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第028話 「ソフィーナの街」

 早くニュートンを出たおかげで昼過ぎにはソフィーナについた。


 ソフィーナはビルデガルでも3番目に大きな街でニュートンの1.5倍程ある。


 街を囲む柵も門もニュートンよりも高く大きい。


 宿に荷物を置いて、遅めの昼食をとるために評判の食堂へ向かう途中。

 大きい繁華街の道で事件が起きた。


 大通りに溢れそうなくらいの人々が突然慌ただしく動き出した。

 皆何かから逃げるように大通りの端によってひざまずき始める。


 一瞬で僕らも自体を察すると他の人々にならって膝をつく。


 大通りの奥 100メートルくらいは先じゃやないだろうか。

 とてもゆっくりとこちらへ向かってくる団体が見える。


 視界に入る限りの人々は全員ひざまづき動ているものはいなくなった。


 青地に黄色い鷹が描かれた旗が見える。

 ロイヤルノーブルだ。


 あの黄色い鷹は事前に聞いていた一番遭遇しちゃいけない紋章だ。


 この街に来ているなんて情報はなかったはずなのに……


 僕らの少し前でひざまづいている商人らしき二人組の声が聞こえる。


「なんだよ、おまえ知ってたか?」


「つい数時間前に聞いたよ。

 なんでもとんでもなくレアな獣人の奴隷が手に入ったらしい。

 それで見せびらかしの練り歩きだそうだ」


「へー、そんなにすげー奴隷なのか?

