第021話 「何が正しいかは分からない」
キヌガ大森林の章の一番の見せ場です!
6人目の男は洗いざらい教えてくれた。
ジャックと父親はビッケゾンと協力しキヌガ大森林のなかで秘密裏の殺しの仕事をしていた。
それに加えジャック親子はウルム周辺での奴隷の密猟者も始末していたらしい。
それが気にくわないビルデガルの貴族がジャックの父親の殺しを依頼したのだそうだ。
表向きは運送・運搬を生業としている傭兵団体のボス。
つまりあの倉庫のボスがジャックの父親の暗殺を引き受けた。
ジャックの父親と倉庫のボスは昔からの馴染みであり仲間だった。
それを裏切ってジャックの父親を騙し討ちにして殺したというのだ。
ジャックの父親の死は綿密に計画され事故死ということで落ち着いたはずだった。
しかし、どこから漏れたかわからないがジャックは真実を突き止めこの倉庫までたどり着いた。
途中からは聞いてもないのに、スラスラと喋り出した。
鬼気迫る雰囲気から察するに嘘ではないのだろうと思う。
僕は悩んだ。
何をすればいいのか。
これからどう動けばいいのか。
《ドサッ》
男は静かに倒れる。
僕は倉庫の方に戻る。
途中倉庫から逃げて来たであろう男達を二人が目に入った。
念のため見える範囲で1番高い木の頂上へ登って、他に倉庫から逃げた人間を探す。
うん。二人だけのようだ。
木を飛び移って二人を追って、飛び降りた勢いで始末する。
6人目と同じように、闘気を通した2本指を2人の心臓に突き刺した。
《ドサ、ドサ》
二人が倒れる。
弱い。
僕の故郷のどの魔獣よりも動きが遅い。
けど、『人間』だ。
『人間』の心臓を破壊した。
僕は『人殺し』なんだ。
とりあえずは考えないようにしながら急いで倉庫の中に入る。
どうしても心臓が早く脈打つ。
気配をうまく消せない。
奥の部屋へ向かう中、15人くらいは倒れていたと思う。
到着するとジャックが返り血で顔を真っ赤にしながら、男に馬乗りになる形で座っていた。
滅多刺しにしたであらうボスの顔は原形を留めていない。
気配がうまく隠せない僕が部屋のドアに着くとすぐにこちらにきづき驚いた顔をした。
「お、おまえ」
状況を把握したジャックはがっかりしたような顔をした。
「……キョウ。
お前は本当にとんでもないやつなんだな。
寝たふりで俺を騙せるし、俺に気付かれずにここまで尾行することができる」
ジャックは落ち着いている様に見える
「おまえがすげぇやつなんだろうなってのはわかってた。
けど、隠密の部分ですら俺はお前に敵わねぇとはな」
「そ、そんな事ないよ」
僕はなんとなく謙遜してしまう。
「まぁ、いいさ。隠してたのはお互い様だ。
俺は見ての通りの大悪党の殺し屋だ。
それで、ドジ踏んでこいつらの仲間を何人か逃がしちまった」
ジャックは自虐的に苦笑いを浮かべる。
「こういう組織ってのはな。
内部での粛清を徹底的にやるんだ。
これから俺はとことんこいつらに狙われる事になる。
だから直ぐにウルムに戻っておふくろとサラを連れて身を隠す」
一旦、間をとって本当に申し訳そうな顔をする。
「おまえとは一緒には行けなくなった。
馬車と道案内の奴くらいは手配してやるから、本当かんべんしてくれよな」
ジャックは僕から目をそらす。
「ジャックに追手は来ないよ。
誰もこの建物からは逃げてない」
撲は体の震えがおさまらない。
「……」
ジャックは僕の言っている意味を理解するのに少し時間がかかった。
「まさかおまえ、あいつら殺したのか?」
「うん」
「全員か?」
「うん、間違いないよ」
ジャックはガバッと立ち上がってこちらにむかってくると僕の胸ぐらを掴みあげる。
「頼んでねぇだろ! そんなこと!!」
ジャックは血だらけではっきりわからないが泣いているようにみえる。
顔を近づけてくる。
「お前、人なんか殺したことねぇだろうが!
