第023話 「子供山賊団」
3人の馬車の旅では野営をする事もおおかった。
ベルはエルフのイメージ通り弓がとても得意で一流の狩人だ。
僕も食料調達を名乗りでたが、今では食料の調達は主にベルが担当している。
食べられる果物や根菜類やキノコ等についてもベルの方が詳しいからだ。
野営の時の料理はだいたい鍋にする。
持ち歩いている鍋を焚火にかけて、その日採れた動物の肉やキノコ、野菜類を入れてグツグツ煮込む。
これがとってもおいしい。
食事をとった後は体を休める。
その日の監視役は座って辺りに気を配る。
それ以外の2人は思い思いに横になり眠くなったら眠る。
♢
山をいくつも超えるなか追剥? 山賊にあった。
ザヌースからビルデガルへの山々には商人を狙った山賊がでるとは聞いていた。
だから高価なものを運ぶ商人は護衛として冒険者を雇って山を超えるのが常識らしい。
しかし僕らは三人で小さな荷台付きの馬車一台。
ただの冒険者の移動であり、山賊も見入りの少ない僕らをわざわざ襲わないだろうと考えていた。
初めての山賊に会ったのは2つ目の山だったろうか。
悪人面した5、6人くらいの男達だった。
「おー、お兄ちゃん達。エルフのお姉ちゃん。
金目の物を置いてお兄ちゃん達はこの場から去りな。
エルフのお姉ちゃんは俺たちと楽しいことしなきゃならないから逃げちゃ駄目だぜ」
下衆な笑み浮かべる男達。
僕たちが何かしらの応答をする前にジャックが即座に動く。
ミゾオチや首の後ろを強く叩きながらあっという間に男達全員が気絶した。
「あらあら、お強いのね。ジャック」
「へへへ。俺だって。これくらいはできるんだぜ。
お二人さんには及ばないだろうけどよ」
自虐的に笑うジャック。
「で、キョウ。
どうするこいつらは?」
「えっ、どうするって?
僕が決めるの?」
「そりゃそうだろ。
俺はお前の役にたたない斥候だし。
ベルさんもあくまで俺らの同行者だ。
おまえが決めるのが筋だろう」
ジャックはまた自虐的に言う。
「そっか…… それじゃあ。
このままにしておこう」
「こいつらの持っている物も何も拝借しないのか?
まったく甘々で困るぜ。
俺らのリーダーはよ」
そう言ってすぐさま気絶した男達を道の端に動かし始める。
ジャックは気のせいかうれしそうに見える。
横で見ているベルもうれしそうだ。
ジャックは人殺しを極端に嫌っているように見える。
仕事として殺しをしていたからかもしれない。
ザヌースの倉庫で何人もの人を殺しているジャックはとっても悲しそうだった。
それに、揉め事になってもなるべく相手を傷つけずに事を治めようとする。
もともと、人を傷つけることが嫌いなのだろう。
♢
その日の昼間、細い林道で出会った山賊達は様子がちがった。
10人くらいの山賊に囲まれた。
一番年上でも僕より明らかに年下に見える。
小さい子は10歳くらいで女の子もいる。
みんな一様に覇気がなくやつれているように見える。
子供達は震える手に武器を持っている。
ナイフが足りなかったのだろう。
何人かは木の枝をこん棒変わりに握っている。
「金目の物を置いていけ!」
リーダーなのだろうか?
一番背の高い中性的な顔立ちの少年が甲高い声で精一杯に叫ぶ。
震えながらも必死に声をだしているのがわかる。
まちがいなく初犯の盗賊だろう。
「これはほっとけねぇよな」
馬を御していたジャックは軽やかに馬車降りて子供達の前に立つ。
「どうしたおまえら?
なんでこんなことしてる?
まずは事情を聞きたい」
ジャックが子供達の前に立ち話し始める。
あれ? 僕らの行動方針は僕が決めるはずだったんじゃ……
全く僕らの斥候は甘すぎて困る。
僕とベルも荷台から降りる。
子供達から事情を聴く。
この子達は近くの村の農村部に住んでいる。
魔獣に作物を荒らされて十分に食べるものもない程困窮しているらしい。
村の周辺には数年に一度くらいバトルボアが畑を荒しに来ることがある。
その時は村の大人たちで追い払うことができていたのだという。
しかし、今年はキングボア3匹が畑に一度に現れた。
大人達でも対処することができずに好き勝手に畑を荒されケガ人も何人もでたらしい。
キングボアはバトルボアの1.5倍くらいの大きさのイノシシだ。
確かにバトルボアより動きも早く攻撃力もあるけど、僕の故郷の森のイノシシに比べれば子供みたいなものだ。
ジャックはちらっと僕の方を確認する様に見た。
ティグハートには早く行きたいけど、この子達を放っておくことはできないな。
「うん」
小さく頷いた僕を確認すると、ジャックは子供達に笑いかける。
「そっか。そういうことなら、もう大丈夫だ。
このお兄さんとエルフのお姉さんが助けてくれる。
村まで案内してくれよ」
ジャックの提案に少しおどろいた様子のリーダーの少年は僕らを信用していいのか迷っている様だった。
リーダーの少年はジャックの真剣な顔を見て信用できると思ったのだろう。
「わかった。お願いします」
はっきりと少年は答えた。




