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第019話 「ザヌースの街」

 ザヌースの町はとても活気があった。


 森を切り開いて作った街中の道は舗装されておらず、踏み固められたままの土の道に露店がひしめきあい人で溢れている。


 露店が並ぶ道をはずれると民家が並ぶが、建物の作りはウルムの村と大差がない。


 けど数が全然違う。

 さすがキヌガ大森林の首都なのだろう。


 人間も多いが色んな民族が入り乱れ、ドワーフやエルフ、見たことない民族もよく見かける。


 思い思いのボディペイントをしている民族が多い。


 そのなかでもひときわ目立つ民族がこの都市の連合国代表。


 巨人族【ビッケゾン】クランの面々だ。


 創生の8クランのひとつ。


 勇者ティグハートの大陸統一の際には、巨人族の屈強な戦士としてパーティに貢献していたとされる。


 目の下の赤い色のペイントが印象的なのもあるが、3メートル程の長身で髭は生やさずに長髪だ。


 警備のため槍を持って街中を巡回している。


 ウルムのキプロス家とは、ずっと昔から付き合いがあるらしい。


 ジャックも、現在のビッケゾンクランの族長、つまりキヌガ大森林の代表とは面識があるらしい。


 昼過ぎに着いた僕らはまずは宿をとって荷物を置く。


 その後、ジャックが社会見学だと言って屋台や売り物について説明してくれた。

 僕の前世のイメージだと東南アジアの街のような感じだった。


 夕方頃には酒場兼食堂のような場所で食事をとることにした。


 店内では10以上のテーブルが並び、それを囲みながらエールを片手に多様な民族がワイワイやっている。


 そこらかしこで笑い声や怒号が聞こえる。

 ハキハキした獣人の女性が給仕をしている。


 ジャックのオススメだと言う料理とエールを二つ頼む。


「ここいらで言ったら15歳は成人だ。

 エールくらい飲まなくてどうするんだよ?!」


 要はビールのようなものだろう。

 すこし飲んでみようと、口を近づけると


「おいおい、まずは乾杯だろ!

 そうだな、キョウは、これが最初のエールなんだろ?

 じゃぁ、キョウの初めてのエールに乾杯だ。ほら、コップもてよ!」


「う、うん」「かんぱーい」


≪ガゴン≫


 僕は控えめに、ジャックは豪快に互いのジョッキをぶつける。


 ジャックが派手にぶつけるもんだからエールがジョッキから溢れる。

 急いで口に持っていく。


「にがっ」


 ジャックは笑っている。

 味わったことのない苦さ、何がおいしいのかまったくわからない。


 まぁ、シュワシュワが喉に入ってくのは嫌いじゃないかもしれない。


 ジャックの話を聞きながら少ししょっぱいくらいの味付けの食事をつまむ。


 僕が一杯目をチビチビやってると、ジャックはグビグビと飲んで気付けば三杯目だ。


「本当にうまぇな。酒はよ。

 ほら、キョウもドンドン飲めよ」


 僕が苦笑いでジャックに答えていると近くのテーブルが聞こえてくる。


「あぁーん、ねーちゃん!

 もう一回いってみろよー!」


 酔っ払いのおじさんが怒鳴る。


「だから、あなたみたいな汚いハゲたおっさんに酌をするつもりないって言ったのよ」


 長い金髪のエルフの女性が応える。


 どうやら、汚いハゲたおじさんが酔っ払ってエルフの女性に酌をしろと管を巻いているらしい。


 僕の酒場のイメージでは、定番イベントな気はする。


 酔っ払いが女性に絡むのは定番だとして、ハゲて汚いおじさんにたいして、ハゲていて汚いことをハッキリと伝えるのは普通なのだろうか。


 エルフ族はみんなこうなのかな。


 いよいよおじさんがエルフに手をあげようかとした時に、ジャックが割って入る。


「おいおい、おじさん。

 まさか女性に手あげるなんてしねぇよな。

 喧嘩なら男同士が基本だろ」


「なんだぁ、ガキ? ヒーロー気取りか?」


 ジャックが割って入った事でエルフも僕らに気づく。

 エルフは僕を見てとても不思議そうな顔をした。


「きみ、どこから来たの?

