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第027話 「ニュートンの街」

 ラキの村を後にしてひとつ山を超えるとついにビルデガルの国境のすぐそばの街に着いた。


 酒場ではよくこんな話を聞く。


 ビルデガルに入ったらとにかく貴族達に気を付けるようにと。


 ビルデガルは奴隷制、そしてカースト制がある。


 下から、


【奴隷】

 貴族以上の身分の家に仕える


【平民】

 大多数の国民


【貴族】

 100個程の一族


【大貴族】

 建国時から続く5つの特別な一族


【ロイヤルノーブル】ビルデガルファミリー


 国名を家名に持つこの一族はビルデガルでは神に等しい存在とされる。


 もし街で会うようなことがあれば、仕事をしている者も手を止め膝まづくことを強制される。

 そして見えなくなるまで面を上げることが許されない。


 それを知らない新参の商人や冒険者が何人も捕らえら、その場で殺されるか、もしくは奴隷にされるらしい。


 ムチャクチャだ。


 ロイヤルノーブルはビルデガル兵団という大きな軍隊を持っており、国営とは言うもののロイヤルノーブルの私兵として動いているそうだ。


 青地に黄色い鷹の紋章がロイヤルノーブルを表すらしい。


 ビルデガル兵団もその紋章のついた軍服を着てるので直ぐにわかるらしい。


 5つの大貴族も専任の兵隊を連れて歩いていて難癖をつかられるとひどい目にあうらしい。


 とにかく大貴族、ましてやロイヤルノーブルに遭遇したら黙って従い間違っても歯向かったりしないこと。


 それが酒場の皆が口にするビルデガルでの合言葉だ。


 それさえ守ってれば商人にとってはいい国らしい。


 色んな物が仕入れられるし、金払いの良い客がおおいので色んな商品が高く売れるらしい。



 奴隷制でカースト制。


 現代日本の文化で育ってきた僕にはやっぱりネガティブなイメージが先行してしまう。


 けどそんな前世の価値観なんてあってないようなもんだ。


 ここは異世界で僕は既に人殺しだ。


 そう。

 悩んでも仕方ないことは悩まない。

 大切な物だけ考えて動けばいい。




 ♢




 国境には大きい検問所があり既に列ができていた。


 ここでは大量な武器や高価なものの持ち込みをチェックしている。

 そして、入国料が徴収される。


 たいした額じゃないが、わざわざ素通りする為には払わないだろう。


 僕らは簡単なチェックを受け入国料を払う。


「エルフか? もし運がよければ貴族様に高く買ってもらえるかもな」


 下衆な笑みを浮かべる検問担当を苦笑いをしながらやり過ごす。

 無事に入国することができた。


 検問は外国人の入国よりも自国人の出国への検査に力をいれているらしい。


 奴隷や平民が何かしらの理由から自国から逃げようとすることが多々あるそうだ。



「キョウ君大丈夫?」


 ベルの問いかけに僕は笑顔で頷いた。


 ジャックとベルからは、ビルデガルを入る前から口を酸っぱくして言われている。


 どんな侮辱があったとしても決して怒りをみせちゃいけないと。


 特にベルはエルフだから侮辱や差別的な発言を何度もされるだろうし、外国人ってだけでバカにされたりするようなことも容易に想像できる。


 そこで揉め事になったら、ただただ面倒になるだけだ。

 だから絶対に逆らったりしないでやり過ごすようにと。


 二人はだいぶ僕を心配しているみたいだ。

 僕が誰かに攻撃的な態度をとってトラブルになったことなんてないはずだけどな……


 けど不快な事があると、いちいち顔にでているのかもしれない。

 前世では顔にでないことで有名だったんだけどな。




 ♢




 しばらく進むと目的の街がみえてきた。


 ビルデガルでは2つの街に一泊ずつして3日で国を抜ける。


 トラブルに巻き込まれないよう駆け足で通り過ぎる予定だ。


 夕方前に目的の街 ニュートンが見えてきた。


 今までのキヌガ大森林の街は基本的には土のうえに木の家が建っていた。


 だから、大きい建物でも山小屋の延長にすぎなかった。


 しかし、ニュートンは全然違う。


 街の周りには柵で囲まれいて、東西南北には立派な門があり、そこからしか出入りができないようになっている。


 街中はすべて石畳で舗装されており、家の作りも山小屋の延長ではない。


