表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/55

第030話 「ビルデガルの森の中」

 ハクビがちょこちょこ体勢を変えながら僕にまとわりついている。 


 僕は何も言わない。

 ハクビも何も言わない。


 ただくっついたりして擦りついてくる。


 トラ耳美少女になってもそれは変わらない。


 僕は時おり撫でてやる。


 何をするわけでもなく、なんでもない時間。


 10年以上、僕らはずっとこうやって過ごしてきた。


 だからこそ居るはずのもう1匹の妹が頭に浮かぶ。


「ねぇ、キョウ兄。コロンは大丈夫だと思う。

 あの丸太の家には魔獣は滅多に近づかないし、もし来てもクマがちゃんと守ってくれてるよ」


 ハクビも同じことを考えていたのだろう。


「そうだね。少なくとも安全ではあるはずだよね」


 僕は自分に言い聞かせるように言う。


「ハクビはさ……

 あの檻に入れられるまでに酷いことされなかった?」


 ずっと聞きたかったことを心を決めて聞いてみた。


 「うん。あのねーー」


 ハクビは灰龍(グレイドラゴーン)ガーシニアとの戦いからの話をしてくれた。







 ハクビは赤い闘気をまとった僕がガーシニアの心臓を見事に破壊するところをその目で見たらしい。


 その瞬間、ガーシニアを中心に辺りは光に包まれた。


 そして気がつくとどこかの森の中に居たらしい。


 自分が獣人の少女になっていることに気づいて新しい体の動きを確かめた。


 魔法と闘気が思うように出力できない。


 考えた結果、ハクビは僕が来るまで動かない方が良いと思ったらしい。


 必ず僕が迎えに来てくれる。

 それは全く疑わなかったそうだ。


 運よくそこは森であったため、森でずっと暮らしてきたハクビは生活には困らなかった。


 野生生物を狩って食事をして、雨風を防げそうな木の根の空洞を見つけてとりあえずの居場所とした。


 一人は不安だったけど3週間以上そこでずっと僕を待っていたらしい。


 ある日、数人の人間が森に入ってきたのをハクビは気づいた。


 ハクビは人間達の所まで行って尋ねる。


『キョウ兄まだ? もう少し?』


 ハクビにとって人間は僕しか知らない。


 だからハクビはその人間達に微塵の警戒心もなく近づいたのだ。


『一人で待ってるの?』


 起点をきかせたであろう一人の人間が答えたそうだ。


『うん。まだキョウ兄来ないの』


『じゃぁ、俺がお兄ちゃんを連れてきてあげるよ。

 どこに住んでいるの?』


 寝床にしていた木の根の場所を説明すると、男達は『そこで待ってるんだよ』と念を押して森から去って行った。


 それから程なくして、人間の団体が近づいてきて何か鞭の様なもので叩かれて意識を失った。


 気づくと首輪をつけられてあの檻の中に居たらしい。


 それからはずっとあの紋章がついた軍服の兵士達に囲まれていたそうだ。


 最初はどうにかして檻から出ようとしたのだけど、檻が光るとても痛くて、何度かそれを繰り返して抵抗するのをやめた。


 おとなしくしていると基本的には放置されて何もされなかったようだ。

 

 それからしばらくして、あの第一王子が来て馬車に乗せられてソフィーナの街の練り歩きになったらしい。







 僕は落ち着いて聞くように努めたけど、内心は本当にハラハラしながら聞いていた。


 どんな酷い事をされているのかとても心配だった。


 けど、よかった。

 僕が想像したよりは酷い事をされていない。


 次期国王がわざわざ迎えにくるくらい貴重な獣人だ。


 その王族が何かする前に、見張りの兵士や配下の者が必要以上に痛めつけたり手を出す事ができなかったのだろう。


 なんとかギリギリ間に合ったってことか。


 尊厳を犯されるような酷いことにはならなかったということだ。


「ねぇー、なんでキョウ兄が泣いてるの?」


「ん? ハクビがもっと酷い事されてたらどうしようって思ってたから」


 僕は涙がとまらなくなった。


「キョウ兄は本当に泣き虫なんだから」


 擦り寄ってくるハクビを強く抱きしめる。


「ありがとう。本当にありがとう。無事で居てくれて」


「まったく、なによ。

 ありがとうって……」


 ハクビはつぶやくようにいった。


 その後、声をだして泣いてしまった。

 情けない兄ちゃんでごめんよ……







 ハクビと話して重大な事実が分かった。


 カカとトトはこのサートリア大陸に僕を送り込むためにガーシニアと戦ったと言うのだ。


 2人は僕があの家で人間1人でいることを気にして、他の人間がいる世界へも行き来出来るようにしてあぎたいと思っていたらしい。


 ガーシニアは人間が住む世界と僕らの故郷の森の世界の番人で次元竜とも呼ばれている存在。


 僕らが見たガーシニアはあくまでガーシニア本体の分身だそうだ。


 次元竜は死なない。


 僕が分身ガーシニアを倒しても、別の次元に居るガーシニア本体がすぐに新しい分身を創りだして復活する。


 そして、またあの場所で次元の番を続けるそうだ。


 この話はクマが教えてくれたらしい。


 じゃあ、やはりグラディウム大陸が僕らの故郷の森の世界で、ここサートリア大陸が人間の居る世界ということなのだろう。


 ハクビも詳しくは分からないらしいけど、僕らはガーシニアを倒した事になるから、あの故郷の森に戻れるんじゃないかと言っていた。







 その日は1日体を休めた。

 疲れはすぐに抜けた。


 回復魔法では治らなかった左手の指は驚いたことに何もせずに少しずつ生えてきている。


 この分だとしばらくすれば指は完全に元通りになりそうだ。


 僕はもともと自然回復力が強いほうだったが、今回の目が赤くなる変化で更にその傾向が強くなっている気がする。


 この変化は今のところメリットしかないようだしポジティブに受け止めよう。



 次の日は2人で闘気と魔法の力を確認した。


 ハクビも僕と再会してから明らかに闘気の質が変わったらしい。


 作り出せる魔法の力加減も違う。


 やっぱり僕とハクビの力は連動しているのかな?

 

 僕らがコントロールできないとても大きな力。

 今まで持っていた力と明らかに違う力。


 けどコントロールする力はほんの少し。

 それだけでいい。


 僕らはそのレベルの出力は直ぐに使いこなせるようになった。


 それでも故郷の森に居たころの僕らと同程度の力を出力できる。


 この世界ではこれでも十分過ぎる力だと思う。



 今日の夜は少し1人で出かける事にする。


 このままじゃどうしても僕の気が済まない。

 やらなきゃいけないことがある。

 

 ハクビが闘気と魔法で戦えるのを確認できた。


 少なくとも僕が見て来たこの世界の人々に臨戦態勢にあるハクビに危害を加えられる者はいないだろう。


 今回は僕以外の誰かが近づいてきたら魔道具に気をつけながら逃げるように言い聞かせる。


 ハクビはしばらく僕に着いて来ると粘ったけど、真剣にお願いすると言う事を聞いてくれた。


 これは昔から決まっている。

 ハクビは聞き分けのいい妹だ。


 明るくなる前に必ずこの場所に戻ってくると約束して僕は森をでた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