悪魔か……あながち外れていないのかもな。


「これもおまえがやったのか?」


 嘘をつく気にはなれなかった。


「そうだよ。僕がやった。

 顔はばれていないと思うけど、赤目の人間なんて見たことがないからね。

 それに檻に入っていた妹を見た人達だって相当数いる。

 だから、ジャックもベルも僕らにはもう関わらない方がいい」


 正直に気持ちを伝える。


「なんで、そこまでした?

 女子供は殺さなくてもよかったんじゃないのか?」


 ジャックはとっても興奮してる。

 今にも爆発しそうだ。


「どうしても気がすまなかったんだよ」


 僕は強い声を出していたと思う


「ロイヤルノーブルが僕の妹を傷つけたよ。

 檻に入れて鞭で叩いたってさ。

 許せないよ。

 僕は全員を殺すよ。

 関係者、関係者と思われる連中も全員を殺すよ。

 女子供でも殺す。

 それを邪魔する人がいるならその人たちも全員殺す」



 涙がこぼれてくる。なんでだろう?

 後悔はしてない。本当なのに。

 

 わからない……


 ベルが近寄って来てやさしく抱きしてめてくれた。


「いいじゃない。

 色んな感情を知って色んな事考えて。

 それで大きくなればいいじゃない。

 けどね、キョウ君――」


 ベルが僕に何かを言いかけた時に、ジャックが僕とベルに割って入って引き離す。


 そして乱暴に僕の肩を両手で掴む。


「じゃぁ、俺を殺せよ!

 俺はおまえが女子供含めて何百人も殺した事が気に食わねぇよ!

 俺はおまえがこれからもそれを続けてくっていうならそれを邪魔するぞ!

 だからよ。殺せよ!殺してみろよ!!」


 《ドカ》


 ジャックが拳で僕の頬を殴る。

 僕は避けない。


 そのまま地面に倒れる。


「ほら、殺せよ!!

 俺はおまえを邪魔するぞ!

 俺なんて簡単に殺せるだろ!

 なぁ?!!」


 馬乗りになったジャックは僕を殴り続ける。

 僕は避けない。


「おまえは殺しなんて好きじゃねぇよ!!

 いくら許せないからって何百人も殺して平気じゃねぇんだ!

 俺の為に初めて殺しをやったおまえはビビッて泣いてたよ。

 だから、今も泣いてんだよ!

 この泣き虫野郎が!! おまえは、おまえはよ!」


 ジャックはボロボロに泣いている


 《ドカ、ドカ》


「いいか、よく聞け!

 お前が怒りに溺れて人を殺すなら俺も一緒に溺れてやる。

 考えるのが面倒くせえっていうなら俺が隣で考えてやる。

 誰を殺すのか、殺しちゃいけないのか。

 だから俺はおまえに着いていく。

 何があってもだ。絶対に何があってもだ!!」


 ジャックは本当に大声で叫んだ。


「だから『ここで終わりにしよう』なんて絶対に認めねぇ!!!

 この世界のこと何にも知らねぇくせにでかい口たたくな!!

 わかったか、泣き虫野郎が!!」


 心から溢れる友の言葉は暖かい。


 ウルムの村で出会ってから一ヵ月程だ。


 目の前の青年は本気で僕を叩いている。

 本気で泣いている。

 本気で僕を思いやってくれている。


 それに微塵の嘘もないことが僕には分かる。


 とってもとても暖かい。



 ここまで言ってくれる友の言葉は無下にはできない……



「なぁ、おい、早く答えろよ!泣き虫野郎!!」


 少し考えた。

 けどもう迷わない。

 僕だって一緒に居たい……



「ありがとう。ジャック。

 じゃあ、これからもよろしく頼むよ」


 殴られて口の中が切れていたけど、しっかり笑顔で友の思いに答えることができたと思う。


「お、おう。最初からそう言えってぇんだよ!グスン」


 ジャックがグスングスン言いながら、やっと安心した様な顔をする。


 もちろん僕の目から溢れでている涙も止めどない。

 止まるわけがない。



「もう、本当に少年達は青臭くて嫌いだわ」


 少し離れて見てたベルが涙を拭いながら言う。

 ベルが涙を流しているの初めて見たな。




 しばらくして、僕らはいつもの調子を取り戻した。


「ベルはこれからどうする?」


 念のためベルにも聞いた。


「あら、嫌だわ。キョウ君。

 私はね。あなた達に興味があるって言ったでしょ。

 もちろんこれからもついていくわ。

 それともジャックは殺せなくても私のことは殺せるのかしら?」


「茶化さないでくれよなー。ベルさん」


 ジャックが頭をかきながら目を細めてベルを睨む。


 いつもの三人の旅の空気に戻った。

 これからも僕らは一緒に旅をする。

 うれしい。

青臭いの大好きです!

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