試練発動
ガブリエルブレインには空間を残留があったと、クエスは語る。そして、かつては世界を破滅させる程の力を持っていたと……
「ほー気に入ったか。それはよかったなー、まく朗ちゃん」
クエスは、サクッと表情をやわらげた。一瞬でムードを変えるとは癒し系恐るべし。
「それで、ガブリエルブレインさんはどこにあるんですか?」
「まー、それはさすがにすぐには教えられんなー。いくら天下のジャンヌ様一行でも、まだついさっきさっき会うたばっかりやからね」
「そうでしたね~初対面の人のおうちで用を足しただけでも親切なわけですし。いきなりともだちぬこは無理ですすよね~」
まるでスルメを見つけたマンチカンのようなクリッとした目でクエスを見るまく朗。おねだり感が半端ないが、そこにあざとさをまったく感じさせないのが不思議と言うべきか流石と言うべきか。
「まー、悪いやつと疑ってはいないんやが……うん、そやな、ひとつ試させてもらうとするか」
「わー、試練ですね!」
「そや。あんたとジャンヌ様が、ガブリエルブレインに相応しい信用出来る存在かを見させてもらう……もし、それが達成できれば」
「できれば?」
「お望み通り、ガブリエルブレインをあんたらに渡したげるよ」
こうもあっさり渡すとの言葉を聞くとは思わなかった。何か裏があるのか無いのかは分からないが。現状他に手段はないので、申し出を受ける以外選択肢はあるまい。
「では、我々はどうすれば良いと?」
「金を稼げ」
「は?」
「今から700万円稼ぐんや」
おいおいおい。
予想外の要求が来たぞ。しかも、何か生々しい金額だし。
「うわー! 高額すぎてまたチビりそうです! 私、ビンボーなので無理ですチビりそうです」
「安心せえ、稼ぎ先はこっちで何とかするから」
「まさか、いかがわしい夜のお店で働かされるんですか? 893のおじさんのお世話とか、無理です~」
「いやいや、そんな事はさせんよ。私のプロジェクトに参加協力してもらうだけや」
「それは、何だ?」
私が腰に手を当て訝しげにすると、クエスは胸元でパンと手のひらを合わせた。
「この柳ケ瀬を活性化するための町おこし一大プロジェクト……名付けて」
「……」
「≪柳ケ瀬ゲンキゲンキ大作戦≫や!!」
……ああ……何と言うか……ネーミングが絶妙な具合にダサくて仕方がない。それを元気一杯に言い放ったから、なおのさら心苦しく、こちらが申し訳なってなるレベルだ……本当にすまない謝罪する……それ対し、まく朗の奴は目を輝かせマンチカン度が上昇し乗り気のようである。
「うわーなんか面白そうです! お通じがよくなりそうな響きです!」
「やろ? あんたらも手伝ってくれたら、きっと盛り上ると思うんよ! 700万なんて、ちょろいもんや!」
「やりましょう、ジャンヌ様!」
どう考えてもちょろくない額だと思うが、2人ともノリノリで、私だけテンションが置いていかれている。まあ、どうやら悪いことをするわけではなさそうなので、よしとするか。
「わかった。何なのかは知らないが、手伝うとしよう」
「よっしゃ! じゃあ、あんたらしばらくここで寝泊まりせい。部屋は用意してやるし」
「え?」
「遠くから来とるわけやし、通いは大変やろ?」
「まあ、そうだが……」
わーい、お泊まりですとまく朗みたいに素直には喜べない。あまり他人のうちに泊まるのは好きではないからだ。ネットも使えないし、ゲームもできないのはかなり苦痛である。
「なんや、ジャンヌ様は学校でもあるのか?」
「いや……」ニートです。とは言いにくい。
「じゃ、遠慮せんと泊まってけ」
「む……あ、よく考えたら携帯の充電ができないでわないか」
「あ、そう言えばそうやな! じゃ、遠いかもしれんけど、毎日ここ来てな」
「わかった」
こうして、ガブリエルブレインを手にするため柳ケ瀬に通うおかしな毎日が始まったのであった。
それにしても、話を遮られたが、過去にガブリエルブレインを巡ってどれだけの事があったのだろうか。
クエスは「失うものがあった」と言った。
一体それは、何だったのか。
それは、その日家に帰っていくらインターネットで調べても、決して解ることは何もなかった……
第一章はここまでになります。
柳ケ瀬の歴史資料は県立図書館に行くくらいしないと、詳細はわからないかも……