聖識者の日誌(199×年×月××日)
良かった。
あの子と出会うことができて、本当に良かった。
あの子は「CueL」でなく「CueS」であってくれて。
人間であってくれて、本当に、これほど嬉しい事はない。
あの子の、笑顔も泣き顔も怒り顔も、そのすべてが今は愛おしい。
これも、漆原の者をはじめ支えてくれた周囲のおかげと言って良い。特に四月ちゃんは、とても優しくていい子だ。まるで、姉妹のように、あの子の面倒をみてくれている。今日、二人が公園で無邪気に遊ぶ様子を見ていた時、あの時が、私は人生において最高の瞬間であった。これまで冒してきた大罪が、まるで全て洗い流されるかのような至福の光景が目の前に広がったのだ。まさか、この老いぼれにここに来て生の喜びを与えてくれたるとは、クエスとのこの十年間の日々を与えてくださった事にしても、この寛大なる慈悲に対し、御神様にはいくら感謝してもし尽くせそうなはにない。
おそらく、この幸福は束の間であるだろう。あの子といられる時間はもう僅かしかない。だが、それで良い。すでに、ここまでのご厚意は、この老いぼれに過ぎたるもの。これ以上私に私の贅沢はない。これからの幸せは、クエスが得るべきものなのだ。故に、そのために、私は、生あるうちに使命を果たさねばならない。
クエスに私の罪を、重責を引き継がせたくないのだ。あの子には普通の人間として生きてほしい。これからの幸せで平穏な日々のために、あの子の太陽のような笑顔を奪わぬために、私は戦う。この老体非力、死力を尽くして、世界の運命握る柳ヶ瀬の因果を、何としてでも、我が代で、断ち切らねばならぬのだ。残念ながら省三殿は先立たれてしまったが、有能な彼の息子は全力で協力してくれている。見つけ出せる可能性は潰えてはいない。
御神様、どうか、どうか、もう暫しの猶予をお許しください。
この不束者の我儘を、どうか、お聞き届けください。




