特異点再び旅路を得る
893の黒幕は、やっぱりただものではなかったのであった。しかも元ゲームクリエイターだったとかすごくマルチなひとでもあった……何だか頭悪い言い回しですいません……
「全て終わったはずだ。あれは、使命を終えて眠っている。それをまた目覚めさせるつもりだと言うのか?」
「ウチもそう思ってました」クエスが肯定する。
「また必要とされるなんて思わなかった。けど、何かよもやまな事情があるみたいです」
「それは、お聞かせ願いたいな……その、名も知らぬ少女よ」
机に両肘を付き、手を組み、まるで新世紀使徒撃退組織の長のようなポーズになって、男は私に事情を聞く。とりあえず、ガブリエルブレインの事を知っているし、おそらく前にクエスが言っていた柳ケ瀬での過去の出来事に関係している。しかも、聖剣を持った私の普通ならざる状態を見ても一切動じる事のないところも踏まえれば、こちらの事情を飲みこめる可能性は高い。なので、私は、きちんと、我々の目的の詳細を男に話した。
「……そう言うわけで隠された神を探す為に必要となるらしいのです」
「大須に棲む竜神から聞いたと言うのか……なるほど、君がジャンヌダルクの生まれ変わりであるだけでもただならないが、まだ世界を蠢く反生命因子があったか」
「この話、信じるのですか?」
「その望みがあったから話したのだろう? 安心したまえ、こちらはそういうものに慣れているんでね」
「まだ、こちらも解らないことが多いですが。ジル・ド・レイの話が本当なら、あまり悠長な事もし難いです」
「それはまた、世界の破滅でもかかっているような言い方だね」
「……実際に、係っています。奴の話が本当の話なら、ですが」
「確信はしていない。しかし、本当であった場合を考えると放置する事は出来ないと言うわけだな」
「……はい」
恐ろしく理解りが早い。間違いなく、この男は同じような状況を知り、関わったのだろう。戦時でも無いこの時代の中で早急かつ賢明な判断を必要とするような事態に、身近に、何度も直面したのではなかろうか。
「よろしい……クエス、良かったな」
「親父さん?」
「お前は、遂にその呪縛から放たれるときが来たのだ」
「それは、つまり」
「ガブリエルブレインを渡してあげなさい」
「えっ!?」
700万円貯めたら渡すと軽く言っていたわりに、他人から促されると驚くクエス。
「ジャンヌ=ダルクの負う使命、<エメラルド・レイド>に匹敵する事項かもしれん。放置はできまい」
「本当に、良いんですか!?」
「わざわざクエスを助けに来てくれたんだ。それに、あの少年と四月に似た目をしている。信用に足ると思うがね」
「たしかに、そうやけど……」
少年? ヨヅキ? 誰なのだろう。おそらくは、過去に柳ケ瀬で起こった一大事件に関係していそうだが。
「お前のパチンコの借金もチャラにする。それでも、まだ迷うか」
「い、いや、わかりました渡します!」
借金が無くなると言う条件のところで、クエスは納得した。まあ、もともと700万円の使い途はそこだったのだから結果的に目標達成と言うわけか。
「……信用くださり、ありがとうございます」
私が礼の言葉を告げると、男は椅子をグルリと回して立ちあがり、大きな窓の側から外を眺めた。
「君達のような子が、クエスの側にいてくれてよかったよ」
「……」
「この子は、過去の事件で数少ない大切なものをすべて失った。彼女の唯一の家族であった祖父、私のひとり娘であった四月、勇気ある少年。みな、クエスの側からいなくなってしまった」
「あなたの……娘もいなくなった……?」
「そうさ。ワガママなところはあったが、優しくて頭の良い子だった。正義感の強い子で、最後までそれを貫いたんだ」
「……」
「少年とあの子がいたから、今がある。柳ケ瀬がある。それだけの事をしたのだから、父として誇りに思っているよ」
その言葉の中には寂しさが滲んでいた。
例え鋼の精神をもっている人間でも、大切な愛娘を失ったのならば、なにも感じないはずはあるまい。
「君達、どこまで聞いたかは知らないが、ガブリエルブレインは高い運命力を秘めている。あの柳ケ瀬を何度も離れたが、不思議な引き合わせで戻ってきた。今は、その力は眠っているはずだが、しかし、油断はできない。くれぐれも慎重に扱ってくれ」
「はい」
「そう言うことだ、クエス。案内してあげなさい」
「親父さん……」
「これからは、あまり自分を傷付けるような事をするな。岐中のじい様や四月がそんな姿を見たら、悲しむぞ」
「ごめんなさい……迷惑かけて……」
「寂しかったんだろう。寂しかったから、自暴自棄になって無茶をした」
「……みんな、いなくなってしまった……! じいじも、四月も、あの人も……ウチは、引き止めることができんかった……!」
クエスの方を見ると、彼女は悔しさと寂しさが入り交じったような顔で、涙を流していた。あの人とは「少年」と呼ばれる誰かの事だろうか。おそらくは、非常に親密な関係にあったのだろう
。
「お前のせいではない。あれは、時が運命たもの」
「けど……!」
「それに、あの少年お前はあえて引き留めなかったのだろう?」
「……」
「少年の未来のためを思って、お前は自分の存在が彼の障害になると思って身を引いた」
離れたくなかった。しかし、送り出した。
それは、とても辛かったことだろう。それを知る漆原の長は、そこで追及を切り、私達に語りかける。
「……君達、これからもクエスと友達でいてやってくれ。この子は、とても寂しがり屋なんだ」
「……わかりました」
「頼むぞ…………では、行きたまえ。君達の大務が果たされることを期待している」
「はい」
クエスと共に場を去り行く私の背中に、男の眼光は向けられていた。感覚でわかるほどに、それは力強いものだった。




