表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/30

吉本

金稼ぎに精を出すジャンヌ。

無駄足も踏み目標額には届く気がしない。ただ、クエスの顔の広さだけはどんどん理解してゆくのだった。


「いやー、今日も働いたなあ」


クエスは、グーッと背を伸ばしながら歩く。柳ケ瀬から少し離れたところにある梅林公園の茶屋で、みたらし団子を焼くのはそれなりに大変だったはずなのだが、こやつは疲れた様子も無い。一緒に手伝った私は歩くのもしんどいと言うのに。しかし、修道女が団子を焼く姿はなかなかのシュールさを醸し出していた。それがあってか並々ならぬ美人が3人もいたからかはたまた単純に日曜日だからか、売れ行きはそこそこ好調で、今日一日で二万円の収入を得た。新品ゲームソフト数本分と考えるとなかなか旨い仕事と言える。


ただ、700万円を稼ぐと言うのはかなり気が遠いままだ。現世の父は毎日会社勤めでこれくらいは稼いでいるだろうが、改めて感心の念を抱いた。しかも、その収入の一部は、私の主にオタク的な出費で溶かされる。うむ、実に申し訳ない。


「お団子もごちそうになりましたし。何だか得した気分ですねー」


「せやろまく朗ちゃん。やっば働くってのは良いことなんよ。一見すれば単調でしょーもないことでもちゃーんと意味はあるんや。」


「そうなんですか? 立ちチビリしたり粉ミルクを毎日飲んだりするのも無駄じゃないんですか?」


「それ働くのと違うと思うんやけど。でも、意味はある。どんなことにでも、な。意味が無くなるんは、自分が意味がないと決めつけたときだけや」


深いような深くないような話だ。

この巨乳はニヒの森を抜けた超人なのか、はたまた口先三寸の修道女もどきなのか。もっとも、ガブリエルブレインを知る時点で後者である可能性はかなり低いと思われるが。


「げえっ!?」


その時急に、クエスが三国志随一の知を誇る魏の名軍師のような驚き方をした。何かと思い、視線の先をみると、二人の男が横断歩道を渡っていた。一人は背が高く鷲鼻の上にサングラスをかけたスーツの男。もう一人はだるまのような肉付きをした眉毛の無い一重まぶたの目から殺気が満ち満ちる丸刈りで肩に鬼の刺青が入ったアロハシャツにパンパンになった虎のTシャツを着こなす男。共通して言えることは、完全に反社会的勢力の人だということである。


「うわーよしもとに出てきそうな、絵に描いたような893いますよー」


まく朗も気付き、ひそひそと言う。聞こえたらまずいのはわかっているのだろう。その辺はただの天然ではない。ちゃんと空気を読んだ。


ギロリ!


しかし、その二人は凄まじい地獄耳なのか、こちらに気付き、睨み付けると近づいてきた。実にヤバい。久々に戦場を思い出す程の危機感が私を襲う。


「逃げるで!」


「えっ!?」


「とりあえず、自⚫書房ん中に入るで!」


クエスは、ヤクザから距離をとろうと促す。しかし、走ってくるヤクザのスピードは早く、フラガラック無しの普通の女の子である私では振り切れない。と、言うか真っ先にクエスがンギャっと言う声でつまづいて転んでしまった。


「うわー、ピンチですねー」


と、まく朗は恐れるどころかむしろ喜んでいるように見える。まあ、この前ドラゴンと出会ってる人間だからそんなものなのだろうか。私はすぐに逃げるのをやめ、踵を返した。


「おやあ? わてらから逃げへんのかぁ!?」


太ましく柄の悪い男は、首を傾けて、ドスの利いた声で凄んできた。私は、それにたじろぐ事もなく、男を見た。私もこの前ドラゴンと戦ったし。フランスにはもっと恐ろしい輩がたくさんいたのでこの程度で恐れるには足らない。むしろ残酷な子供の方がよほど怖かろう。


「ははは! お嬢ちゃんらなかなか勇ましいのお!」


「……」


「どこぞのアホんだらとは偉い違いやで」


と言って、男はヘヘヘと邪悪さむきだしにして笑ったが、背の高い悪魔じみた男が、その男の肩をがっしりとした腕で掴む。かなり握力がありそうで、男の肉がギュウと絞られた。


