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第001話「プロローグ」

 目を開けると、サルが僕を覗き込んでいた。


「うわぁ~~」


 驚いて大声を上げたつもりだけど声が出ていない。


 体も思うように動かない。


 こんな近くでサルを見たことはもちろんない。怖い。


 なに? サル? オランウータン?

 なんで?


 しばらく大声を上げながら暴れていたと思う。

 やっぱり体も声も思うようにならない。


 割と早い段階で諦めて動くのやめた。


 その間サルがずっと僕を覗き込んでいる。

 状況がつかめない。


 僕はキョウ。

 昨日中学校を卒業して今日は新生活に向けて引っ越しをするはずだった。


 これまでの記憶を辿ってみよう。






 

 僕が6歳の時に両親揃って交通事故で亡くなった。


 僕はその時のことを覚えていないし両親の記憶もほとんどないーー正確にいえば全くない。


 生前の両親との写真をみた時に『こんなことがあったかもしれない』と無理やり思い込む事ができるくらいだ。


 もう6歳になっていたのだから、もう少し記憶がはっきりしていても良いはずだけど……


 事故の前のよく泣きよく笑う表情豊かな子供だったらしい。


 けど両親がなくなってからの僕は【能面(のうめん)】という仮面をつけて、その仮面が外れなくなってしまったらしい。


 親戚達が話し合った結果、父親の兄夫妻が悲劇の子を引き取ることになった。


 義父は会社を経営していたので裕福だった。

 それも理由の一つなのだろう。

 

 記憶がはっきりしてくるのはこの義家族との生活からだ。


 義父母の家族には2つ年上の義兄がいて、明るく活発でアウトドアな少年だった。


 それに対して、僕は暇があれば家で本を読んでいる様なインドアな子供だ。


 一緒に暮らし始めた当初、実の両親を亡くした僕を元気づけようと兄は僕を外に連れ出して近所の子供達とよく遊んだ。


 近所の誰が言い出したのかは覚えていないが、僕は【能面(のうめん)】と呼ばれるようになった。


 表情のない僕をからかったのだろう。


 子供時代にありがちな単純でひねりのないおもしろくないあだ名。


 義兄はからかう子供達を注意してくれていた様に思う。


 けどそれから何回か外で遊んだ帰り道、義兄は呟くように言った。


「キョウは無理してるんじゃないか?

 本読んでる方が好きだもんな」


「そんなことないよ」

 正直に答えたつもりだった。


 僕は外で遊ぶことが好きではないにしろ、皆で遊ぶこと自体は嫌いではなかったし僕自身はそれなりに楽しんでいたつもりだった。


 しかし、その日以来義兄は僕を外へ誘う事はしなくなった。


 そして僕は家で本を読む時間が増えた。

 それは嫌じゃなかったーー強がりじゃないはずだ。

 

 食事をしている時に義父母はよく声をかけてくれた。


 僕は精一杯に受け答えしているつもりだったけど、どうしても楽しくなさそうに見えるみたいだった。


 それでも義父母は、新しい家族に馴染む為には時間が必要だと考えてくれたらしい。

 

 辛抱強く僕を気にかけ、話しかけてくれる生活は一年以上続いたと思う。


 そんなある日、小学校へ上がると同時にTV付きの自分の部屋をもらっていた僕に義母は申し訳なさそうに笑いながら提案した。


「キョウ君、今日からは自分の部屋で食べてみたら?

 キョウ君もゆっくり自分のお部屋でお食事できたほうがいいでしょ?」

 

 あの義母の顔は今でも何故か記憶に残っている。


 僕がいると楽しい食卓もどうしても変な感じになっていたのだと思う。


 その日以来、二階の自分の部屋にお盆で夕食をもって行って1人で食事をするようになった。


 学校ではいじめられたりはしなかった。

 僕は同学年の中で背が低くもやしっ子だった。


 加えて【能面(のうめん)】といういじめっ子達が好きそうなあだ名も持っている。

 悪目立ちしてしまうのだと思う。


 からかってきたり、いきなり押されて転ばされたりする事が何度かあった。


 しかしそれはイジメには発展しない。


 何故ならイジメっ子が必ず飽きてしまうから。

 僕はいくらからかっても絶対に泣かないし怒りもしない。

 

 イジメっ子達もすぐに僕に興味がなくなってしまうのだ。


能面(のうめん)】というあだ名は不思議と周りに定着していた。

 いじめっ子じゃない周りの子達もみんな特別に悪意なく【能面(のうめん)】と呼んだ。

 

 別にどう呼ばれようが僕は気にならなかったけど……


 TVの特集だったと思う。

『地球の裏側にあるアマゾンでは未だに原始時代と変わらず森で生活している民族がいる』というのだ。


 現代日本からは想像も出来ない様な世界が存在する。

 何故かこれには強い衝撃を受けたのを覚えている。


 自分の知らない世界に実際に行ってみたいという気持ちはすごくあったようには思う。


 そして僕は昨日中学校を卒業した。


 進学する気のなかった僕は義父母の家を出て働くつもりだった。


 既に引っ越し先も就職先も決まり、明日からは新生活が始まるはずだった。


 長い間過ごした僕の部屋、ベットで最後の夜。


 何かが変わる気がして、落ち着かなくていつもより寝付きがわるかったのを覚えている。







 目が覚めるとサルが僕を覗き込んでいた。


 確かに何かは変わっている。

 

 けどなんでサルなんだ?

 オランウータンな気もするーーまぁ、とりあえずサルでいいか。

 

 今までにサルと何か縁あったかな?

そんなに義家族も悪くないのです。

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