 ここで何してるの?」


「えっ?」


 突然の接触に僕が驚いていると


「おい、おんなー、てめーなに無視してんだよ!

 なめてんのか?」


 おじさんはジャックを押しのけて、エルフへ飛びかかろうする。


 ジャックは押し飛ばそうとするおじさんの手首を掴むと、クイッとひねって、おじさんをうつ伏せに倒した。


 手首で関節技を決められたおじさんは立ち上がれない。


「どうする?

 ここで引くなら酒場のちょっとした喧嘩で終わりだ。

 けど、続けるっていうんなら、この手は二度と使えなくなるぜ」


 ジャックは関節を強く締めあげる


「いた、痛い。ひくよ。もう出てくよ。

 そもそも冗談だったんだ。

 勘弁してくれよ。兄ちゃん」


 実力差がわかったのか、酔っ払いのおじさんは一気に低姿勢になる。

 痛みで酔いが覚めたのかもしれない。


 ジャックが手を離すと、そそくさと店から出ていった。


 いつのまには周りには人だかりができていた。


 ちょっとした喧嘩も酒場の人間にはいいつまみなのかもしれない。

 残念そうに見える顔をしながら、野次馬達がそれぞれの席に帰ってくいく。

 喧騒はすぐに元通りだ。


「おい、ジャック? 久しぶりじゃねぇかよ。

 ちょうどお前探してだんだよ。ちょっといいか?」


 ジャックは、僕に少し待つよう言い残すと突然声をかけて来たその男と外に出て行った。


「ねぇ、どうしたの?

 教えてえてよ。、あなたはどこから来たの?」


 そういえば、エルフとの会話が途中だった。

 なんで、このエルフがいきなりぼくに興味をもったかはわからないが、おいそれと本当のことを喋るわけにはいかない。


「ちょっと色々あって教会から出て来て、今は旅をしてるんだ」


 ジャックの勘違いしている設定を突き通して見る。


 すこし間を置いて、


「あー、そう。まぁいいわ。

 色々事情があるようね。あたしはベル。あなたは?」


「僕はキョウ、さっきあなたを助けたジャックと2人で旅をしている」


「じゃぁ、君達は情報屋を使って旅をしてるんだ?」


「情報屋?」


 僕はベルの言っていることを理解するのに少し時間がかかった。


「え? あなたは知らないの?

 さっきお友達と連れ立ってでていったのは情報屋よ。

 しかも、旅人なんて絶対に相手にしないタイプのこの街でも一番高い情報を扱う情報屋」


 ベルが言い終わる頃にジャックがこちらに帰ってくるのが見えた。


「あなたはちょっと変わってるようだから、悪い人達に目をつけられた大変よ。

 気をつけることね」


 ベルはジャックの方へ歩いてゆき、助けてくれたお礼を言って去っていく。


「あのエルフのお姉ちゃんなんだって? 娼婦かなんかか?」


「い、いや、特にそんなことは言ってなかったよ」


 娼婦って言葉に僕はすこし狼狽えながらも、ジャックに聞き返す。


「ジャックは?昔の知り合いの人?なんかあった?」


「あー、あいつは昔からの知り合いでよ。

 いい荷台が手に入りそうなんだ。

 あいつと俺の昔の伝手で。

 でな、ちょっと他とも交渉しなくちゃいけないから、荷台用意するのに少しかかりそうなんだ」


 僕は少しでも早くティグハートへ着くことを希望していたので、ジャックが時間がかかる事を気にかけてくれたのだろう。


「僕は全然問題ないよ。色々ありがとう」


それから酒場で少しだけ喋って、僕らは宿に戻った。

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