「トクジ。この子んらに手ぇだすなや」


「いデェ! わ、わかっとるがな、アニキ!」


「ワシらが用があるんは、そっちやろが」


サングラスの中にある鋭い眼光は、クエスに浴びせられた。どうやら、顔見知りらしいが、そこには嫌な予感しかない。


「あ、あはは!」


私を押し退けて、苦笑するクエスに近付くアニキなる男。内なる殺気が体から漏れ出していてなかなか貫禄がある。彼から漂う名も知らぬ香水の匂いは、それを更に助長させた。


「クエスちゃん。いくらあの方の秘蔵子でも、程がありまっせ」


「も、もーちょっと待ってーな」


「そうはいきませんな。親父さんも、流石に今回の件は溜まりかねてるんですわ」


うん、これは確実にヤバい。ヤクザを怒らすなんて一体クエスは何をしでかしたんだろうか。まあ、大体この手は金銭的なものが多い……ん……?



「オヤジさん、まずいんか」


「人が善意で貸した金を、ぜーんぶパチンコに使(つこ)うて返さんのやから当たり前の結果ですわな」


「それは、謝るけど」


「謝って済む話しや無いでしょう! 700万でっせ!? 人が人なら名古屋港で魚のエサになるレベルの額や」


なるほど。

なるほど。

私たちがここまでやって来たことは、つまり、借金返済が目的だったと言うわけか。想像以上に下衆な事情で溜め息をつきたくなる。


「兎に角、ワシらに連いてきてもらいまっせ。向こうで親父さんがどういう処遇するかはわかりませんが、今なら指の一本無くなるくらいで済みます」


「くらいって……それ全然軽くないやん!」


「こなけりゃ、さらに 悲惨 なことになるだけでっせ。ウルシバラの力は、よーわかっとりますやろ?」


「うぐ……」


唸るクエス。

何か大きな権力的な存在がこの柳ケ瀬界隈の裏側にあるのだろうか。どうやら、なかなか物騒な事に巻き込まれているようだ。ただ、逆にそれが、私とガブリエルブレインの存在を更に近づけた気がしなくもない。


「観念しなはれや」


「しかし、指……」


仕方ないですなあ、なら、罪はないですが、そうしたくはないんですが、そこのお嬢ちゃんたちに犠牲になっていただきましょか」


「!!」


どうやら、借りたものを返させるには手段を選ばないと言うことか。止むを得ん。町中だが聖剣フラガラックを……


「わかった!」


今まで弱気だったクエスが急に強い口調で言葉を発した。


「ほう、やっと覚悟を決めましたか」


「オヤジさんとこ、行くよ。その代わり、この子んらは見逃してな」


「わかっとります」


クエスは私とまく朗に背を向けてヤクザだろう二人に近寄った。そして、背中越しに語りかける。


「ごめんな。あんたらを騙してしもうて、ホントにごめん」


「クエスさん……」


「まく朗ちゃん、ジャンヌ様。赦してもらおうなんて烏滸(おこ)がましい思わんよ。私は悪いことをしたんやから、罰を受けて当然なんや」


「何でパチンコで借金なんて……」


  「取り返そうと思って、繰り返したらこのザマや。ウチみたいになったらいかんよ。ウチみたいに何も引きとめる事のできない人間に、な」


「……」


「さよなら、短い間やったけど楽しかったわ」


 意味深な事を吐いて、クエスは猫背になって男たちに連行されていく。さて、どうしたものか……と、迷うジャンヌ・ダルクではない。このままクエスと2度と会えなくなったらガブリエルブレインの手懸かりが無くなるし、こう言ったピンチをみすみす見捨てては聖女の名が真の意味で廃る。


「ジャンヌ様……」


「後をつけるぞ」


「そうこなくっちゃ! 所謂ステルスミッションですね~」


楽しそうなまく朗と共に、私たちはこっそりと男達の足取りを追う。追跡任務は前世でもよく行ったし、引きこもり時代を経ているので気配を消すのには慣れている。さて、行き着く先には何が待ち受けているのやら……













評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