 練り歩きなんてだいぶ久しぶりじゃないか?」


 貴重な奴隷が手に入った場合は、その奴隷を檻にいれて自分の所有物だと世間に見せつけるために街を練り歩くのだという。


 これは他の貴族達に奴隷を奪われないようにする防犯の意味があるらしい。



 珍しく人気のある奴隷は皆が欲しがる。


 だからどこかの大貴族の配下がその奴隷を捕らえたという情報が入ると、他の大貴族たちが秘密裏に金で雇った傭兵や商人を使って運送中の奴隷を奪おうとするらしい。


 要は貴族のその手に届くまでに奪ってしまえば、それは不慮の事故で済ませられるという考え方らしい。


 だから、所有者の貴族本人が地方に奴隷を出迎えに行き、白昼堂々その奴隷を連れまわす事で所有権を主張するのだ。


 その奴隷はもう自分のものでどの貴族が奪おうとしてももう遅いとアピールしてるんだという。


 もっとも、ロイヤルノーブルが捕らえた奴隷に対しては大貴族も手が出せないので練り歩きの意味はないらしい。


 けど今回この街に来ている次期国王 第一王子は大の奴隷コレクターで有名で、皆に自慢したいだけで練り歩きをしているのだという。


 なんともきもち悪い話だが、それだけ珍しくて人気のある奴隷が、この街近くで捕獲されたか、運送されていたということらしい。


 ベルは目立たないようにローブを深く被り顔が少しでも見えない様に深く深く頭を下げている。


 とてもゆっくり進んでいる第一王子の一団は僕らの目の前を通るにも後数十分かかるだろう。



 それなのに、僕らよりもっと後方にいる人々を含め全員ひざまずいて誰もうごかない。


 異様な光景だ。


 なるべく首を動かさずに、目のうごきだけで回りをみる。



 気持ち悪い。


 本当に気持ち悪い。


 けど色んな国があって色んな文化があって、色んな価値観があるのは仕方ない。

 わざわざ、こちらから入国しているわけだし……


 嫌なら入らなければいいはずだ。

 それにこの姿勢で一時間も居れば終わりだ。


 僕はなるべく思考と体を動かさない様にしながらひたすら待った。


 徐々に大行列の音が近づいてくる。


 一番前で黄色い鷲の紋章の旗を掲げる男が通る。

 紋章の入った軍服を着ている。

 あれがビルデガル兵団なのだろう。


 その後ろには同じ制服を着た数十人の兵士達が行進している。


 兵隊の行進の後ろに馬に引かせた荷台に正方形の檻が乗っている。

 檻には女の子が1人。


 少女は白銀の髪をしていて獣人の耳が頭から生えている。

 小学校低学年くらいの少女だ。

 首には如何にも頑丈そうな太い首輪をしている。


 うつむいていて顔は良く見えない。


 ジャックが見たことないと言っていた人間に動物の耳が付いたようなタイプの獣人なのだろう。


 僕もこの旅の道中で一度もそのタイプの獣人を見たことがないからやはり珍しいのだろう。


 マントの様な大きめの布切れから出ている手足からは傷跡が見てとれて痛々しい。


 小刻みに肩をゆらしながら、押し殺した泣き声がこれまた痛々しい。


 檻の後ろには筋骨隆々な8人の奴隷が神輿を担いでいる。

 うえにはいかにも不健康そうな小太りで無駄に装飾の多い服を着た金髪の青年が乗っている。


 この人が王子なのだろう。


 僕らの目の前を通るすこし手前で王子が長い鞭で檻を叩く。


「顔を隠すなといっておろう」


 《バン》


 檻を鞭で叩くと檻自体がピカっ光った。

 檻も鞭も魔道具のようだ。


「イヤァー」


 獣人の子が悲鳴を上げる。

 檻を通じて何かしらの痛みを与えることができるのだろう。


 けど獣人の子は悲鳴を上げるが王子の言うことを無視して顔を上げる事をしない。


 王子をそれをみながら気持ち悪い笑みを浮かべる。


「本当に調教しがいのある獣だな」



 《バチン》


 さっきより強く鞭で叩くと、檻の光も強くなった。


 獣人の子は悲鳴をあげて仰け反って倒れる。


 怒った獣人の子はすぐに起き上がって檻を無視して王子に飛びかかる。


 《ガゴン》


 すごい音をたてて檻にぶつかる。


 それも無視してものすごい剣幕で王子に手を伸ばしている。









 その時、初めてその子の顔をはっきりと見る事が出来た。





 あれ?





「ハ、ハクビ?」




 瞬間頭が真っ白になった。




 ♢




 気がつくと僕は王子の生首を右手でもって神輿の上に立っていた。


 首の亡くなった胴体は血を吹き出しながら足元に倒れいる。


「うわぁ」


 驚いて持っていた生首から手を離す。

 神輿は地についていて、見渡す限りの人々は全員倒れている。



 檻の方へ目を向けた。



 白い虎だ。


 猫じゃない。


 僕の知っているより明らかに大きくなった4足獣。


 僕の上の妹ハクビだ。

 少女の姿ではなくなっている。


 傷だらけのハクビはヨロヨロになりながらもまだ意識があるようだ。


 僕と目が合うと、とっても安心した様なうれしそうな顔をしてパタッと倒れた。


『遅い』


 そんな風に言っている様に見えた。



 僕の思考がやっとまともに動きだす。



 は、早く。


 早くしなきゃ。


 ハクビを連れて早く逃げなきゃ。


 僕は檻を力づくでこじ開けようとしてみるがビクともしない。


 ダメだ。

 時間はかけられない。


 僕は闘気をこめて檻の一つの棒に拳を打ち込んだ。


 なんだ?

 闘気の質が変わっている?

 うまく制御も出来ない。


 折れはしなかったが5センチくらいは曲がった。


 よしいける。


 それから何回か拳を打ち込む。


 闘気がうまく制御できず、手の骨が折れたのに気づいたが、まだ拳の体は保っていたので打ち込めた。


 ハクビが通れる程度に檻を曲げるてゆっくり檻から出した。


 そして闘気全開で大通りを走り抜け柵を飛び越える。


 街の人々はみんな意識を失っていたようだ。

 誰に呼び止められることなく街を出れた。

つ、ついにハクビとの再会?!!

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