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第026話 「ラキとジャック」

お気に入りの話です!ジャックが男前!

 ジャックが僕らの場所まで来る頃には、3匹を一か所に集めて解体作業が進んでいた。


「あら、ジャック早いわね」


「あー、そうだな。

 ベルさん。

 全速力で駆けつけたら解体を少しでも手伝えそうでよかったよ」


「あら、そう? 解体もそろそろ終わるけど」


「いや、待て待て。俺にも少しは参加させてくれよ」


 苦笑いしながらジャックも解体作業に加わる。


 ジャックは自分が一匹も魔獣を仕留められなかったことに対して、皮肉を込めて言っているんだろうけど、ベルにはそれは伝わらない。


 単純にジャックの到着が思ったより早かったからそれを言っているだけだ。


 それをジャックも分かっているから別に指摘したりもしない。

 いつもの二人のやりとりになんかほっこりする。


 お金になりそうな牙や皮 等を選別して村に持ち帰る。




 ♢




 村へ戻った頃には辺りはうっすら暗くなっていた。


 3匹分のキングボアの素材を見て、村の人達はたいそう驚いていた。


「これを商人に売るなりして、村の人達の生活の足しにしてください」


「そ、そんな、こんなに。

 これだけあれば、すごいお金になります。

 ケガ人まで治して頂いた上にもうなんてお礼をしていいのやら」


「本当に気にしなくていいのよ。

 高位な神官様の趣味みたいなものだから」


 ベルまで悪乗りしてきた。

 まぁ、村人達がこれを受け取ってくれないのは僕も困るからそれでいいけどね。


「それでは、せめて今夜だけでも村に泊まっていってください。

 おもてなしをさせてください。

 このまま神官様達を返したらこの村の先祖に顔向けできません」


「まぁ、そういうことなら。

 お言葉に甘えます」


「やったぜ」

 村長の後ろで状況を見守っていたラキが駆け寄ってくる。


「ラキ、神官様達をお部屋に案内してあげて」


「おうよー! 兄ちゃん達、こっちこっち!」


 ラキはジャックの手を引いてとっても嬉しそうだ。


 その日は大人数で宴会となった。

 あれから村人何人かで繁華街にでて魔獣の素材をお金にした。

 そして、お酒を含め大量の食材を買い込んで村に帰ってきた。


 残った分だけでも村人全員がこのシーズンを裕に越せるくらいのお金になったようだった。


 さすがキングボアなのかな?