俺なんかのために、おまえが人殺しなんてしなくていいんだよ!!」
震えてる僕をみてジャックは悟ったのだろうか。
もしくは表情にだいぶ出ていたのだろうか。
「おまえはこんな汚い世界にこなくていいんだ!」
ジャックは叫ぶ。
「ジャックは僕を助けてくれーー」
「おまえが助けたんだろうが!!!」
僕の声を遮るようにしてジャックが叫ぶ。
「おまえが妹を助けて、
お袋の命を救って、
今度は俺を助けてくれたんだろうが!
人殺しまでしてよ……」
僕はしばらく何も言えなった。
「わからないよ。
確かに僕は人殺しをした事がない。
ジャックが今までしてきた事も、お父さんの敵討ちも正しいのかわからないよ」
僕は正直に今の気持ちを伝える。
「けどね、ジャックにはさ。
いつもみたいに笑って冗談言ってて欲しいんだよ。
色々わかんないけど、その気持ちだけは間違いないって思えたんだ。
だからそれを最優先に考えて行動したんだ」
「な、なんだよ。それ。
おまえは、おまえって奴はよ。ヒック」
ジャックが本格的にヒックヒック言って泣き出した。
僕もそれを見てたら、なんか抑えられなくなって涙が溢れ出てくる。
声をあげて泣く。
「うわぁ〜〜ん」
「お、おまえがなんで泣いてんだよ?」
「だっってぇ〜、だってぇジャックが泣くから〜〜」
しばらく涙が止まりそうにない。
大泣きしてる僕を見てジャックは冷静さを取り戻したのか、ひとまず倉庫の水場で血を洗い流して直ぐに外へ出た。
♢
林道を抜けてそろそろ繁華街に着きそうだと言うところで、ずっと僕を着けてきていた人物が接触してきた。
「ずいぶんな格好ね」
先日酒場であったエルフのベルだ
衣服に着いた血は完全には落ちていない。
見る人が見れば事情を察せる程だろう。
「おっ、酒場であったお姉さんじゃないか。
ちょっと悪いけど俺たち今急いでてな。
悪いけど、また今度にしてくれよな」
ジャックは一旦ベルに顔を向けたが直ぐに向き直し宿へ急ぐ。
「あらあら、あんなに泣いてた坊や達はもう泣き止んだみたいね」
明らかにジャックの雰囲気がかわり足を止める。
腰に刺したナイフに手が行くのがわかる。
「キョウ君は気づいてたみたいだけどね」
ジャックが目を細めて僕を睨む。
僕は目を逸らす。
「あーあー、わかったよ。
あんたも、とんでもないやつなんだろうな。
俺、一応斥候なんだけどな。
こんなに簡単に何人にも着けられちゃ
斥候形無しだよ、まったく」
ジャックは諦めたようだ
「で、なんのようなんだ?
そんなすごいエルフ様がよ?」
「あなた達、これから直ぐに街をでるんでしょ。
私も連れていってくれない?」
「はー? いきなりなんでだよ?
別にキョウのこと知ってるってわけじゃないんだろ?」
「知らないわ。けどあなた達に興味がわいたの。
別にあなた達の邪魔をする気はない。
なにか困ったことがあったら力を貸すわよ。
悪い話じゃないと思うけど」
ジャックは伺うように僕を見る。
「ぼ、撲は問題ないと思うよ。
ベルが助けてくれるって言うなら心強いと思う」
尾行のスキルだけ見ても、ベルは相当にできる。
「ああー、そっか。
まぁ、何れにしてもあんたには倉庫での事みられてるようだからこのままはほっとけない。
俺たちはビルデガルを抜けてティグハートを目指すが問題ないか?」
「えぇ。ちょうどいいわ。
私もちょうどティグハートに行きたいと思っていたところだし」
僕らは一旦宿に戻り準備をし、外が少し明るんできたらすぐに宿を出た。
ジャックは本当に知り合いに荷台の手配はしていたらしい。
馬を預けた馬装には新しい荷台がおいてあった。
今までは馬に荷台をひかせているという感じだったけど、今度はちゃんと人が座れる部分が付いていて屋根もある。
僕のイメージ通りの馬車になった。
まだ寝ていた馬小屋の管理人を起こして新しい荷台を取り付ける。
北の入り口近くで待っていたベルを拾ってザヌースの街を出た。
ビルデガルを目指して。
正しさに答えはあるのか?!
次話からは新章です!