 外壁は塗り壁で見なこと無い素材が使われている様にみえる。


 木に色を塗っているだけなのかもしれないが、屋根の色もカラフルだ。

 一気に近代化している。


 平民と思われる人たちも明らかに大森林の人達より上等な服をきているように思う。

 亜熱帯の大森林とは気候も違うしあたりまえなのだろうけど……


 大森林の酒場で聞いた評判の良い宿に入り馬車を置く。


 部屋はいつもどおり二段ベットが二つ置かれた4人部屋をとるが、驚いたことにベットが本当にベットなのだ。


 今までもベットという言葉を使ってきたが、それは木の上に干し草と布を置いただけのものを便宜上ベットと呼んでいただけだ。


 しかし、ここのベットは僕の知っているベットと呼んでも差し支えのないものだ。


 一番の違いは白いシーツがついていることだ。


 今まで見てきた布とは明らかにことなる。

 ちゃんとした織物の技術があるのだろう。


 シーツの中に入っている物も適度な硬さと柔らかさが共存し僕の知っている布団と同レベルだ。


 同じ世界でもこうも違うものなのかと驚いた。


 しかし、前世の地球だって日本ではあれだけ近代化が進んでいるのに、アフリカでは未だに近代化とは無縁で原始的な暮らしをしている民族もいるだろう。


 だから、国々で文化レベルが違うのはどこの世界でも同じことなんだろう。




 ♢




 以前から聞いていた評判の酒場へ。


「いらっしゃーい」


 元気な女性の店員が出迎えてくれた。


 ベルは念のため深めのフードをかぶっている。


 酒場には、ザヌースでいるよく見たような冒険者が多かった。


 いわゆる外国人の冒険者/商人が集まるような酒場なのであろう。


 それでも、おそらく平民であろう地元の人々も半分くらいは居る様に思う。


 料理もお酒も味が洗練していて確かにザヌースよりおいしい。


 しかし、ベットの衝撃程ではない。


 そして、ラキの村で振舞ってもらって飲み食いした記憶が新しいため、そんなに感動しなかった。


 あの日の食事は本当においしかった。


 酒場では、次の街の情報を中心に集めるようにする。


 幸いロイヤルノーブルがこっちに滞在しているという話は聞かなかった。


 下手なトラブルは避けたいもんだ。


「まいど、ありがとうございました」


 僕らは長居はせずに欲しい情報がきけたらすぐに店をでた。


 酒場と宿は繁華街にあり、数十メートルしか離れていない。


 その短い距離でもどうしても目に入る。


 少し上等そうな服を着ている男女が鎖をもって首輪をした人間をつれて歩いている。


 鎖につながれた人間は死んだ目をしている。


 街で鎖で連れまわす奴隷は防犯目的が多いらしいから筋骨隆々の男の奴隷が多い。


 首輪は特殊な魔道具で所有者の呪文によって奴隷を気絶させたり、痛みを与えたり、殺したりすることができるそうだ。


 首輪は奴隷本体より高価で貴族の家系で代々使いまわされる。

 首輪に空きができたら新しい奴隷を買うというのが一般的らしい。


 大貴族以上が持つ首輪は通常のものの何倍もの強度をもった特殊金属で作られている。


 その特殊金属は魔力や特別な力も封じる事ができ、強い魔獣をも奴隷にすることができるそうだ。


 繁華街を歩く人々は奴隷がいるこの光景をさも当たり前かの様にふるまい誰も見向きもしない。


 僕はどうしても気持ち悪さが拭えなかった。


 部屋に戻ると、僕らはすぐに寝ることにした。


 明日はできる限り早く起きてニュートンの街をでて、次の目的地 ソフィーナ へ向かうことにする。


 この世界に来て一番快適なベットで快適な睡眠がとれるはずだったのだが、どうしても気持ちが落ち着かない嫌な夜になった。


 次の日、まだ少し暗いうちに僕らは街の南門を抜けてソフィーナへ向かった。

 僕の口数は目に見えて少なかったと思う。


「キョウ、大丈夫か?」


 ジャックが心配してくれる。


「うん。大丈夫。問題ないよ。ありがとう」


 明らかに態度に出てしまっているんだろうな。



「今日1泊とまったら、明日にはもうこの国を抜けられるわ。

 居心地の悪い国から出られて私もせいせいするわ」


 ベルも気を使ってくれる。


「そうだね、あと少しだ。 僕もがんばるよ」


 そうだ。あと1日。

 気持ちを切り替えよう。

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