第025話 「キングボア」
村に着く頃には他の子供達もすっかり笑顔を取り戻していた。
村はラキ達の説明よりもずっと大きかった。
一応の繁華街には商店も立ち並び宿もある。
そのなかでも山に面した農村部が荒らされたということだった。
良かった。
こういうことなら簡単だ。
まだ傷跡が残る広大な畑を大人たちがそれぞれに耕してるのが見える。
子供たちが乗った馬車をみると、何人かの大人たちが飛んできた。
そして、子供たちが思い思いに馬車から顔を出してブンブン手を振る。
「おっとー!おっかー!」
「あんた達どこ行ってたんだい」
ジャックがこれまでの経緯を親たちに説明する。
《パチン》
一人の女性が顔を真っ赤してラキの頬をたたいた。
「あんた、人の物を盗るのか?
誰かを傷つけて奪うのか?
それじゃ村を襲った魔獣と同じじゃないか」
「母さん、けど、俺。
このままじゃ。みんなも、母さんも」
「言い訳するな! バカ!」
《パチン》
そう叫ぶと、また平手でラキを叩く。
すぐに僕らの前に向き直って現村長であろう母親は土下座をした。
頭を地面に擦りつける。
「この度は本当に申し訳ございませんでした。
山賊の真似事なんかをしたこの子達を無事ここまで届けてくださりありがとうございます。
本当にありがとうございます」
母親はボロボロに泣きながら頭を地面に擦り付けて肩を揺らしいている。
「やめてくれよ。おばさん。
俺らは何もされてないし。
ラキだって必死に考えてやったことだ」
ジャックはすぐに母親に駆け寄って土下座をやめるように言う。
しかし母親はやめない。
感謝の気持ちを口にしながら土下座の体勢を崩さない。
ラキは拳を握りしめながら母親の後ろ姿を見ている。
ラキは十分自分の犯した罪についてはわかってるはずだ。
けど、この光景は辛いだろうな……堪らないだろうな……
母親が自分のせいで誰かに土下座しながら泣いている。
僕は心配そうにラキを見ていた。
するとラキは母親の後ろに回り自分も土下座した。
そして言う。
「本当にありがとうございました」
驚いた。
ラキは僕が考えているよりもずっと大人でずっと強い。
13歳になのに本当に立派だ。
僕も見習わないとな……
改めて大人たちに魔獣の一件を聞く。
キングボアが3匹で現れた。
討伐隊を組んで抵抗したが、ケガ人は何人もでたのに1匹も仕留めることができなかった。
死人が出るリスクを避けて早い段階で討伐も諦めたらしい。
その後、キングボアは畑を荒したい放題したらしい。
今は畑の立て直しと、繁華街で仕事を見つけられないか大人達は動いているらしい。
「僕らがキングボアを狩ってきます。
その素材を商人に売れば村を立て直せますね」
僕は村の人に提案する。
「そんな?! キングボアを狩るって三人でですか?
しかも、その素材を頂けるなんて」
「大丈夫です。魔獣を狩るのは得意なので。
その前にケガしている人を見せてもらえますか。
僕は回復魔法が使えるので治しますよ」
大人たちは理解するのに少し時間がかかったようだ。
この世界では回復魔法は主に教会関係者が使うが絶対的に数が少ない。
この規模の山間の村でも神官が回復魔法で人を治療するなんて滅多に見ないらしい。
「私たちには、ケガを治して頂いてもお返しできるものはありません」
ジャックの母親がどうしたらいいのかわからず困った顔をする。
「おばさん、気にしないでくれよ。
この高位の神官様はさ、
チビ達の勇気に心動かされてこの村を救いに来たんだよ。
そういう世直し目的の旅をしてるんだよ」
いつもの調子でジャックが割り込む。
そんな高位な神官様じゃないけど……
「まぁ、まかしといてくれよ!おばさん。
さぁ、ケガ人の元へ案内してくれ。
神官様が治療したくてウズウズしてるんだ」
「わ、わかりました……」
拍子抜けたような顔しながら、村長は僕をけが人達の所へ案内してくれた。
何人かは大ケガというレベルだったが皆初級の回復魔法で難なく治療することができた。
この世界に来て安定しない僕の魔法と闘気はだいぶコントロールできるようになっている。
特に闘気は以前と変わらないくらいにコントロール出来るようになった。
魔法の方はなかなか調整がうまく行かない。
しかし、回復魔法は出力が多少ぶれても問題がないので使用しやすい。
治療が終わると僕らはその足ですぐさま森へ向かった。
森の深くまで進み適当なところで目印に鳴るような大岩を見つける。
ここを目印にして、各人3方向に散って魔獣を探す。
そして、見つけたら口笛を鳴らして皆を呼ぶことにする。
親指と人差し指をつけて円をつくり、それを咥える様にして口笛を鳴らす。
口笛は案外大きい音がでるので、よっぽと距離が離れていないかぎり、他の仲間に自分の居場所を知らせることができる。
事前に決めておいた大岩の場所には、もし逸れてしまったら集まることを決めておくのだ。
これは、食料調達の狩りの際でも3人の中でたまにやっていたルール。
僕とベルはジャックの何倍も広い範囲で動物の気配を察知できるから、実際は2人で狩りをした方が効率が良い。
ベルが冗談交じりにその事をジャックに伝えると、ジャックは断固として自分も狩りに参加する言い張ったので3人別々に狩りをすることにしている。
斥候が隠密を使って狩りをするって所にジャックは美学を感じている様に思う。
ジャックの大好きなキプロスの英雄譚だ。
ジャックは僕らの中で一番働いている。
宿の手配や買い物、お金の管理等、ほとんどの仕事をジャックがやっている。
だから狩りぐらい任せて欲しいのだが美学に反するのだろう。
まぁ、ジャックがやりたい様にしてくれればそれでいい。
程なくして、ベルの行った方角から口笛が聞こえた。
口笛の方角めがけて進むと確かに魔獣の気配がする。
固まってはいないが確かに3匹いる。
ここいら一帯には他の魔獣の気配は感じない。
よし、居た!
キングボアだ。
一匹目の心臓を貫手でしとめる。
数十メート以内に居た2匹目が僕の存在に気付いたところで、僕は既に目前にまで迫っていた。
2匹目が体を動かす前に1匹目同じ様に心臓を一突き。
3匹目はここから少し離れたところに居たけど既に気配が消えている。
ベルが矢で仕留めたのだろう。