 バトルボアよりだいぶ高く売れるようだ。


 女達が腕によりをかけて料理を作る。

 男たちはどこからか松明と仮設のテーブル代わりの台をもってくる。

 そこに食事とエールが所せましと並ぶ。


 その日はサトリーク大陸に来て一番笑った。

 子供達も大人達もみんな幸せそうで本当に良く笑っていた。


 ベルも気分よく酔っぱらって、村の女性達とワイワイやっている。

 やっと女子同士でそういう話ができてよかった。

 いつもは何もわからない僕ら少年たちに一方的に話すだけで、会話とは言い難い状況になるからな……


 今日は大盛り上がりで意見交換をしているようだ。



 ジャックはというと、ずっとラキに付きまとわれている。

 明日の朝にラキの修行に付き合うことを約束させられていた。


 ジャックは僕に明日の出発が昼過ぎでいいか確認してきたが、僕が反対するわけないことをわかったうえだろう。


 まぁ、それでも僕を立ててくれてるのだろうけど……


 ラキはジャックとの修行ができることを心底喜んでいるようだ。

 僕もその顔を見てとても暖かい気持ちになる。


 ジャックにまとわりつくラキを見ると僕は妹獣達を思い出す。


 会いたいな……

 ハクビもコロンもどうしているだろう。

 少しだけ寂しい気持ちになった。



 次の日は早起きしてジャックとラキの修行に付き合った。


 僕も何か手伝おうと名乗り出たがジャックに止められた。

 ラキは普通の奴だから僕の修行じゃ参考にならないとのことだ。


 ジャック自体も思うところがあったらしい。

 僕はラキとジャックで木の棒でも持って2人で打ち合うようなことを想像していた。

 しかし実際はまったく違った。


 ジャックはもっと真剣に考えていたようだ。

 それは修行というよりも、毎日繰り返しできる修行方法を伝えるものだ。


 ジャックの隠密の動きや戦闘に対する考え方は亡くなったお父さんから学んでいる。


 だから、自分の経験を基にして伝えたい修行方法がしっかり決まっているようだった。


 的を決めてナイフをひたすら真ん中にあてる練習。

 木を人間に見立ててひたすら音もたてずに後ろに回りこむ練習。

 動物達に気づかれずに近づく練習。


 とにかく繰り返し毎日できること。


 何に気を付けて練習すべきなのかをジャック自身が実際にやって見せながら教えている。


 一通り修行方法を教えてると次は座学になった。


 リスクの考え方について問答を繰り返して教えている。


 いくつものパターンの例をだして、『この場合はどうする?』とラキに考えさせる。


 ラキが答えると、他の視点からの選択肢を提示してラキに再考を促す。


 そして一通りそれをやると、ちがうパターンで選択肢を考えさせる。


 それをずっと繰り返す。


 もちろん質も大事だが、速さも大事だと矢継ぎ早に回答を急せかしたりする。


 本当にジャックは真剣だ。


 僕はかれこれ数時間何もしゃべらずに二人のやりとりを眺めている。


「よし、そろそろ最後の問題だ。ラキ。

 今回の盗賊団の1件でお前の選択は下策中の下策だった。

 だが、それより最低の選択が1つだけある。

 なんだと思う?」


 ラキは少し考えこむ。


 僕も答えがすぐでない。


 ラキは特に盗賊団の1件は後悔の念が強いらしく困った顔をする。



「おまえは絶対わかってるはずだ。

 よーく考えてみろ」



 ジャックは回答をじらす。

 僕も早く答えを教えて欲しい……




 しっかり間をとってジャックは言う。




「それは何もしないことだ!」


 ラキはハッと顔を上げる。



「これは俺の考えだが、あの状況で一番悪いのは何もしないことだ。

 ラキの母ちゃんは怒るかもしれない。

 けど、あそこで動けるか動けないかにはすごい違いがある。

 最低の下策をとったが動かないとは全然違う。

 これは結果論じゃないぞ!ラキ!」


 ジャックはとても真剣に言う。



「お前が動いたから俺らが村に来たんだ。

 お前が動いたからケガ人は治療されたんだ。

 この村の英雄は俺らじゃない。

 お前なんだぞ。ラキ」



 ジャックは涙ぐむラキの頭をワシャとする。



「そのことは忘れんなよ。

 俺もお前を誇りに思っている。

 偉かったな」


 ジャックは優しい顔をしている。



 ラキは顔をクシャクシャにしてエンエン泣きながらジャックに抱きついた。


 遠目で見ていた僕も涙がでていたが、ラキもジャックも気づいてないので僕だけの秘密にする。


 ラキが泣き止むまでジャックは寄り添うように傍にいた。


「俺さ、がんばって修行してさ、

 ジャックと一緒に居ても邪魔にならないくらいに強くなるよ。

 そして俺が一人前になってさ、そんでさ、

 そん時にもしジャックに再会したらさ、

 そん時は俺をジャックの行くとこ連れてっくれよ。

 一緒にいさせてくれよ」


 ジャックは嬉しそうに照れながら言う。


「お前が一人前になった時に俺が何してるかなんてわかんねえよ」


「それでもいいんだ。

 けどジャックがそう言ってくれるなら、俺がんばれると思うんだ」


 ジャックは少しだけ考えたようだが、すぐに答えを告げる。


「よし! 1日だけだがお前は俺の弟子だ。

 わかった。

 次会った時にお前が俺についてきたいって言うんなら、

 そん時は一緒に行こう。約束だ!」


 ラキははじけるように笑顔をうかべる。


 いいのかな? そんな約束して……

 まぁ、あそこでラキの思いを受け止めないのはジャックの英雄美学に反するのだろう。


 僕らは一路ビルデガルを目指す。

ラキは初回登場時にも書いてますが、”中性的”な顔立ちをしています。

ということは……

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